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1章

深淵

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 スピカが先を歩きながら振り返り、俺に話しかける。

「ねぇ、コフィ。この橋、見て。名前がスピカ橋なんだって」

 俺は、少し驚いて聞き返す。

「え、スピカ橋?同じ名前なんだね...同じ名前の橋なんて珍しいよね?」

 風格のある老婆が話しかけてきた。

「久しぶりの来訪者じゃな。あたしゃ、村長のクララじゃ。しかもお前さん、スピカとな。もしかして、巨人バオウとサラの子かい?」

 スピカが戸惑いながら返事をした。

「はい...でも、なんでお父さんとお母さんのことを?それに私のことも...」

 クララ村長がしわしわの顔にさらにしわを寄せて喜んだ。

「おぉ、あのお腹の子は、やはり無事に生まれたのか。」

スピカがまだ戸惑いながら聞き返す。

「あの...私が生まれる前に何かあったんでしょうか?」

 クララ村長がほのぼのとした声で言った。

「スピカの両親、バオウとサラが10年前に村へ来たときのことを覚えているよ。まるで昨日のことのようじゃ。
 嵐で船が沈んだ後、2人は、なんとかここアビス村にたどり着いたんじゃ」

 スピカが目を大きく開いてクララ村長に尋ねた。

「それからどうしたんですか?
 お母さんとお父さんは、故郷で一緒に暮らすことが受け入れられなくて、長い旅をしてマツモト村にたどり着いたと聞きました。でも、船が沈んでアビス村に来た話は、初めて聞いた話です」
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