戰國ノ美姫

天地之詞

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堅城燃えて跡も無し

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「もののふ」闇に乗じ敵を覆滅せむと、敵先鋒を急襲し、これを攪乱かうらんせしむるを成功せり。然れども敵もさる者引つ搔く者、衆寡不敵シュウはクヮにテキせず、劣勢を挽回ひきかへすこと能はず。つひに刀折れ矢く、又方々はう〴〵より矢を受く。獅子奮迅、孤軍奮闘。譜代の家臣のたふるとも、弓箭きゆうせんなくんば長槍ちやうさうにて、長槍なくんば太刀たちにて、太刀なくんば脇差にて、脇差なくんば徒手にて闘ひ、多くの敵を斃せしことさながら鬼神の如し。かくて戰鬭に從ふ事一刻約二時間、さしもの「もののふ」も立つこと能はざるや否やの瀬戸際に在り。誰もが今際いまは と思はむとき、側仕へを引き連るる「をんな」あり、「をな」は普段つねの美うて華やかなる装束さうぞくにあらずして、なりは僧兵のごと、艷やかなる御髪み ぐしは純白の布に覆はれ、たをやかなる身体からだは、鎧に守らる。「をとめ」の身に纏ひたる装備は、すべて「もののふ」の豫備そなへなりけり。「もののふ」叫ぶ「汝、何の故にて來りしや、女子をなごの出る幕にはあらざるぞ。」と。「をとめ」答ふ、「御前様「もののふ」はかなくならむとしたまふを見るに忍びざればなり。」「もののふ」再度叫ぶ「我汝に遁ぐべしとぞ言ひ傳へたるぞかし。第六天魔王「織田信長」暴虐ばうぎやくは汝の知る所にあつて、仏寺を焼き討ち聞ゆる悪魔ぞかし。」答へて「れ、父上より夫君「もののふ」をして降らしめよと令あり、さるも我が夫君をして主君を裏切らしむるに忍び無し。かくなれば、我が薙刀を揮ひ汝を助くるこそ我が為すべきなれ」則ちさけぶ「そは、既にして知れり。見ざるべくせしものを如何で申せしや。」答へずして「をとめ」薙刀を揮ひつ敵兵のむれ只中たゞなかに吶喊す。
「をとめ」の戦ひはまこと鬼神をしてかしむるものあり。まことの強きに依るものや。をんな絶叫ぜつけふして薙刀を揮ふ、拙き技なれど囲繞ゐ ねう (周囲ヲ包囲スルノ意)する敵兵をして退かしめ、また二、三を殺す。
真白くありし襷と鉢巻は、血に赤く染む。薙刀を揮ひ、敵兵を薙ぐ。真白くありし布は血に染む、この血は敵か、己が血か。
詠み人知らず
煌々くわう〳〵よるひるとすあかしろ

つるをば知らずにきたり堅城は今燃え上がり何ぞ思はむ
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