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二日間城に滞在した。薬のおかげでフィル様の顔色が少しよくなってきたので、いよいよ国に戻るために動き出した。
医師に礼を言って、まだ夜も明けきらぬ暗い中を出発する。
ゼノが話してくれた脱出方法は、王城の騎士が知らない道を進むというものだった。そんな簡単な方法でうまく逃げられるのかと不安でたまらなかったが、ゼノの言うことを聞く他ない。
城を出て一つの小さな村を通り過ぎ、次の街も通り過ぎた先にある森の中で、ゼノが馬の足を止める。ゼノの後ろにいる第二王子も、俺とトラビスの後ろから付いてきたジルも止まる。
俺は腕の中のフィル様を抱きしめて「なんだ?」と低く聞く。
ゼノが馬を降りて俺の傍に来た。
「ラズール殿、あそこに小さな家が見えるだろう。あの家に住む少年は、フィル様の友達だそうだ。彼に協力してもらって国を出る」
「は?王城の騎士が知らない道を行くというのは」
「ああ、あれはウソだ。医師を騙すための」
「なに?あの医師は素晴らしい人物ではなかったのか?」
「確かに腕はいい。志も素晴らしい。だが金に汚くてな。俺達が城を出た直後に、第一王子に報せるために城を飛び出していったよ」
「…ジル殿が遅れて来たのは、医師を尾行していたからか」
「そうだ」
俺はフィル様を抱く腕に力を込める。
人とは信頼できないものだ。どれほどの優れた人物でも、何かしらの欠点がある。俺がこの世で信頼できるのはフィル様だけだ。
「それで?」とゼノに話の先を促す。
「あの家に住む少年はノアと言って、フィル様がバイロン国で腹を刺された時に助けてくれたそうだ」
「ああ…おまえがやったあの時のことか」
チラリとトラビスに目をやると、「深く反省している」と言いながらトラビスも馬から降りてきた。
「ノアには先に手紙を届けて話してある。ノアが合流した後は、俺だけが国境までついて行く。リアム様が一緒だと目立つので、ジルと共に王城に戻ってもらう」
「そうか。それがいい。いつ俺が剣を抜くかわから…」
「ラズール!それ以上は言うなっ、不敬だぞ」
「なぜ?俺の主はフィル様だけだ」
「ラズール殿、もう少しの辛抱を。あの家の前に馬を並べると目立つ。ここに置いて行くぞ」
「わかった」
俺はフィル様に振動を与えぬよう、注意を払って馬を降りる。馬の手綱を木に縛りつけようとしていると、第二王子が傍に来た。そして「フィーを…」と腕を出してくる。
絶対に渡したくなかったが、相手は他国の王子。散々失礼な態度をとってはきたが、ここで無視をしてフィル様を返さないと態度を変えられては困る。
俺は渋々とフィル様を第二王子の腕に預けた。
第二王子はフィル様を抱きかかえると、愛おしそうに目を細めて頬を寄せる。
そのような顔をするほど好きなら、なぜ頭を打ったくらいで忘れたのだとまた腹が立った。
医師に礼を言って、まだ夜も明けきらぬ暗い中を出発する。
ゼノが話してくれた脱出方法は、王城の騎士が知らない道を進むというものだった。そんな簡単な方法でうまく逃げられるのかと不安でたまらなかったが、ゼノの言うことを聞く他ない。
城を出て一つの小さな村を通り過ぎ、次の街も通り過ぎた先にある森の中で、ゼノが馬の足を止める。ゼノの後ろにいる第二王子も、俺とトラビスの後ろから付いてきたジルも止まる。
俺は腕の中のフィル様を抱きしめて「なんだ?」と低く聞く。
ゼノが馬を降りて俺の傍に来た。
「ラズール殿、あそこに小さな家が見えるだろう。あの家に住む少年は、フィル様の友達だそうだ。彼に協力してもらって国を出る」
「は?王城の騎士が知らない道を行くというのは」
「ああ、あれはウソだ。医師を騙すための」
「なに?あの医師は素晴らしい人物ではなかったのか?」
「確かに腕はいい。志も素晴らしい。だが金に汚くてな。俺達が城を出た直後に、第一王子に報せるために城を飛び出していったよ」
「…ジル殿が遅れて来たのは、医師を尾行していたからか」
「そうだ」
俺はフィル様を抱く腕に力を込める。
人とは信頼できないものだ。どれほどの優れた人物でも、何かしらの欠点がある。俺がこの世で信頼できるのはフィル様だけだ。
「それで?」とゼノに話の先を促す。
「あの家に住む少年はノアと言って、フィル様がバイロン国で腹を刺された時に助けてくれたそうだ」
「ああ…おまえがやったあの時のことか」
チラリとトラビスに目をやると、「深く反省している」と言いながらトラビスも馬から降りてきた。
「ノアには先に手紙を届けて話してある。ノアが合流した後は、俺だけが国境までついて行く。リアム様が一緒だと目立つので、ジルと共に王城に戻ってもらう」
「そうか。それがいい。いつ俺が剣を抜くかわから…」
「ラズール!それ以上は言うなっ、不敬だぞ」
「なぜ?俺の主はフィル様だけだ」
「ラズール殿、もう少しの辛抱を。あの家の前に馬を並べると目立つ。ここに置いて行くぞ」
「わかった」
俺はフィル様に振動を与えぬよう、注意を払って馬を降りる。馬の手綱を木に縛りつけようとしていると、第二王子が傍に来た。そして「フィーを…」と腕を出してくる。
絶対に渡したくなかったが、相手は他国の王子。散々失礼な態度をとってはきたが、ここで無視をしてフィル様を返さないと態度を変えられては困る。
俺は渋々とフィル様を第二王子の腕に預けた。
第二王子はフィル様を抱きかかえると、愛おしそうに目を細めて頬を寄せる。
そのような顔をするほど好きなら、なぜ頭を打ったくらいで忘れたのだとまた腹が立った。
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