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大宰相と会った。
フィル様は翌日にフェリ様に会うと話し、フィル様の命を捧げることには反対すると告げた。
言いたいことだけ言って部屋を出る俺の背中に向かって、大宰相が言葉を投げつける。
「ラズール、おまえは何もわかっていない。呪われた子の宿命を!この国には女王が必要なことを…!」
「知る必要はない。俺にはフィル様が全てだ」
後ろを振り返らずにそう吐き捨ててその場を去る。その足で今度はトラビスの元へ向かった。
あいつはフィル様がバイロン国にいた理由を知っている。詳しく聞き出さねばならない。
部屋にトラビスの姿はなく、もしやと修練場に行くと、トラビスが熱心に剣を振るっていた。
「精が出るな」
「…何用だ」
先ほど追い返されたことを根に持っているのだろう。俺を睨んで低く答える。
俺はベンチに座ると「聞きたいことがある」と睨み返した。
トラビスが剣を鞘におさめて近寄る。そして身体ひとつ分離れて腰を下ろす。
「なにを」
「フィル様はなぜバイロン国にいた?バイロン国になにかあるのか?」
「フィル様からは聞いてないのか?」
「聞ける状況ではなかったからな」
「ふーん」
額に流れる汗を袖で拭いながら、トラビスが意味深な目で俺を見る。
「なんだ」
「直接聞くのが怖かったんだろ。フィル様はこのひと月ほどで、ずいぶんと印象が変わられたからなぁ。誰かの影響かもな」
「誰かとは誰だ」
「バイロン国にいる誰かだよ」
俺の胸がザワザワと騒ぎ出す。なんだ?何があった?フィル様に影響を与えた誰かがいるのか?
「俺がフィル様を刺した話はしただろ。あの時に助けに来た高貴な男は、バイロン国の第二王子だった。この前に使者として行った時に、初めて知った」
「…王子?」
「そうだ。隣国の第二王子は、フィル様のことをかなり気に入ってるようだな。まるで騎士のようにフィル様を守りながら旅をして、自分の城に連れ帰ったらしいぞ」
「気に入ってるとはどういう…」
「さあな。それはフィル様に直接聞いたらどうだ?」
「……そうだな」
俺は立ち上がると、トラビスに背を向けて修練場を出た。
胸の中が気持ち悪い。嫌な予感がする。
まさか…フィル様と隣国の王子は…。いや、考えすぎだ。二人の間にあるのは友情だ。王子という同じ立場で気が合っただけだ。
だが、そもそも隣国の王子は、フィル様がイヴァル帝国の王女の片割れだと知っているのか。フィル様はそこまで話されたのだろうか。
フィル様の口から直接聞くのは気が進まないが、はっきりさせないことには胸の中の気持ち悪さが消えない。
とりあえずは城に戻ってから何も口にされていないフィル様のために料理を用意してもらい、フィル様の部屋に行く。
外から声をかけると、眠そうに瞼をこするフィル様が顔を出した。その可愛らしい様子に少しだけ気持ちが楽になる。
中に入り料理の入ったカゴを机に置いて、寝癖のついた銀髪を撫でた。
フィル様が首を傾けて俺を見上げる。
「なにかあった?大宰相に怒られたの?元気がない」
表情を顔に出さないようにしていたのにフィル様に気づかれてしまった。困ったけど俺のことをよく見てくれているんだと嬉しかった。
しかしトラビスに聞いた隣国の王子のことが気になって、俺はイライラとしていた。
そんな俺の心境に気づいて、フィル様が不安そうに涙を浮かべている。
その顔が可愛くて、俺は困ったように笑った。
「そのような顔をしないで…。申し訳ありません。本当に俺の勝手な想いなのですよ。食事の後で話しますから、先に食べてください」
「わかった…」
フィル様が椅子に座り、食事をする様子を眺める。何をされていても愛おしい。
しかしこの後に、バイロン国の王子のことを聞くのが怖い。可愛らしい口から吐き出される言葉を聞くのが怖い。俺は冷静でいられるだろうかと、とても不安になった。
フィル様は翌日にフェリ様に会うと話し、フィル様の命を捧げることには反対すると告げた。
言いたいことだけ言って部屋を出る俺の背中に向かって、大宰相が言葉を投げつける。
「ラズール、おまえは何もわかっていない。呪われた子の宿命を!この国には女王が必要なことを…!」
「知る必要はない。俺にはフィル様が全てだ」
後ろを振り返らずにそう吐き捨ててその場を去る。その足で今度はトラビスの元へ向かった。
あいつはフィル様がバイロン国にいた理由を知っている。詳しく聞き出さねばならない。
部屋にトラビスの姿はなく、もしやと修練場に行くと、トラビスが熱心に剣を振るっていた。
「精が出るな」
「…何用だ」
先ほど追い返されたことを根に持っているのだろう。俺を睨んで低く答える。
俺はベンチに座ると「聞きたいことがある」と睨み返した。
トラビスが剣を鞘におさめて近寄る。そして身体ひとつ分離れて腰を下ろす。
「なにを」
「フィル様はなぜバイロン国にいた?バイロン国になにかあるのか?」
「フィル様からは聞いてないのか?」
「聞ける状況ではなかったからな」
「ふーん」
額に流れる汗を袖で拭いながら、トラビスが意味深な目で俺を見る。
「なんだ」
「直接聞くのが怖かったんだろ。フィル様はこのひと月ほどで、ずいぶんと印象が変わられたからなぁ。誰かの影響かもな」
「誰かとは誰だ」
「バイロン国にいる誰かだよ」
俺の胸がザワザワと騒ぎ出す。なんだ?何があった?フィル様に影響を与えた誰かがいるのか?
「俺がフィル様を刺した話はしただろ。あの時に助けに来た高貴な男は、バイロン国の第二王子だった。この前に使者として行った時に、初めて知った」
「…王子?」
「そうだ。隣国の第二王子は、フィル様のことをかなり気に入ってるようだな。まるで騎士のようにフィル様を守りながら旅をして、自分の城に連れ帰ったらしいぞ」
「気に入ってるとはどういう…」
「さあな。それはフィル様に直接聞いたらどうだ?」
「……そうだな」
俺は立ち上がると、トラビスに背を向けて修練場を出た。
胸の中が気持ち悪い。嫌な予感がする。
まさか…フィル様と隣国の王子は…。いや、考えすぎだ。二人の間にあるのは友情だ。王子という同じ立場で気が合っただけだ。
だが、そもそも隣国の王子は、フィル様がイヴァル帝国の王女の片割れだと知っているのか。フィル様はそこまで話されたのだろうか。
フィル様の口から直接聞くのは気が進まないが、はっきりさせないことには胸の中の気持ち悪さが消えない。
とりあえずは城に戻ってから何も口にされていないフィル様のために料理を用意してもらい、フィル様の部屋に行く。
外から声をかけると、眠そうに瞼をこするフィル様が顔を出した。その可愛らしい様子に少しだけ気持ちが楽になる。
中に入り料理の入ったカゴを机に置いて、寝癖のついた銀髪を撫でた。
フィル様が首を傾けて俺を見上げる。
「なにかあった?大宰相に怒られたの?元気がない」
表情を顔に出さないようにしていたのにフィル様に気づかれてしまった。困ったけど俺のことをよく見てくれているんだと嬉しかった。
しかしトラビスに聞いた隣国の王子のことが気になって、俺はイライラとしていた。
そんな俺の心境に気づいて、フィル様が不安そうに涙を浮かべている。
その顔が可愛くて、俺は困ったように笑った。
「そのような顔をしないで…。申し訳ありません。本当に俺の勝手な想いなのですよ。食事の後で話しますから、先に食べてください」
「わかった…」
フィル様が椅子に座り、食事をする様子を眺める。何をされていても愛おしい。
しかしこの後に、バイロン国の王子のことを聞くのが怖い。可愛らしい口から吐き出される言葉を聞くのが怖い。俺は冷静でいられるだろうかと、とても不安になった。
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