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第3章 イーディスとモーラ

イーディス

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 リチャードが干し草の隙間で震える羽目になる十日前。ちょうど、ヒルダがゴーガ人の儀式の中で髪を切った頃。

 イーディスは『大鴉の町』を目前にしていた。

 そこは『神吹の湖』から南西に馬で一日。『竜の大河』の支流に沿った低地で、背後に『黒い森』を擁し、年中じめっとした不吉な土地だった。

 領主はハーラ。土地に負けず湿気っぽい男で、腹の底が見えない。

 どういう縁か七大騎士でもないのにエドワード王と遠くなく、腹心エドマンドや、その永遠のライバルといわれるエセルバートも、ハーラの動きには注意を払っていた。

 なにせ別名『拷問王』だ。居城『鴉城』の薄暗い地下室は迷宮になっていて、夜な夜な罪人に責苦を与えているという。

 男まさりにズボンを履き、帯剣したイーディスは、自慢の豊かな赤髪をなびかせ、今、颯爽とその地に足を踏み入れた。
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