銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ラズールの唇が触れる寸前で、僕は顔を伏せる。ふ…と息が漏れて、僕の額に熱く柔らかいものが押し当てられた。
 柔らかいものがすぐに離れて、僕は手を上げて額を触る。

「ラズール…なにしたの」
「キスを」
「挨拶の?」
「違います。愛しいあなたに触れたくて」
「僕とラズールは家族だから?」
「違います……フィル様」

 ラズールが眩しそうに僕を見つめて髪に触れる。
 僕はこの目を知っている。リアムが僕を見る時と同じだ。…そうか、そうだ。ラズールはずっと、こんな目で僕を見ていた。僕はラズールのことを兄のように思っていたから、そういう目だと認識していなかった。

「ラズール…ごめん」
「まだ何も言ってませんよ」
「うん、でもごめん。僕はリアムを愛してる」
「存じております」
「ラズールのことは大好きだよ。兄として、信頼できる部下として。でもそれ以上には思えないよ…」
「それで充分ですよ。俺はただ、俺の本当の想いをあなたに知ってほしかっただけ。それを口に出してはダメですか?」
「うん…出さないで。わかったから…出さないで」
「わかりました。俺が死ぬ時まで取っておきましょう」
「なにそれ…。僕の方が先に死ぬよ」
「それは有りえません。そんなことは許されません」
「だって僕の身体の痣、知ってるだろ?これが無害だとは思えない」
「それについては調べています。必ず治す方法を…見つけますので…」
「ラズール?」

 ラズールの声が小さくなる。苦しそうに荒い息を吐いて、頭を下ろして固く目を閉じる。
 僕は慌ててラズールの顔を触った。驚くほどに熱い。

「苦しいのっ?待ってて!すぐに薬をもらってくるから…っ」
「待っ…行くな…」
「わかったっ、行かない!」

 僕の手を掴むラズールの手も、とても熱い。それにラズールがわがままを言うなんて、かなり辛いのかもしれない。
 先ほどトラビスは出ていったけど、きっと部屋の近くで待機しているはず。
 ラズールが僕の手を強く握りしめて放さないので、僕は扉に向かって大きく息を吸った。

「トラビスっ、来て!」

「なぜ…あいつを…」とラズールが文句を言ったけど、トラビスは頼れる人物だ。やはり部屋の近くにいたらしく、すぐに駆けつけてくれた。

「どうされましたか?」
「ラズールに高熱が出てる!どうしよう…」
「熱が?毒は抜けて化膿もしていないのに?」
「そうだけどっ」
「失礼。ふむ…確かに。すぐに医師を呼んできます」
「お願いっ」

 トラビスが医師を呼びに行く間も、僕はずっとラズールの手を握りしめていた。その間にも、どんどんとラズールの身体が熱くなる。
 
「僕のせいだ…あの時…僕をかばったから…」

 ラズールは口を開くのも辛いらしく、苦しそうに繰り返し熱い息を吐き出していた。

 
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