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カリンの勇気
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「そうだな。これからの作戦をどうすべきか、ピッケルとカリンに聞いてみようかな」
ジュージューと肉を焼いている焚き火を囲んで座りながら、ソニレテ団長が、僕とカリンに話を振った。
調査団3人の視線が僕とカリンに集まる。
え?
試されている。というか、実践を経験値にさせようとしてくれている。そんな雰囲気。
どうしよう。なんにも考えてなかった。
「はい!ソニレテ団長!あたしから作戦案があります!」
カリンが手を上げて、飛び上がるように立った。
え?カリンが?
また変なことを言い出すんじゃないかな。大丈夫かな。
ソニレテ団長がカリンの発言を促した。
「よし。カリン、話してごらん」
カリンが考えを整理しながら、慎重に話し始めた。
こんなに大人っぽいカリンを初めて見た。カリンの目がキラキラと輝いて見える。
なんだか、ドキドキする。
「結論は、昼食後、すぐにパスカル村に退却がよいかと。
ムレクマがここまで降りてきているということは、これより先はすでに魔獣が侵入している可能性が高いと考えます。
熊の毛が一部焦げていたのも気になります。
もし炎犬が1匹でもいれば、人類には太刀打ちできません。
他のムレクマの村がパスカル村を襲うことも考えられます。
会えるかどうかも分からない精霊を目指して、全滅の危険を犯すより、パスカル村に戻って、村の護衛と全村人の移住を含めた計画を立て直す必要があります」
え?退却?!パスカル全村人の移住?!どういうこと?
ガンダルが言っていたのは、こういうことか。
全然わかっていなかった。
それに、カリンがこんなに色々考えていたなんて。自分の幼さが恥ずかしくて、顔が赤くなってカァっと熱くなった。自分だけが置き去りになってしまってる。
ポンチョが、満足そうに言った。
「ふふふ。カリン、いいわ。
自分で育てたキキリを使ったキュアの魔法も見事だったし、戦略も立てられる。
王都カラメルに帰ったら、ククル魔法院の研究生として推薦状を書いてあげるわ。キキリも自分で育てて売れば、学費も問題ないでしょう。もちろん、カリンが望めば、だけど。ゆっくり考えてみて」
カリンが身体を震わせながら、手をぎゅっと握りしめている。怯えながら、勇気を振り絞っているのが分かる。
「あ、あたし、行きます!ずっとチャンスを待っていました。床拭きでも、片付けでも、荷物持ちでも、なんでもやります。
新しい魔法を見つけるのが、私の夢です!
あたしに挑戦する機会をください!」
ポンチョが立ち上がって、震えるカリンの肩を抱く。
「よく言えたわ。立派よ、カリン。
私に着いて王都カラメルのククル魔法院にきなさい。パスカル村についたら、私からカリンのご両親に話しましょう」
「あ、ありがとうございます!
あたし、必ず役に立つ魔法使いになります!」
カリンが王都カラメルに?カリンの背中が遠くなって行く。胸が張り裂けそうになる。自分の不甲斐なさに。
元の世界でも、こんなにも勇気を出して、チャンスに手を伸ばしたことがない。。。
そうだ。今、10歳だからじゃない。元の世界の僕がこの場にいたとしても、熊と戦う力も意気地もないし、先の見通しも立てられない。チャンスを掴もうという野心もない。それが悔しい。
僕は、何も成長していない。
ガンダルがカリンに感心して、うなずく。
「カリンのこと、俺も応援するぜ。
しかし、今日も続く地震といい、何かもっと大きな災厄の前兆のような気もする。
精霊に話が聞けるなら聞いておきたいところだが、炎犬がいたら、全滅するしかない。せめて水の魔法が発見されていたら戦いようもあるのにな。
カリンが言うように、ひとまず、退却すべきってことだ」
ヤードルが短く言った。
「同意だ」
僕は。。。全くついて行けていない。1人だけ思慮が足りない。僕も何か言わないと。
「あ、青信号も安全な訳じゃない。。。と思います」
ソニレテ団長が穏やかに言った。
「どういう意味だい?青信号という信号は見たことがないが」
あぁ、焦って変なことを口走ってしまった。
「い、いや、なんでもないです。帰り道も、気をつけていきましょう」
あーー!ダメだ。やってしまった。穴があったら入りたい。
ソニレテ団長がみんなを見渡して言った。
「確かにそうだな。
状況は、想定した中で最悪の一つと言っていい。
実は、この焚き火が、異変があったことと退却を知らせる狼煙も兼ねている。
エタンは賢者だな。
今日は風も少ないし、パスカル村のエタンに煙が充分見えているだろう。
熊肉をスモークして美味しく食べるためでもあるがな」
何もいいところを見せられなかった。悔しくて、恥ずかしい。
ガンダルが、そんな僕を慰めるように僕の肩をポンと叩く。
「ピッケル、前を向け。
こういう悔しい経験を大切にしな。
ほら、肉が焼けたぞ。脂がのって、程よく燻されて、こりゃあいい!
味わって食べろよ。
いつだって、目の前の飯が最後の飯だと思って食うんだ。
だから、俺は、飯にはこだわる」
あぁ。自分の未熟さが嫌になる。パンセナが焼いて持たせてくれたパンと一緒に食べる熊肉は、確かに美味かった。ガリっと荒い強めの岩塩が、燻された肉の旨みを濃厚にしている。ほろ苦く、しょっぱい味が記憶に残る。
「美味しい!ポンチョ、この焼いたプシュロ最高!」
「外はカリカリ、中はとろぉーりね!カリン、この塩甘のクルッキに挟むともっと美味しいわよ」
「ポンチョ!これはいくらでも食べれますね!」
「うふふ。まだまだあるわよ」
カリンとポンチョは、甘い匂いを漂わせながら大きなマシュマロのような物を焼いて、クッキーのようなクルッキに挟んで食べて、盛り上がっている。
いいな。楽しそうで。
僕もこの経験で強くなろう。
ソニレテ団長の指示で、足が1番早くて山道に慣れている荷物持ちのダンが走ってパスカル村に戻り、状況を伝達することになった。ダンの荷物をトラクとカーゴを手分けして背負う。
それから5人で山を下っていく。
少し下ったくらいのところで、先頭を歩いていたソニレテ団長が足を止めた。
ガンダルとヤードルとポンチョが静かに防御体制になる。ズンと重々しい緊張が走る。
あ!
ダヨダヨ川側の茂みから炎犬が1匹、現れた。
水位が減ったダヨダヨ川を死の森の炎犬が飛び越えきたんだ!
恐怖の記憶が蘇り、ガタガタ震えが止まらない。
そんな中、カリンが落ち着いてキキリの準備をする。
カリンは、戦うつもりなんだ。自分のできることを必死に考えてる。
僕は?僕にできることは?
炎犬は、炎をまとった異形ではあるけど、身体の小さな犬だ。
でも、その小さな身体から放たれる絶望のオーラがすごい。もはや死神だ。たった一吹きの炎で、全員を焼きつくす。
ソニレテ団長の剣技も、ガンダルの鍛えた肉体も、ヤードルのナイフや弓矢、ポンチョの魔法も、やっと掴みかけているカリンの将来も、僕の重ねた努力も、全てが一瞬で燃えて灰になる。
逃げることもできないし、攻めることもできない。
炎犬が目の前に現れた時点で、人類に勝ち目はない。絶対に避けなけばならない遭遇。
死の宣告に等しい炎犬は、あまりにあっさりと現れた。
炎犬が無慈悲に炎を吐く。
ガンダルが熊の毛皮のマントで身を守りながら最前列に飛び出した。ソニレテ団長と2人で、大きな身体を盾に炎の勢いを止めようとする。
カリンとポンチョがソニレテ団長とガンダルにキュアをかけようとする。ヤードルは、矢をつがえる。
僕も、キュアを!
だ、だめだ。全員が炎に包まれた。熱い。全身が焼け焦げる。
その時、大爆発が起きた。
衝撃波に吹っ飛ばされる。
あたりは白い煙であまり前が見えない。身体中が火傷だ。
カリンは?他のみんなは?
ジュージューと肉を焼いている焚き火を囲んで座りながら、ソニレテ団長が、僕とカリンに話を振った。
調査団3人の視線が僕とカリンに集まる。
え?
試されている。というか、実践を経験値にさせようとしてくれている。そんな雰囲気。
どうしよう。なんにも考えてなかった。
「はい!ソニレテ団長!あたしから作戦案があります!」
カリンが手を上げて、飛び上がるように立った。
え?カリンが?
また変なことを言い出すんじゃないかな。大丈夫かな。
ソニレテ団長がカリンの発言を促した。
「よし。カリン、話してごらん」
カリンが考えを整理しながら、慎重に話し始めた。
こんなに大人っぽいカリンを初めて見た。カリンの目がキラキラと輝いて見える。
なんだか、ドキドキする。
「結論は、昼食後、すぐにパスカル村に退却がよいかと。
ムレクマがここまで降りてきているということは、これより先はすでに魔獣が侵入している可能性が高いと考えます。
熊の毛が一部焦げていたのも気になります。
もし炎犬が1匹でもいれば、人類には太刀打ちできません。
他のムレクマの村がパスカル村を襲うことも考えられます。
会えるかどうかも分からない精霊を目指して、全滅の危険を犯すより、パスカル村に戻って、村の護衛と全村人の移住を含めた計画を立て直す必要があります」
え?退却?!パスカル全村人の移住?!どういうこと?
ガンダルが言っていたのは、こういうことか。
全然わかっていなかった。
それに、カリンがこんなに色々考えていたなんて。自分の幼さが恥ずかしくて、顔が赤くなってカァっと熱くなった。自分だけが置き去りになってしまってる。
ポンチョが、満足そうに言った。
「ふふふ。カリン、いいわ。
自分で育てたキキリを使ったキュアの魔法も見事だったし、戦略も立てられる。
王都カラメルに帰ったら、ククル魔法院の研究生として推薦状を書いてあげるわ。キキリも自分で育てて売れば、学費も問題ないでしょう。もちろん、カリンが望めば、だけど。ゆっくり考えてみて」
カリンが身体を震わせながら、手をぎゅっと握りしめている。怯えながら、勇気を振り絞っているのが分かる。
「あ、あたし、行きます!ずっとチャンスを待っていました。床拭きでも、片付けでも、荷物持ちでも、なんでもやります。
新しい魔法を見つけるのが、私の夢です!
あたしに挑戦する機会をください!」
ポンチョが立ち上がって、震えるカリンの肩を抱く。
「よく言えたわ。立派よ、カリン。
私に着いて王都カラメルのククル魔法院にきなさい。パスカル村についたら、私からカリンのご両親に話しましょう」
「あ、ありがとうございます!
あたし、必ず役に立つ魔法使いになります!」
カリンが王都カラメルに?カリンの背中が遠くなって行く。胸が張り裂けそうになる。自分の不甲斐なさに。
元の世界でも、こんなにも勇気を出して、チャンスに手を伸ばしたことがない。。。
そうだ。今、10歳だからじゃない。元の世界の僕がこの場にいたとしても、熊と戦う力も意気地もないし、先の見通しも立てられない。チャンスを掴もうという野心もない。それが悔しい。
僕は、何も成長していない。
ガンダルがカリンに感心して、うなずく。
「カリンのこと、俺も応援するぜ。
しかし、今日も続く地震といい、何かもっと大きな災厄の前兆のような気もする。
精霊に話が聞けるなら聞いておきたいところだが、炎犬がいたら、全滅するしかない。せめて水の魔法が発見されていたら戦いようもあるのにな。
カリンが言うように、ひとまず、退却すべきってことだ」
ヤードルが短く言った。
「同意だ」
僕は。。。全くついて行けていない。1人だけ思慮が足りない。僕も何か言わないと。
「あ、青信号も安全な訳じゃない。。。と思います」
ソニレテ団長が穏やかに言った。
「どういう意味だい?青信号という信号は見たことがないが」
あぁ、焦って変なことを口走ってしまった。
「い、いや、なんでもないです。帰り道も、気をつけていきましょう」
あーー!ダメだ。やってしまった。穴があったら入りたい。
ソニレテ団長がみんなを見渡して言った。
「確かにそうだな。
状況は、想定した中で最悪の一つと言っていい。
実は、この焚き火が、異変があったことと退却を知らせる狼煙も兼ねている。
エタンは賢者だな。
今日は風も少ないし、パスカル村のエタンに煙が充分見えているだろう。
熊肉をスモークして美味しく食べるためでもあるがな」
何もいいところを見せられなかった。悔しくて、恥ずかしい。
ガンダルが、そんな僕を慰めるように僕の肩をポンと叩く。
「ピッケル、前を向け。
こういう悔しい経験を大切にしな。
ほら、肉が焼けたぞ。脂がのって、程よく燻されて、こりゃあいい!
味わって食べろよ。
いつだって、目の前の飯が最後の飯だと思って食うんだ。
だから、俺は、飯にはこだわる」
あぁ。自分の未熟さが嫌になる。パンセナが焼いて持たせてくれたパンと一緒に食べる熊肉は、確かに美味かった。ガリっと荒い強めの岩塩が、燻された肉の旨みを濃厚にしている。ほろ苦く、しょっぱい味が記憶に残る。
「美味しい!ポンチョ、この焼いたプシュロ最高!」
「外はカリカリ、中はとろぉーりね!カリン、この塩甘のクルッキに挟むともっと美味しいわよ」
「ポンチョ!これはいくらでも食べれますね!」
「うふふ。まだまだあるわよ」
カリンとポンチョは、甘い匂いを漂わせながら大きなマシュマロのような物を焼いて、クッキーのようなクルッキに挟んで食べて、盛り上がっている。
いいな。楽しそうで。
僕もこの経験で強くなろう。
ソニレテ団長の指示で、足が1番早くて山道に慣れている荷物持ちのダンが走ってパスカル村に戻り、状況を伝達することになった。ダンの荷物をトラクとカーゴを手分けして背負う。
それから5人で山を下っていく。
少し下ったくらいのところで、先頭を歩いていたソニレテ団長が足を止めた。
ガンダルとヤードルとポンチョが静かに防御体制になる。ズンと重々しい緊張が走る。
あ!
ダヨダヨ川側の茂みから炎犬が1匹、現れた。
水位が減ったダヨダヨ川を死の森の炎犬が飛び越えきたんだ!
恐怖の記憶が蘇り、ガタガタ震えが止まらない。
そんな中、カリンが落ち着いてキキリの準備をする。
カリンは、戦うつもりなんだ。自分のできることを必死に考えてる。
僕は?僕にできることは?
炎犬は、炎をまとった異形ではあるけど、身体の小さな犬だ。
でも、その小さな身体から放たれる絶望のオーラがすごい。もはや死神だ。たった一吹きの炎で、全員を焼きつくす。
ソニレテ団長の剣技も、ガンダルの鍛えた肉体も、ヤードルのナイフや弓矢、ポンチョの魔法も、やっと掴みかけているカリンの将来も、僕の重ねた努力も、全てが一瞬で燃えて灰になる。
逃げることもできないし、攻めることもできない。
炎犬が目の前に現れた時点で、人類に勝ち目はない。絶対に避けなけばならない遭遇。
死の宣告に等しい炎犬は、あまりにあっさりと現れた。
炎犬が無慈悲に炎を吐く。
ガンダルが熊の毛皮のマントで身を守りながら最前列に飛び出した。ソニレテ団長と2人で、大きな身体を盾に炎の勢いを止めようとする。
カリンとポンチョがソニレテ団長とガンダルにキュアをかけようとする。ヤードルは、矢をつがえる。
僕も、キュアを!
だ、だめだ。全員が炎に包まれた。熱い。全身が焼け焦げる。
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