ほら、こんなにも罪深い

スノウ

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前世を思い出した私、壁に頭を打ち付ける



 私の家はごくごくありふれた伯爵家だ。

 伯爵家当主である父ダグラス、その妻の母カミラ、そして一人娘である私ルディアの3人家族だった。
 私達は特別仲の良い家族ではなかったけれど、お互いがそれなりの距離感を保って、家族として上手くやっていたはずだった。

 少なくとも、10歳のあの日までは。

 私が10歳の時、お父様が突然見知らぬ少年を屋敷に連れ帰ってきたのだ。
 お父様は困惑するお母様と私を気にする様子もなく、淡々と話を進めた。


「この子は今日から我がエルドリッジ伯爵家の一員になる。カミラ、ルディア、家族として仲良くしてやってほしい」


 ───は?

 部屋の空気が瞬時に凍りつく。
 お父様はそんな私達の心を置き去りにしたまま、少年に自己紹介するように促した。


「……サフィールです。9歳です。よ、よろしく…お願いします……」


 おどおどした様子でそれだけを言うと、彼…サフィールはうつむいて黙り込んでしまった。

 さて、ここで問題になるのはサフィールの素性だ。
 彼は何者なのか。
 孤児?お父様が孤児院から引き取ってきたの?慈善活動の一環として?

 それならまだ良かったのだが、サフィールの容姿はお父様によく似ていた。

 サラサラした亜麻色の髪に、まるでサファイアのような瞳を持つサフィールは、それはもうお父様とそっくりだったのだ。
 お父様は断言していないけれど、まあおそらくはお父様の実子なのだろう。

 言うまでもないことだが、お母様はサフィールを産んでいない。
 そうなると雲行きが怪しくなってくる。

 つまり、お父様は外でお母様以外の恋人をつくり、その女性に子どもを産ませていたということではないだろうか。
 そして、9年間もそれを隠していたということになる。

 まあ、その場は当然修羅場と化すよね。

 お母様は烈火の如く怒り狂い、お父様に説明しろと詰め寄った。
 しかし、お父様はサフィールの母親の名前を口にすることはおろか、ろくな説明をする様子もなく、ずっとだんまりである。

 私は私で突然できた弟を素直に受け入れられずにいた。
 それというのも、父親の愛情をサフィールに横取りされてしまうのではないかという不安でいっぱいになってしまっていたのだ。

 お母様と私はサフィールの受けいれを最後まで拒否し続けたが、残念ながらその場で一番の権力者はお父様だ。

 結局はお父様に押し切られるかたちですべてが決まり、サフィールは伯爵家で暮らすことになった。




 それから5年の月日が流れた。

 私は15歳になり、サフィールは14歳になった。

 サフィールが伯爵家に来てからというもの、お父様とお母様の仲は険悪になってしまい、お母様の怒鳴り声が毎日のように屋敷中に響いた。

 それにうんざりしたのかはわからないが、お父様はだんだんと屋敷に帰ってこなくなり、今ではめったに屋敷に寄りつかなくなってしまった。

 もしかすると、サフィールの本当の母親のところに行っているのかも、なんて嫌な想像をしてしまう。
 
 どうしてお父様はサフィールを引き取ったのかしら。そのせいで私達家族は壊れてしまったというのに。

 お父様が屋敷に寄りつかなくなったことで、それまでお父様に向かっていた怒りの矛先がサフィールヘと向かうようになった。

 それまでも私とお母様はサフィールを居ない者のように扱ってはいたが、直接的に何かすることはなかった。

 しかし、お父様が屋敷に帰らなくなったことで完全にタガが外れてしまったのか、私とお母様はサフィールを直接攻撃するようになった。

 サフィールの部屋は使用人部屋に移され、食事は残飯に。お母様の機嫌が悪ければそれすら与えられない。

 さらに、お母様は時々サフィールの部屋に行っては彼を折檻するようになった。
 それを真似して私もサフィールを痛めつけるようになっていった。

 私達家族がメチャクチャになったのは全部サフィールのせいよ。だからこれは当然の報いなの。私は悪くないわ!

 愚かな私は、本気でそう思っていたのだ。

 まだ子どもだったサフィール自身には、なんの罪もなかったというのにね。


 そうして15歳になった私は流行り病に罹り、生死の境をさまよった。

 流行り病を乗り越え次に目覚めた時、私は日本人だった前世の記憶を思い出していた。

 そして、今までサフィールにしてきたことを正しく理解した私は、無言でベッド脇の壁に頭を打ち付けた。何度も何度も。

 心の中で『私の大バカ者ーー!!』と叫びながら。

 


 

 
 

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