恋する魔女は星の精霊と暮らして悪魔を待つ

山本いちじく

文字の大きさ
1 / 12
悪魔ディエゴ

1

しおりを挟む
「仕方ない、鉄隕石を降らせるか」

 地球と異世界が融合してから数千年間、しょうこは、神として幾多の星を巡って仕事をした後、森の中に館を作り、秘密の場所に神の力を封印した。
 そして、ただの人間の若い女として、魔法や特別な力は一つも使わずに森の奥深くで星の精霊の少年リオと暮らしていた。
 しょうこは、森に迷う人間やモンスターを助け、いつしか住まいは、魔女の館と呼ばれていた。

 ある日突然、しょうこの館の上に、若く美しい悪魔ディエゴが現れた。
 彼は、古の悪魔ルシファーの生まれ変わりで、過去の全ての悪魔と比べても、最強だった。
 彼は、乱暴に巨石を投げつけ始めた。しかし、この館は、あり得ないことに、傷一つついていない。
 そして、ディエゴは、彗星を召喚し、館の何十倍もの大きさの鉄隕石を大気圏に突入、ついに館へ衝突させた。
 鉄隕石の衝突によって、館の敷地を除く一帯の地面はドーナッツ型に消し飛び、周辺の森林が炎に包まれ、数えきれない鳥たちが火と煙の中で森から飛び立つ。 
 地震や地割れが起きて、近くの活火山は、噴煙を上げてマグマを流した。
 鉄隕石の衝突は、地球がこの数億年で受けた中で最大の威力だった。

 その様子を見つけたしょうこは、気高く、しかし怒りをにじませて彼に声をかけた。

「何をしているのですか、あなた。美しいものを壊そうというのは、野蛮そのものではありませんか?」

 ディエゴは驚き、か弱い小娘の神々しさに目を奪われた。しかし、彼は悪魔としてのプライドを保ち、ぶっきらぼうに答えた。

「ただ、この建物の異常な強度を試していただけだ。この館の敷地を守るバリアの頑丈さ、まるで神が作ったかのようだ」

 禍々しい悪魔の眼を真っ直ぐに見つめると、しょうこは、優しく眼を細めて、優雅に首を傾げた。

「それが何か。この私の館を荒らそうとすることなど、決して許しません。たとえ、館の敷地に傷一つつけることができなかったとしても」

 ディエゴは、困惑しながら、気丈な小娘を近くで見つめた。彼にとっては、人間など虫ケラに等しかった。

「お前の館だと?神でもなく、悪魔でさえなく、人間の中でも特に何もできない人間の子が何を言う。嘘をつくにも程がある」

 しょうこは、毒づく悪魔を柔らかく見つめ返して、微笑みながら頷いた。

「いいえ、間違いなく私の館です。私の大切な館を傷つけようとした罰として、あなたには、私の指示したことをしてもらいます。謝罪の気持ちをしっかり込めてやるといいわ」

 ディエゴは、一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。
人が作れるはずがない館も不思議だが、それ以上に理解をこえるのは、なぜこの人間は、悪魔に畏怖を持たないのかということだ。

「何だと?誰がお前の指図を受けると言った?」

 しょうこは、クスッと笑い、流れるような自然な動きで、悪魔の黒々と反った先の丸い一本の角に触れた。

「さ、触るなっ!」

 ディエゴは、怒りを込めて吠えたが、細い手指の弱い握力ですっぽりと角を掴まれたまま、何も出来ずに立ち尽くし、身を任せるしかなかった。

 しょうこは、ディエゴの角から薫る甘く温かいムスクに似た匂いに夢中になった。それは、焼ける森の臭いよりも強く、心地の良い匂いだった。それに、黒く硬い角からは、心地よい熱も感じる。

「それがあなたに相応しいことです。これからは、私の言うことをちゃんと聞くように。そうすれば、もしかしたら、私があなたの罪を許す日が来るかもしれませんよ」

 ディエゴ自身でも理解できないが、意外にも嫌悪感が湧いてこない。しかし、これほど舐められたままでは、邪悪な本性がおさまらない。

「……勝手にしろ。だが……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...