ほら、こんなにも罪深い

スノウ

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伯爵令嬢はお亡くなりになりました



 お母様は一命を取り留めた。

 かなり危ない状態で、サフィールが魔法を解除するのがあと少し遅ければ、手遅れになっていた可能性すらあった。

 お母様の体調はすぐには戻らず、当分の間は介護が必要になるそうだ。


 そんなお母様だが、対外的には病死扱いにされるとのことだ。ちょうど流行り病に罹っていたことだし、真実を知る者が口を閉じてさえいれば大丈夫……なのかしらね。

 お母様は体調が戻り次第、お屋敷の地下に幽閉される予定だ。

 重い罰だが、数々の罪を重ねてきたお母様を知っているだけに、同情する気にはなれない。

 罪を重ねてきたのは私も同じだが、私を責めていいのはサフィールだけだ。サフィールが私への罰を望むなら、私はそれに従うまでだ。

 お母様のことはお父様に任せるとして、私のほうも予定どおり死亡扱いにされた。お母様と同じく流行り病が原因での死亡だ。

 こんな簡単に死を偽装できるのは、領内が流行り病の対応で手一杯だからだ。医者の数が足りないため、死亡確認のために人員を割くことができないのだという。

 私とお母様の葬儀はひっそりと身内だけで行われ、墓地には空の棺が埋められた。




 私は人目を忍ぶように伯爵家を出て、領内にあるお屋敷に移り住んだ。……サフィールと一緒に。

 私はサフィールを最後まで説得したのだが、彼はどうしても私についていくと言ってきかなかった。
 最終的には私のほうが折れ、ふたりで仲良く馬車に乗ってここまでやってきたというわけだ。

 サフィールはお父様に「次にお会いする時は当主を交代する時になるでしょう」と言っていた。
 ……サフィール、何年ここにいるつもり?
 私と一緒にいても、領主の仕事は身につかないわよ。


 そんなわけで、ルディア・エルドリッジは死に、私はただのルディアになった。
 来月にはルディア・モーガンになる予定だ。書類上では子爵令嬢になるそうだ。

 ルディアの名も改名したほうがいいのでは?と思ったのだが、サフィールはそれを却下した。「その名前は姉さんによく似合ってるから」だそうだ。
 ……まあ、そう言われて悪い気はしないわよね。



 さて、ようやく伯爵家を出られた私だが、私はサフィールに外出を禁じられている。

 サフィールは「まだ流行り病が終息していませんから」と言うが、それならどうしてサフィールは外出しているのだろう。

 流行り病が噂されるようになってから、もうかなりの時間が経つ。流行り病はまだ終息していないのかしら。


「……せっかく自由になれたのに、これでは以前とあまり変わらないわね」


 そんなことを考えつつ、暇つぶしの書物を読み進める毎日だ。




「ルディア、ただいま」

「お帰りなさい、サフィール」


 このお屋敷で生活するようになってから、サフィールは私を『姉さん』ではなく『ルディア』と呼ぶようになった。

 伯爵令息であるサフィールが私を姉さんと呼んでしまうと、私の素性がバレるからね。

 このお屋敷には新しく雇った使用人達が働いているから、彼らに私達の関係を悟られるわけにはいかないのよ。


「外の様子はどうだった?」

「領内はようやく落ち着いてきましたよ。代官のバートン殿と話ができたんですが、彼はとても優秀な人物でした」

「そう……サフィールはもう次期当主として動いているのね」

「僕は、存在すら周知されていなかった跡継ぎですからね。流行り病のような大変な時期に顔を売っておくのは当然のことですよ」

「そこまで計算の内なの?サフィールは凄いわね」

「はは。計算高くなければ、あの女と渡り合うことはできませんでしたからね」

「サフィール……」


 あの劣悪な環境を生き抜いてこられたのは、サフィールの必死の努力があってのことだったのね。

 そういえば、気絶したふうを装ったりもしていたわね。あれは、それ以上暴力を受けないための知恵だったのかしらね。なんだか悲しくなってきたわ。

 私は気分を変えるため、話題を変更することにした。


「領内が落ち着いたということは、流行り病が終息したのでしょう?私、そろそろ外に出たいわ」

「ルディア。外に出るのはいいけれど、せめて僕がいる時にしてください。絶対に変な男が寄ってきますから」

「う……変な男なんて、そうそう街を歩いていないでしょう?」

「甘いですよルディア。男なんて、常によこしまな考えを抱いているものなんですから」

「……」


 それ、盛大なブーメランでは……?

 サフィール……あなたもれっきとした男よね。あなたも常によこしまなことを考えているの?……なんて、流石に訊けないけどね。変な空気になるのも困るし。


「そうは言うけど、サフィールは今大事な時期なのでしょう?私と出かける時間なんてあるの?」

「……しばらくは難しいですね。ルディアには申し訳ありませんが、当分の間はここでおとなしくしていて下さい」

「……わかったわ」


 サフィールは次期領主。
 今のうちに各方面に顔を売り、代官から領主の仕事を教わることは、サフィールにとって重要なことだと思う。

 私のわがままでサフィールを煩わせてはいけないわね。私はもう彼の姉ではないのだから。



 その後、サフィールと夕食をとり、少し談笑したあとに寝室に移動する。


「さあ、ルディア。今日も一緒に寝ましょうね」

「……」

「ルディア?」

「……ねえサフィール。やっぱりこれはおかしいわよ」

「何もおかしくありませんよ。以前も一緒に寝ていたではありませんか」

「それは……回復魔法を使ったあとで、魔力切れだったからで……」


 サフィールの言う通り、私達は同じベッドで眠ったこともあった。

 お母様がお元気だった頃、彼女は毎日のようにサフィールを痛めつけていたから。

 サフィールは私に傷を治療してもらうため、転移魔法を使って私の部屋に飛んできていた。
 治療が終わったあとの私はいつも魔力切れで、私はそのまま気絶することが多かった。

 それを「一緒に寝ていた」と言われればそうかもしれない。でも……


「僕はルディアと一緒だとよく眠れるんです。僕の安眠のために協力してもらえませんか?」

「……わかったわ」

「ふふ。ありがとうございます。……おやすみ、ルディア」

「ええ。おやすみなさい」


 サフィールはいつものように私の隣に横になると、そのまま目を閉じる。
 当たり前だが、変なことはしてこない。ただ隣で寝るだけだ。


「……」


 サフィールと一緒に寝ることに関しては、私個人としては特に問題はない。
 こう言ってはなんだが、もう慣れた。
 何ならふたりとも上半身裸で寝たことさえあるのだ。並んで寝るくらいなんでもない。

 でもね、今の私達は姉弟ではなくなってしまったのよ……

 ここの使用人はサフィールのことを「若様」と呼ぶ。私のことは「ルディア様」呼びだ。

 何を言いたいかというと、このお屋敷の主はあくまでもサフィールで、私は彼女達の主人ではなく、ただの客人扱いだということだ。

 このお屋敷の所有者はお父様だろうから、使用人の対応はこれで合っているといえば合っているのだけど……。

 私は使用人達に、サフィールの恋人、あるいは火遊びの相手だと思われている気がする。
 だって、一緒に暮らしているばかりか、毎日同じ部屋で寝ているんだもの。

 これは、サフィールにとってあまりいい状況だとは思えない。

 サフィールが女性(私)と暮らしていることは、いつかは外にバレると思う。

 せっかく伯爵令息としての地位を取り戻したというのに、このままでは他家から結婚の打診がくることはない気がする。もう相手がいると思われるでしょうからね。
 

「私……このままでいいのかな……」



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