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4 第3回入院(薬物療法4コース目)

「うまい」と感じる喜び

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 入院中の食生活、最初は完食していた食事をだんだん残すようになり、体重も食欲も徐々に落ちていく。結果、投薬治療終わりの頃は何も入っていない丸いパン2個を牛乳で流し込むという食事になってしまった。
 食べて幸せを感じることがいかに貴重なものかを改めて感じる。これまで生きてきて毎度毎度繰り返し感じてきたいつでも感じることが当たり前という感覚。一時的な病気や食あたりを除けば、何を食べても気持ち悪いもしくはおいしくなくて、旨さや満腹感による幸せを感じなくなるなど、微塵も考えることはなかった。

 そう、ドラマや身の回りのがん患者の話にある「食事が食べれなくなる」ということを、ついに自分が体感する番になった。ただ、本当に苦悩しているがん患者に比べれば、自分の副作用は全然可愛いものであることを申し添えたい。それでも、ふうふう言いながら頑張ってご飯とおひたし、味噌汁を食べるだけで精一杯、食べても塩味をあまり感じず食べた後も胸のもやもやがしばらく残る・・・。そう、食事が楽しみより苦痛の割合が増えていったのだ。ただ、食わないとどんどん体力が落ち、熱を出したり動けなくなったりすることは目に見えて明らかだったので頑張って食べたのだが、入院後半の食事はもっぱらパンしか食べれなくなった。

 自分が老いていくというか朽ちるような感覚が徐々に心を蝕む。静かにしていると、暗くなる夕暮れを見ているように不安な気持ちになっていった。そんな中、なんとか最後の投薬治療を終えることができたのは、各投薬間の退院時に家に戻った際に妻が私に合わせて、混ぜご飯おにぎりやシチュー、味の強いおかずなど工夫して作ってくれたおかげで、病院で食えなくなった分を家で補充して食べれたのが大きかったと思う。弱った自分のことを思い、料理を作ってくれた妻に私はいつか恩を返せる日が来るのだろうかと思う日が増えた。
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