ふれたら消える

明樹

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「ど…」こに行くの?という俺の声は、昊の言葉によって遮られた。

「おまえさぁ、近所のコンビニの前であんなことするなよ。誰かに見られたらどうすんだよ」
「どうもしない…」

 前を向いたまま話す昊の後頭部に向かって、小さく呟く。
 昊はチラリと振り返って俺を見ると、「とりあえず家に帰るぞ」と握る手に力を込めた。
 俺は手を引かれるままに足を前に出す。昊に言いたいこと、したいことがたくさんある。だけど今は言わないしやらない。口を開くと、また昊に逃げられてしまうかもしれない。繋がれているこの手を離したくない。だけど一つ気になることがあって、静かに聞いた。

「買い物は?いいの?」
「もう用事は済んだ。家に帰ろうと思ったら、おまえがすごい顔で走ってったからさ、気になって後を追いかけた」
「え?すれ違ってた?どこで?」
「手前のコンビニの近く。ただごとじゃない様子にビビったっつーの」
「なんだ…いたんだ」
「…俺を探してたのか?」
「そうだよ…」
「ふーん」

 それから二人で無言で歩いた。家に着き手を繋いだまま玄関を入りリビングに向かう。まだ母さんが帰っていなくて、相変わらず時計の音だけが響いている。……いや、今は俺の鼓動の方が大きく聞こえている。
 リビングの扉を閉めると、昊が手を離して俺の正面に立った。俺を見上げて何か言いたそうにしているけど、口を開かない。
 俺はもう、我慢しない。我慢できない。だから、そっと昊を抱きしめて、耳のそばで「昊」と囁いた。緊張していたから想像以上の掠れた声が出た。でも名前を呼んだ瞬間、想いが溢れて涙も出た。声も出さずに涙を流していると、昊の手が俺の腰に触れた。拒絶されなかったことに安堵して、小さく息を吐く。それが首をかすめたのか、昊が微かに震えた。

「なぁ」
「…ん」
「先生に送ってもらったのか?」
「違うよ…。俺が課題を忘れたから、取りに来たんだ」
「そっか」
「うん」

 先生のこと、気にしてたの?なんで?と聞きたいけど、その前に言いたいことがある。
 俺は深呼吸をすると、抱きしめる腕に力を込めた。

「昊」
「なに」
「俺の話…聞いてくれる?」
「ああ」
「ちゃんと最後まで、聞いてくれる?」
「聞くよ」
「約束だよ」
「わかった」

 もう一度深呼吸をして、秘めてきた想いを伝える。

「俺は、昊が好き」
「うん」
「兄弟の好きじゃない。恋人としての好きだよ。それに昊のこと、性的に見てる」
「……」
「ごめん…昊に気持ち悪いと思われても、俺は昊が好きだよ」
「青…」

 昊の声が震えている。やっぱり怖がらせてしまったのかな。今、どんな顔をしてるのだろう。見るのが怖い。けど見たい。
 俺は昊の首に伏せていた顔を上げた。そして目を瞠る。だって昊も、俺と同じように泣いていたんだ。
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