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ロジェさんは隠せる人だ。
実はセイジテキな人なのだと心に留め置かなければならないだろう。さすがは支配者層と言うべきか。本人は素知らぬ顔しているが、その手はどこまで伸びているのかと邪推してしまう。怖い。けど、それが魅力的でもある。まぁ、僕があけっぴろげ過ぎだという考え方もあるかもしれないけど。
汚した下穿きごと水浴びをする。旧倉庫が近くなっただけでなく、水場も近くなったのは、存外の利点だった。部屋の端の甕に、常備ものとして水をためてはいるのだが、汲みに行くのも近くて助かる。
濡れたものを脱いで、旧倉庫にそのまま干しておく。近いし人通りも少ない。すれ違ったとしても知った顔。何食わぬ顔で歩く先に人影があった。
「お前、またかよ」
部屋の前でリビオたち三人にばったりと出くわした。彼らは緊張の面持ちだったのに、一瞬であきれ顔になっていた。そう言えばロジェさんが集めていたな。彼らとしても、早速森に入るのだろうと解っていて、それなりの覚悟で来たのだろう。
「緊張が解れてよかったじゃないか」
「バカ。お前が抜けすぎなんだよ。全く」
「ハイハイ。で、早く開けてよ」
水を満たしたバケツを両手で持っていたこともあって、開けてもらう。やっぱりロジェさんも、険しい顔をしていた。僕を見つけても、眉一つ動かさなかった。それもそれで悔しい。
円卓にみんなが座れば、ロジェさんが口を開いた。彼が言ったことは、みんなが予想していた通り、明日森に入ってみるとのことだった。
「初めだから、無理はせずに帰ってくる。迷わないように印をつけていく。万が一はぐれるようなことがあり、合流は難しいとの判断になれば、ただちに引き返すよう。また、はぐれた仲間を探して森の奥に進むようなことはするな」
どっちの立場になってもお互いの首を絞めないようにするための覚悟。
マークは赤色の布。これを帯にして石や樹に括りつけていく。帰りは目印を辿って行けば帰れるはずだ。
「念のため食料は持っていくが、最低限だ。繰り返しになるが、明日は調査のための事前調査だ。どれくらいの距離で、どのくらいの魔獣が出てくるのかを確認することがひとまずの目標とする。しばらく同じ作業を行い、区画を定め、その危険度を計ろうと思う」
記録はルシアンがすることになった。僕含め他の三人には字が書けないから当然だ。
「地図のようなものを作ると言うことですか」
そのルシアンが問う。
「そうだ。まず地図がないか探してみたが無かった。あったとしても、森の姿が日々変わっているため、どこまで信用できるかも信用できなかっただろう。つまり、全く白紙からだ」
ロジェさんが答えた。
「地味ですね」
テオが言う。
「派手にしたいか」
ここで言う派手と言うのは、魔獣との立ち回りしかない。
「いえ、すみません」
「まぁ、いずれは嫌でもそうなるだろう」
皆、昨日のオオトカゲを思い出したのか、顔を険しくしたり、身震いをした。
「地味ではあるが、今後のための確かな指針となる。決して気を抜くな」
明朝の為に備えるよう指示され、その場は解散となった。
部屋に二人残される。
ロジェさんは机に肘をついて、両手を顔の前で合わしている。瞳は瞼に隠され、目元には深い影が落ちていた。隊長として思うところがあるのだろうか。
僕は静かに立ち上がり、燭台に火を入れた。高い窓から差し込む光はすっかり消えていた。
実はセイジテキな人なのだと心に留め置かなければならないだろう。さすがは支配者層と言うべきか。本人は素知らぬ顔しているが、その手はどこまで伸びているのかと邪推してしまう。怖い。けど、それが魅力的でもある。まぁ、僕があけっぴろげ過ぎだという考え方もあるかもしれないけど。
汚した下穿きごと水浴びをする。旧倉庫が近くなっただけでなく、水場も近くなったのは、存外の利点だった。部屋の端の甕に、常備ものとして水をためてはいるのだが、汲みに行くのも近くて助かる。
濡れたものを脱いで、旧倉庫にそのまま干しておく。近いし人通りも少ない。すれ違ったとしても知った顔。何食わぬ顔で歩く先に人影があった。
「お前、またかよ」
部屋の前でリビオたち三人にばったりと出くわした。彼らは緊張の面持ちだったのに、一瞬であきれ顔になっていた。そう言えばロジェさんが集めていたな。彼らとしても、早速森に入るのだろうと解っていて、それなりの覚悟で来たのだろう。
「緊張が解れてよかったじゃないか」
「バカ。お前が抜けすぎなんだよ。全く」
「ハイハイ。で、早く開けてよ」
水を満たしたバケツを両手で持っていたこともあって、開けてもらう。やっぱりロジェさんも、険しい顔をしていた。僕を見つけても、眉一つ動かさなかった。それもそれで悔しい。
円卓にみんなが座れば、ロジェさんが口を開いた。彼が言ったことは、みんなが予想していた通り、明日森に入ってみるとのことだった。
「初めだから、無理はせずに帰ってくる。迷わないように印をつけていく。万が一はぐれるようなことがあり、合流は難しいとの判断になれば、ただちに引き返すよう。また、はぐれた仲間を探して森の奥に進むようなことはするな」
どっちの立場になってもお互いの首を絞めないようにするための覚悟。
マークは赤色の布。これを帯にして石や樹に括りつけていく。帰りは目印を辿って行けば帰れるはずだ。
「念のため食料は持っていくが、最低限だ。繰り返しになるが、明日は調査のための事前調査だ。どれくらいの距離で、どのくらいの魔獣が出てくるのかを確認することがひとまずの目標とする。しばらく同じ作業を行い、区画を定め、その危険度を計ろうと思う」
記録はルシアンがすることになった。僕含め他の三人には字が書けないから当然だ。
「地図のようなものを作ると言うことですか」
そのルシアンが問う。
「そうだ。まず地図がないか探してみたが無かった。あったとしても、森の姿が日々変わっているため、どこまで信用できるかも信用できなかっただろう。つまり、全く白紙からだ」
ロジェさんが答えた。
「地味ですね」
テオが言う。
「派手にしたいか」
ここで言う派手と言うのは、魔獣との立ち回りしかない。
「いえ、すみません」
「まぁ、いずれは嫌でもそうなるだろう」
皆、昨日のオオトカゲを思い出したのか、顔を険しくしたり、身震いをした。
「地味ではあるが、今後のための確かな指針となる。決して気を抜くな」
明朝の為に備えるよう指示され、その場は解散となった。
部屋に二人残される。
ロジェさんは机に肘をついて、両手を顔の前で合わしている。瞳は瞼に隠され、目元には深い影が落ちていた。隊長として思うところがあるのだろうか。
僕は静かに立ち上がり、燭台に火を入れた。高い窓から差し込む光はすっかり消えていた。
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