天狗の花嫁

明樹

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蛇の真白

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俺は膝に頭を乗せて、悶々と考えていた。


ーーはぁ…また怪我しちゃったな…。銀ちゃんに心配かけちゃう。こんな風に何かあっても誰かに助けてもらってばかりで、俺は何も出来ないし…。


はあっ、と大きく溜め息を吐いてると、いきなり頭上から低い声が聞こえてきた。


「あれ?天狗の匂いがすると思って来てみたら、可愛い人間の子がいる…。君、どうしたの?」


びくっと肩が跳ねて、恐る恐る顔を上げる。そこには、少し吊り上がった目が印象的な整った顔の男の妖が、俺を覗き込んでいた。


ーーあ、たぶん…清が言ってた蛇の妖だ。


俺は、震える手を必死で抑えて答える。


「あ、の…、俺、そこの道から落ちちゃって…。登ろうとしたんですけど、足を痛めたみたいで登れなくて。でも、もうすぐ友達が助けに来てくれるから、大丈夫です…」


ほんのり黄色がかった瞳でじっと見つめられて、心臓がばくばくと煩い。
彼はくすりと笑って、俺に手を差し出した。


「友達って、妖狐の?君、天狗の濃い匂いに混じってちょっとだけ、妖狐の匂いも付いてる。あれは絶対にこの中には入れないよ。だから待ってても来ない。この中に入れてあげるわけにもいかないし…ごめんね?ほら、僕についておいで、手当てしてあげる」
「えっ、でも…いいです。待ってるって約束したから…」
「待っててもいいけど、ここに長くいると熊が出てくるよ?」
「ええっ、熊!?う…、じゃあ…い、行きますっ。…ていうか、やっぱりあなたは妖なんですね…わあっ」


彼が俺の腕を引っ張って立たせたと思ったら、ひょいと背中に背負った。


「君…すごく軽いね。ふふ、天狗の匂いを付けてるだけあって、僕の事もわかるんだね。そうだよ、僕は蛇の妖だよ。名前はましろ。真に白と書く。君は?」
「俺は椹木(さわらぎ)って言います。木へんに甚平の甚と木です…。あの…どこに行くんですか?
「近くに僕の家があるんだ。そんなに時間はかからないよ。手当てしたら友達の所に送って行ってあげる」
「あ、はい…ありがとうございます」


彼が良い妖か悪い妖かはわからないけれど、今の俺にはどうしようも出来なくて、ぽつりぽつりと話しながら、彼の背中で揺られるしかなかった。


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