ハルピュイアの遠い空

スノウ

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モンスターも楽じゃない

ドラゴンなんて聞いてない

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 ハルピュイア達を見送った私は、このまま 西の山を探索することにした。

 できればここにいるモンスターと戦い、さらなるレベルアップを図りたい。
 もちろんハルピュイア達と戦うつもりはない。友好的なモンスターとも。

 今のところ、同族のハルピュイア以外で私に友好的だったモンスターはいないけどね。

 空を飛んで上空からモンスターを探してもいいが、なかには地中に潜っているモンスターなどもいるため、最初はくまなく探索するほうがいい。
 そう思い、今回だけは徒歩で山を探索することにした。

 そのおかげか、何体かのモンスターと遭遇し、無事勝利することができた。

 戦った感想としては、森に出現していたモンスターよりはだいぶ強い印象を受けた。
 シールドが何度か破られそうになり、ヒヤヒヤしてしまった。


「うーん…この辺りにはモンスターがいないのかしら」


 山の奥に進むと、モンスターがめっきり減り、今ではまったく遭遇しなくなってしまった。

 この辺りはゴツゴツした岩がそこらじゅうにあって歩きづらく、見通しも悪い。
 ここでの探索は諦め、別の場所に行こうかな。

 そう思いかけた時、何の前触れもなくいきなり地面が揺れた。


「え、地震!?」


 驚きのあまり自分が飛べることを忘れ、揺れに耐えるために近くの岩につかまる。

 地震はしばらく続き、揺れは収まるどころかだんだん大きくなっているような気がした。

 私は日本人としての記憶があるからか、地震ヘの恐怖が強く、ギュっと目を瞑ってひたすらじっとしていた。

 しばらくして揺れが収まってきた気がして私が目を開けると、目の前にはあり得ない光景が広がっていた。


「……ドラゴン……」


 体長10メートルを超えるほどの大きさのドラゴンが私の視界に映っていた。
 大きすぎて全貌がわからない。

 先程の揺れは地震ではなく、このドラゴンが移動する時の振動だったらしい。


「っ、逃げなきゃ」


 かろうじてそう考えるだけの理性は残っていたようで、私は慌てて上空に避難する。

 ドラゴンは私を気にしてはいるものの、ここまで飛んでこようとはしなかった。

 私はそんなドラゴンの様子をビクビクしながら観察して、あることに思い至った。


「……もしかしてこのドラゴン、飛べないの…?」


 ドラゴンの背中には、申し訳程度の小さな羽がついている。

 常識的に考えて、あの小さな羽ではドラゴンの巨体を空に浮かべることはできないだろう。
 あの羽は、ドラゴンが進化の過程で巨大化したことで飛行しなくなり、退化したものなのかもしれない。

 つまり、あの羽は飾りということだ。

 私は安全な上空でドラゴンを見つめる。
 
 ドラゴンもこちらを見ている気がする。


「……逃げたほうがいいんだよね」


 あちらが格上の存在なのはひと目でわかる。ドラゴンの攻撃をまともに食らえば即死。

 誰に言われなくても本能的な恐怖が私にそう教えてくれる。

 今すぐ拠点に引き返すべきだ。

 そう思うのだが、同時にこれはチャンスなのでは、とも思ってしまう。
 
 だって、このドラゴン、飛べないんだよ?

 つまり、私が空中にいる間はドラゴンの攻撃が当たらないということだ。

 そして、ドラゴンを倒せたならば、膨大な経験値が手に入ることは確定的だ。
 もしかすると、進化できるだけの経験値を一気に獲得できるかもしれない。

 
「………」


 戦う?それとも逃げる?

 逃げてもいい。
 しかし、このドラゴンとはもう二度と遭遇できない可能性もある。
 何度かこの山に来たことがあるが、地震のような揺れを感じたのは今回が初めてだった。

 それはつまり、ドラゴンが姿を現すことは滅多にないということではないだろうか。

 うん、決めた。

 私はドラゴンと戦う。

 いざというときは飛んで逃げるという選択肢もある。今はやるだけやってみよう。

 そうと決まれば話は早い。

 私はドラゴンに向けて先制の一撃を放った。


「【ウインドバレット】!」


 無数の風のつぶてがドラゴンに襲いかかる。


『グルゥ……』


 しかし、ドラゴンはダメージを受けた様子はなく、痛がる素振りもない。

 ……レベル差が大きすぎてダメージを与えられないの?

 私のスキルは口に出して詠唱する分、他のモンスター達よりも威力が高いはずだ。
 それでもこの程度のダメージなの?

 私が呆然としていると、ドラゴンがこちらに向けて何かを投げてきた。


「っ、危なっ……」


 私はそれをすんでのところで躱す。

 私が避けたことで、その何かは私を通り越して後方の地面に激突する。


「…岩?あのドラゴン、岩を投げたの?」


 後方の地面を振り返ると、砕けた岩が転がっていた。

 嘘でしょ…。
 あんな大きな岩を投げられるなんて、どれほどのパワーがあるの?
 恐ろしすぎる。

 …接近戦を挑んでいたら、私の身体は粉々にされていたでしょうね。
 ドラゴンを甘く見すぎていたかもしれない。

 脳裏に〈撤退〉の2文字が浮かぶが、それでもなんとか踏みとどまる。
 私はまだすべての力を出し尽くしたわけではない。
 諦めるにはまだ早すぎる。

 私はドラゴンの行動に注意を払いつつ攻撃を続ける。


「【ウインドランス】!」

『ガァッ……』


 今度は少しダメージを与えられたみたい。

 それでもドラゴンからしてみれば微々たるダメージだったようで、まだまだ余裕の表情だ。

 ……いや、ドラゴンの表情なんて私にはよくわからないんだけどね。なんとなくの雰囲気の話だ。


「よ…っと、また投げてきた。怖いぃ」


 岩はそこらじゅうに転がっている。
 つまり、投げるものはまだまだあるということだ。
 攻撃することばかりに気を取られていては危険だ。

 ……でもなぁ。
 攻撃しないと倒せないんだよね。
 ドラゴンの外皮は固く、防御力が高そうだ。

 このまま攻撃し続けても大したダメージを与えられそうにない。

 
「…防御が薄そうな場所といえば、…目?」


 鼻の穴と口の中もいけるかもしれない。

 私は試しにドラゴンの左目に向けてスキルを放つ。


「【ウインドランス】!」

『グガァアア!』


 初めてドラゴンが痛そうなリアクションをした。
 これはいける…?


『ガァアアッ』

「え、うわっ、嫌、当たるー!投げてこないでぇ。【ウインドシールド】!!」


 ドラゴンが投げた岩がシールドに当たる。
 シールドはパリン、という音をたてて砕け散った。


「嘘…シールドが……」


【ウインドシールド】を破られたのはこれが初めてだ。
 私はその事実に戦慄する。

 このシールドは防御の要だ。
 これがあるからある程度安心して戦えていた面も大きい。
 それが破られたとなると、攻撃をシールドで受けるという選択肢はなくなったということだ。

 もう一度シールドを張り直すことはもちろん可能だ。
 しかし、ドラゴンの攻撃を防ぐことができないとわかった以上、これに頼った戦法はもう使えないだろう。


「うう、撤退……いや、まだやれる」


 私はドラゴンの左目を重点的に狙うことにした。
 最終的に両目を潰すことができれば勝機はある。


「【ウインドバレット】!…弱いか。【ウインドランス】!」

『ガァッ』


【ウインドバレット】の攻撃力では足りないようだ。今後は【ウインドランス】を主軸に戦っていくしかない。









「はあ、はあ、はあ、はあ」


 もう何時間も戦い続けている。

 辺りは暗くなり、ドラゴンの全体像がわかりにくくなってきた。

 全く見えないわけではないが、左目をピンポイントで狙っている私には難易度が高い。


 ……そう。
 あれから何時間も経つのにまだドラゴンの左目は潰れていない。どんな耐久力だよ。
 もし固い部分を狙っていたら一生倒せなかったんじゃないかな。恐ろしい。

 私はこれ以上戦闘を続けるか迷っていた。

 ドラゴンはまだまだ体力が有り余っており、対する私は疲労の色が濃くなっている。

 あらかじめ持参した木の実を合間合間に口に入れてエネルギーを補給しているが、いつまで経ってもドラゴンが倒れないことで、精神的な疲労のほうが強い状態だ。

 撤退することは可能だ。
 しかし、ここまで戦って何も得られないというのはつらい。
 迷った末に、私は戦闘続行を選ぶ。


 大丈夫、私はまだ戦える。








 翌日。日が昇る時刻になり、辺りが明るくなってくる。


「……やった。やっと左目を潰せた」


 一晩中かかって、私はやっとドラゴンの左目を潰すことに成功した。
 
 ドラゴンのほうも、投げる岩がなくなってきたことで私ヘの攻撃手段がなくなりつつある。

 このまま攻撃を続ければ勝てるだろうが、私の体力はそれまでもつのだろうか。

 ドラゴンが死ぬのが先か、私が力尽きるのが先か。

 結末はわからないが、それでも私は戦闘を続ける。
 ここまでくればもう意地だ。
 最後まで戦い抜いてやる。

 もはやまともな思考ができないほどに疲れ果てていたが、それゆえに撤退という選択肢が頭からなくなっていたともいえる。

 こうなれば、どちらかが倒れるまでやるだけだ。私は再びドラゴンに攻撃を繰り出した。









 それからさらに2日が経過した。


『ガァッ……グルゥ……』


 ドオン、という地響きをたて、ドラゴンは地面に倒れた。しばらくはそのままだったが、ドラゴンはやがて光の粒子になって消えていった。


「はぁっ、はぁっ……お、終わった…」


 長い戦いだった。長すぎる。
 そして、ドラゴンが固すぎる。

 ドラゴンの両目を潰すことに成功してからは、こちらが攻撃を受けることはほぼなくなり、精神面に余裕ができた。

 しかし、体力はもう限界で、いつまでも倒れないドラゴンを前に何度も絶望を味わった。

 一旦引いて、後日このドラゴンと再戦するという方法は取れなかった。
 モンスターの回復力が凄まじいことは、自分の身をもって知っている。

 一晩寝たら全快、なんてことになれば、私の苦労が水の泡になるので、どうしてもここでケリをつける必要があったのだ。

 格上だとはわかっていたが、私の想像以上にドラゴンとのレベル差があったのだろう。
 倒すのに3日もかかるなんて予想もしていなかった。
 もう、一歩も動けそうにない。

 私はふらふらと地上に降り立つ。


「あ、身体が……」


 ドラゴンを倒したことで、膨大な量の経験値が私に流れ込んでくる。

 今まで倒したことのあるモンスター達とは比べ物にならないほどの、とてつもない量の経験値だ。

 膨大な経験値が私の身体中を駆け巡り、身体が破裂してしまいそうな恐怖を覚える。


「身体が…熱い……」


 あのドラゴン、いったいどれ程のレベルだったというのだろう。

 食事を食べ過ぎた時のように、経験値を消化するまでに時間がかかりそうだ。
 私の身の丈に合わない量を取り込んだせいなのは間違いない。

 私はその場にうずくまり、この熱が引くのを待った。

 どれくらい経ったのかわからないが、私はだんだんと身体の熱が引いていくのを感じた。

 
「…よかった。身体が破裂するかと思ったよ」


 私はヨロヨロと身体を起こした。

 その直後、再び身体に異変が起こる。
 身体全体が謎の光に包まれ、私は急激な眠気に襲われる。


「な…に…?まさか、進化するの…?」


 私は起き上がっていられなくなり、再び地面に倒れた。
 仰向けに倒れたことで、視界の端にグリフォンが飛んでいる姿が映る。

 ああ、そういえば今日で20日が経つんだね。
 今日はウェズリーとの約束の日だ。
 ドラゴンとの死闘を繰り広げていたことで、その事が頭からすっぽり抜けてしまっていた。

 ウェズリーには申し訳ないが、今の私はラシュアの樹がある場所まで辿り着けそうにない。


「ウェズリー……ごめんね…」


 私の目蓋がゆっくりと閉じられる。

 この眠りから覚めた時、私は進化を終えているのだろう。この強烈な睡魔には抗えそうにない。

 ウェズリー、会ってお礼を言いたかったけれど、それはできそうにないや。
 ごめんなさい。

 
 私の意識はそこで途切れた。

 


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