天国スカウト断って地獄で改革始めます!

佐伯すみれ

文字の大きさ
2 / 9
まずは掃除から始めましょう!

まずは掃除から始めましょう!

しおりを挟む
翌朝。新品のゴム手袋をキュッとつけて、私はエプロンとマスクの完全装備でアゼルの執務室へ足を運んだ。
あの後、アゼルはその場で買い物に行ってくれて、頼んだものを全部買ってきてくれた。業務用の掃除機、雑巾、消臭剤、その他もろもろ。

「……仕事が早い! やればできるじゃない、アゼル!」

私はそう言って、アゼルの背中をバシバシ叩いた。

アゼルは顔を赤らめながら、

「俺の部署のことだし……まあ、必要最低限として……」

と、頬をぽりぽり掻きながら、なぜか恥ずかしそうに答えた。

アゼルのオフィスに再び足を踏み入れる。
昨日よりも部屋の空気が軽い。窓を開けた効果か、少しだけ風が通っている。

「よし、まずは書類の仕分けからね。アゼルさん、この“未処理”って書かれた山、何年分?」

「……たぶん、五年くらい?」

「地獄って、時間止まってるの?」

私は呆れてため息をついた。
セロスはあれから『白の世界』へ戻っていったが、なんとなくまた来そうな気がする。

私は書類に付箋を貼りながら、ジャンル別に分け始めた。
その様子をアゼルは黙って見ていた。
そして何かを思いついたのか、おもむろに傾いていた棚へ向かい、黙々と修理を始めた。

私が黙々と書類整理に勤しんでいると、

「一息つこう。お茶でも入れてくるよ」

と、アゼルが給湯室へ消えていった。

しばらくして、湯呑みを持って戻ってきたアゼルだったが、足元のコードに引っかかり、バランスを崩す。

「わっ!」

手から湯呑みが飛び、熱いお茶が私の足元にこぼれた。

「熱っ!」

『仮死者でも、痛みはあるんだ……』
そんなことを思いながら、私は反射的に後ろへ下がった。
だが、掃除機のコードに足を取られて転び、真ん前に立っていたアゼルの胸元に倒れ込んだ。

ドンッ。

顔が、近い。
赤い瞳が驚で見開かれる。
私は一瞬固まり、アゼルの胸板の硬さと体温に気づいて、慌てて跳ね起きた。

「ご、ごめん! コードが……!」

アゼルは無言で立ち上がり、乱れたネクタイを直す。
その仕草が妙に色っぽくて、私は思わず目を逸らした。

廊下の向こうからセロスの声が響く。

「なんでや! なんで掃除でラブコメみたいな展開になっとんねん! ワイの白の世界ではそんなイベント起きへんぞ!」

「ラブコメって、そんなんじゃないわよ! 事故よ! ハプニング!!
てか、あんたまた来たの!? 『白の世界』でラベンダーアロマに癒されてなさいよ!」

私は顔を赤くしながら、再び書類の山に向き直った。

アゼルは、

「……茶、入れ直してくる」

とだけ言い、盆を抱えて給湯室へ消えていった。
気のせいか、給湯室へ向かう彼の耳が赤かった気がした。

給湯室から戻ったアゼルは、人数分のお茶の入った盆を片手に、器用に何かを一緒に持ってきた。

「……これ、使え」

アゼルがお茶と一緒に差し出したのは、救急箱だった。

「ありがと。少し、休憩入れましょうか。わたし、足の様子確認したいし」

今度は私が給湯室へ向かった。

濡れた靴と靴下を脱ぎ、つま先を確認する。

「あちゃー、少し赤くなってる。まあ、熱湯がかかったんだから当然か」

私は不格好ながら、足を給湯室のシンクに突き出して、しばらく流水で冷やした。

「大丈夫か?」

不意に給湯室に現れたアゼル。
私は足を冷やすためにマキシワンピースを太ももまでたくし上げていた。
私の足と太ももに、自然とアゼルの視線が走る。
やがて彼は慌てて後ろを向き、顔を真っ赤にして、無言で給湯室を去っていった。

「何、あんなに慌ててるんだろ?」

程よく足先が冷えたところで、近くにあったタオルで足を拭き、救急箱から『冷えピタ』を取り出す。
応急処置としてつま先に貼り、ズレないように包帯で固定。
まだ湿っている靴下を履き直し、靴を履いた。

そして給湯室を見回してみた。

「ここも掃除しなきゃ……」

水垢が溜まり、タオルや雑巾もいつ洗濯されたのか分からない。
漂白剤の気配もない。

「なんか、排水溝からヤバげな匂いもするし……」

汚ければ汚いほど、俄然燃えてくる。

『徹底的に綺麗にしてやろう』

という思いが込み上がる!

「よーし! 続き、頑張るぞー!」

手当を終えた私は、見えない強敵——
“混沌とした黒の世界庁舎”の汚れと雑然とした書類の山を今日中に片付ける決意を胸に、給湯室を出て、“戦場”となるアゼルの執務室へ再び向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

招かれざる客を拒む店

篠月珪霞
ファンタジー
そこは、寂れた村のある一角。ひっそりとした佇いに気付く人間は少ない。通称「招かれざる客を拒む店」。正式名称が知られていないため、便宜上の店名だったが。 静寂と平穏を壊す騒々しさは、一定間隔でやってくる。今日もまた、一人。

よくある風景、但しある特殊な国に限る

章槻雅希
ファンタジー
勘違いする入り婿、そしてそれを受けてさらに勘違いする愛人と庶子。そんなお花畑一家を扱き下ろす使用人。使用人の手綱を取りながら、次期当主とその配偶者の生きた教材とする現当主。それをやりすぎにならないうちに収めようと意を痛める役所。 カヌーン魔導王国では、割とよくある光景なのである。 カヌーン魔導王国シリーズにしてしまいました(笑) 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

お母さんはヒロイン

鳥類
ファンタジー
「ドアマット系が幸せになるのがいいんじゃない」 娘はそう言う。まぁ確かに苦労は報われるべきだわね。 母さんもそう思うわ。 ただねー、自分がその立場だと… 口の悪いヒロイン(?)が好きです。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

処理中です...