世界樹の庭で

サコウ

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 リビオが一番目の見張り当番をすることになってはいたが、僕もまだ寝られそうになく、まだ焚火の前にいた。ぱちぱちと空気が爆ぜる音がきっと眠気を誘ってくれるはず。暖かいミルクを舐めながら、踊る青の炎を見つめていた。
「ナセル」
「ん」
 焚火の前に居るのはリビオと僕の二人だ。テオはそもそも寝てしまっていたし、ロジェさんも先にテントに入っていた。
「しばらくだな」
「そうだね」
 獣の処理で昼間は忙しそうだし、夜は部屋が違うから合わないしで、確かにゆっくりと顔をあわしている時間は無かった。会ったとしても作業しながらとかで、雑談なんてできていなかった。
「大丈夫か」
「うん」
 何をさして大丈夫なのかはわからない。いや、この問いは僕の事ではなく彼のことだ。
「リビオは?」
「まぁ、うん」
 やっぱり。歯切れの悪い返事だ。こういう時のそれは、アレだ。町にも行けずに悶々としているらしい。
「溜まってるの」
 ばれた、と言うように決まりの悪い顔をして首の後ろを掻いている。どれだけの付き合いだと思っているんだ。バレバレだってば。
「……お前は抜けてんのかよ」
「それどころじゃないから」
 ごめん、ロジェさんとよろしくやってる。ロジェさんに言っていた抜き合いの相手は実のところ彼だ。その彼を前にして、なんでか罪悪感が湧いてくる。
「そうか」
「テオは?」
 ルシアンは、そもそもそういった事には薄いから省くとして、そう言う事情なら付き合ってくれるのはテオだ。
「最近は女中を捕まえたりしてた」
「あー……なるほど」
 それはそれで危ないと感じるのは老婆心か。ずずずとミルクを啜った。テントに視線を動かす。動きはなく静かだ。
「やっとく?」
 見上げた視線が彼とぶつかる。素朴な笑みに心が和む。
「いいのか」
「こんなところで、そんなに気になれるお前に驚きだよ」
「仕方ねぇだろ。ナセルはいいのか」
「ムリムリ、縮こまってる」
 肘打ちされてよろける。ミルクが零れるからやめろよ。
「ションベンしてくる」
 そう言って、僕の肩を叩いてから立ち上がる彼の背中を見送る。それは彼なりの合図だ。光の輪のギリギリまで行って足を止めていた。僕はお湯に浸けたタオルを絞って立ち上がった。ションベン臭いのはごめんだからな。なんとなくロジェさんに対しても申し訳ない気分を引き擦りながら、リビオの方に歩いていく。彼は跡地に土をかけて隠していた。
「そのまま」
 僕が彼の横に立って、タオルを押し付けて拭う。一応見張っている風にリビオは森の方を向いて、僕はテントの方を見るようにする。片手で暖かいタオル越しにそれを揉み上げるように包んだ。
「うぅ」
 それだけでリビオが切なそうに呻く。とっとと出すのが最優先であるのはお互いに了承済みだ。少し乱暴に擦り始めると、彼の腕が僕を掴んできた。
「いつも通りでいいよね」
「ああ」
 肩を当てて、お互いにもたれかかるように立つ。じんわりとお互いの体温を感じるだけで十分なのだ。根本から揉み洗うように指を動かしていくと、それは芯が通ったように立ち上がって僕の手を押し上げた。
「よしよし元気元気」
「うるさい」
 冷たくなったタオルをやめて直に触れていた僕の手は、彼の先走りで濡れている。扱く手が滑ること滑ること。それでもなかなか出してくれなくて、どうしたものかと思う。
「溜まってるのに頑張るね」
「さすがに全くの平常とはいかんさ」
 吐き出す息は荒いのに、これだけ張っているくせに。なんだ往生際が悪いぞ。
「しかたないなァ」
 僕はしゃがんで、彼のそれを口に含んだ。塩気を含んだ独特の匂いが鼻を抜ける。久しぶりの味に酔わされる。舌の上で転がして、先っぽを啜る。それだけでかなり反応が違ってきた。
「あ、ああ」
 荒く、切なく吐き出す息に、こらえきれなかった感情が混じって漏れていた。前後に揺れている僕の頭に彼の手が添えられる。抑えつけられたり、無理やり動かされるのは嫌だと知っているはずで、髪の毛を混ぜるだけに留めておいてくれた。顔周りを撫でまわされて、耳朶を弄られる。行き場のない情感がそこに出ているようだった。
「う、でる」
 その宣言に僕は先っぽを舌で擦って強く啜った。僕の思ったタイミングで吐き出されたそれを喉の奥で受け止めて嚥下した。しばらく口の中で断続的に痙攣しているそれを感じながら、今一度啜り上げて口を放した。
「ぉお」
 そこでもリビオは快楽を感じたらしく声を上げていた。見上げた顔は満足そうに紅潮させ、全速力で走った後のように肩を大きく上下させて息をしていた。
 隣に立った僕の背中をトントンと叩く。感謝の意だ。
「先、戻っておくよ」
 まだ息を荒げている彼を放って、僕は焚火の方に歩き出した。特徴のある風味が口いっぱいに広がり鼻腔に逆流していた。火にかけていたお湯を口に含んでは何度か吐き出してから、やっと腰を下ろす。なんとなくテントから一番遠くを選んでいた。
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