ふれたら消える

明樹

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「大丈夫?怖かったよねぇ」
「ケホッ…、ありがとう…ございます」
「クソっ!離せっ」

「ちょっと待ってね」と笑って、長身の男が篠山を建物の向こうへ連れて行く。
 俺が首をさすって待っていると、すぐに戻って来た。

「アイツ逃げていったよ。君の恋人だとか言ってたけどホント?」
「違う…」
「そう?なら良かった。痴話喧嘩ちわげんかの邪魔しちゃったのかなぁと思って」
「いえ、助かりました」
「そんな固くならないでよ、ねぇ森野くん」
「…え?なんで俺の名前…」
「あー、やっぱり俺のこと知らなかったんだ。同じ高校なんだ。隣のクラスの柊木ひいらぎです。よろしく」
「隣の…。ごめん、クラスの人しか顔、覚えてない」
「いいよ。俺が森野くんを覚えてたのは、有名だからだよ」
「有名?」

 俺は首から手を離して柊木の言葉を繰り返した。
 柊木が長めの前髪をかきあげる。整った顔立ちに思わず見とれてしまう。アーモンド型で色素の薄い瞳。まるで宝石みたいだなと考えていると、手が伸びてきて俺の首に触れた。

「ここ、赤くなっちゃったね」
「え…跡ついてる?」
「うん。結構な力で押さえられたんだね。あんなの、傷害事件じゃん」
「俺が油断してたから。あー…跡ついてるのか…」
「なんかまずいの?」
「まあ…。ところで有名ってなんだよ」

 俺は少し横に移動して、柊木の手から逃れた。
 柊木は自身の手と俺を交互に見て笑う。

「知らない?森野くん、綺麗きれいでモデルみたいだって女子の間でうわさになってる」
「モデル?おまえの方がモデルみたいじゃん。背が高いしかっこいい」

 でも青の方がかっこいいけど…とは声に出しては言わないけど。
 柊木は、なぜかテンション高く喜んだ。男の俺にめられて嬉しいのか?変なやつだ。

「えー、森野くんにそう言われるなんて光栄だなぁ。ね、携帯番号教えて?これから仲良くしよう」
「まあいいけど。助けてもらった借りを返さないとだし」
「困ってる人を助けるのは当たり前のことだから、別にいいよ。でも…んー、じゃあさ、夏休み入ったら、俺の行きたい所に一緒に行ってほしいな」
「わかった。予定が合う日に行こう」
「ありがとう。俺、森野くんと話してみたいと思ってたから、今日会えてよかったよ」
「俺と話しても楽しくはないと思うけど。あと、昊でいいよ」
「いいの?じゃあ昊、俺のことはつなぐって呼んで」
「つなぐ…」
「そう!繋げるって書いてつなぐ。じゃあまた連絡するなっ、バイバイ」
「うん」

 柊木が大きく手を振りながら建物の角を曲がる。
 長身の姿が見えなくなると、俺は忘れていた暑さを感じて一気に疲れてしまった。そしてなるべく日陰を選びながら来た道を戻り始めた。
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