ふれたら消える

明樹

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 俺と青は、ずっと仲が良かった。
 喧嘩けんかをしたこともなかった。
 それは俺が青を怒れないということもあったし、青も俺を怒らせるようなことをしないからだ。
 俺と青は、何をするにも一緒だった。
 学校に行く時も帰る時も、ご飯を食べる時もお風呂に入る時も、そして寝る時もどちらかのベッドで一緒に眠る。
 だけど常に一緒の俺達はおかしいのかもしれないと、中一の時に気づいた。


 中一にもなると、クラスの男子の中には、ちらほらと好きな女の子が出来る子がいた。
 話の話題も、誰が可愛いとかの話になる。
 教室の窓際の俺の席で、俺と夏樹が、帰りに何か食べて帰ろうと話していると、隣に集まっていた三人の内の一人が、話しかけてきた。

「森野と宮下、おまえらは好きな奴いねぇの?」
「いないよ。昊は?」
「俺もいない」

 その男の子は、どこか安心したような顔をした。

「そっかぁ。おまえらイケメンだからさ、彼女がいるのかと思ってた!」
「あはは!ありがとう。でも俺は別にイケメンじゃないけどな。それに今は部活してる方が楽しいし」
「夏樹、サッカー上手うまいもんな。俺も弟と遊ぶ方が楽しいかな」
「あー、昊は青と仲いいよな」

 俺と夏樹の会話を聞いて、男の子は「えっ!」と驚いた顔をした。

「なんだよ。大きい声出して」
「いや…えっ?森野って弟と仲いいの?弟って何歳?」
「二つ下だけど…」
「俺、三個下の妹いるけどさ、喧嘩ばっかだぜ?それか男同士の方が喧嘩しないもん?」
「さあ…。他の家は知らないけど、俺は弟と喧嘩したことないよ」
「へえっ、めずらしいなっ」
「青は昊には素直だもんな。俺には突っかかってくるけど…」

 俺は青のことが可愛い。たとえ青が我儘わがままを言っても、きっと笑って許してしまう。
 他の兄弟がいる人達も、皆そうだと思っていた。俺達兄弟は、他の兄弟よりも少し仲が良いかなとは思っていたけど、皆同じだと思っていた。
 でもそうか…。もしかして俺と青みたいに仲が良すぎるのは、珍しいのかもしれない。
 黙って考え込んでしまった俺に、夏樹が明るい声を出した。

「昊が優しくて出来た兄ちゃんだから、青も昊には素直なんだよな。おまえさ、妹には優しくしてるのかよ?」
「…してない。だってあいつ、我儘なんだよっ」
「妹の我儘なんて可愛いもんだろ。優しくしてたらさ、可愛い友達を連れて来るかもよ?」
「えー?小学生になんて興味ねぇ」
「まあ確かに…」

 話してる途中で授業開始のチャイムが鳴った。話していた子は自分の席に戻り、夏樹も俺の肩を叩いて席に戻る。
 俺は、ぼんやりと窓の外をながめて、青のことを考えた。

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