銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 声をかけて部屋に入ると、医師が驚いた顔をした。

「おや、先ほど渡した薬が効きませんでしたか?」
「いや、聞きたいことがある」

 俺は部屋の中央にある椅子に座る。そして窓以外の全ての壁に作られた棚を見回した。

「いつも思っていたが、すごい薬の量だな」
「全然少ないですよ。世界には、優れた薬がもっとたくさんあります。それで何を聞きたいのですか?」

 医師は薬草をすりつぶす作業を続けたまま、チラリとこちらを見る。

「フィル様のことだ。あなたもフィル様が仮死状態になったことは知っているだろう」
「はい。仮死状態から、よくぞ元気に回復されたと安堵しています」
「まあ、そうだな。しかし体力が以前ほど回復していない。すぐに疲れて熱を出す。熱を出すと更に体力が落ちてしまう。俺はとにかくフィル様に元気になってもらいたい。そこで体力回復によく効く薬は無いか、相談に来たのだ」
「体力回復の薬…ですか」

 医師はようやく手を止め、腕を組んで考え込んだ。考え込んでいるということは、ここには該当する薬が無いのだろう。
 しばらくして医師は、薬棚に挟まれた本棚から分厚い書物を取り出すと、真ん中辺りを開いて頷いた。

「ああこれだ」
「あったのか?」
「ええ、北のデネス大国に、弱った身体によく効くという鉱石があるのですよ」
「鉱石?薬草ではなく?」
「はい。鉱石の中に含まれる成分が、薬になることもあるんです。ただ、かなり険しい山の中にあるらしく、デネスの中でもほとんど出回っていない。なので他国の者が手に入れることはできません」
「なるほど。金を積んでもダメなのか?」
「ダメです。入手する方法があるとすれば、自ら取りに行くくらいですかね」
「ほう、行っていいのか?」
「いいみたいですよ。その山を所有する領主に許可をとり、入手した鉱石の半分を渡さなければいけませんが」
「そうか。いいことを聞いた。感謝する」

 音を立てて立ち上がり、足早に扉に向かう俺を、医師が慌てて止める。

「ちょっ…!お待ちを!まさか…行くのではないでしょうね…」
「行く。フィル様を元気にできる薬があるとわかったのに、行かないわけがないだろう」
「はあ…止めても無駄ですね。わかりました、少し待ってください」

 医師がゴソゴソと小さな袋に幾つかの薬を入れる。それを俺の手に持たせて笑った。

「これは?」
「様々な薬です。デネスは気温が低いですし、この国に無い病もあります。とりあえず熱冷ましと痛み止めと万能薬を入れておきました。どうかくれぐれもお気をつけて」
「問題ない。だが心遣い感謝する」

 俺は医師に頭を下げると、急いで自室に戻り、紙とペンを掴んでフィル様の元へ急いだ。
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