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8 心理状況変化編~終わりに

失うこと・残ってること

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 今年は体も心もガンをきっかけに大きく変化し、自分の今後の人生を見直すことにつながった1年であった。

 まあ、口で言うのは簡単ではあるが、実際問題、私の心の中は子供の巣立ちや老後の夫婦の付き合い方とか全然理解できず、過ぎていく日々の中で毎日毎日頑張ってきた仕事まで終りまでも見えてしまった50歳。
 これを頭では「当たり前なこと」と他人の話であれば理解できるものの、いざ自分の話になると全く現実を理解できない現実の日々の中でガンになったことにより、急に突きつけられた寿命や抗がん剤治療による副作用で起き上がるだけで座り込んでしまうほどの体力低下、性欲から体を動かす意欲に続き食欲の消失、病気を治す意欲すら減退する吐き気や光熱など体感した。

 この体験を通じて、明日が永遠に来ない日が来るということを疑似体験したことから、私の人生は若い頃思った幸せとは「努力をして未来を切り開き手に入れるもの」から「手に入れた幸せを一つ一つ失って静かに眠ること」に局面が変わったと確信するに至った。

 入院中は昔の幸せだった頃の夢を見ることも多く朝寂しい気持ちになることも多かったが、これからは今ある幸せを十分感じながらいつか来る日の前に生きる楽しみを満喫しようという気になり、気持ちが随分楽になった。
 これは、入院中乱読した本の中にあった「幸福論 無いものを数えず、あるものを数えて生きていく」(著:曽野綾子)を読んで心にストンと入り込んだ言葉である。もう、失った幸せを嘆いても手に入ることもない。じゃあ、不幸になる一方なのかといてば、子供のためにガムシャラに仕事をやる必要も薄れ、夜や休日も空いた時間が増えた。

 幸せに大小を求めなければ、無くなった父から譲り受けたこの家と畑で休日に野菜作ったり、生きているうちに身に着けたパソコンの知識や職場の知識を生かして転職する道もある。ほんのちょっとの気分転換で近場の旅行や子供のところに遊びに行くなどの楽しみもありそうだ。
 考えれば、失ったもの(過ぎ去ったもの)よりは大きくないものの、小さな幸せはまだたくさんありそうで、もう少し生きているのも悪くない。俗に言う「死ぬにはまだ早い」と感じる私がいる。

 そう、春になって白血球が元の数値にもどったら、畑を掘ってサニーレタスやじゃがいもやきゅうりも植えてみよう。休みは料理を作ってみるのもいいかも。白血球とか回復したら、近場の温泉を渡り歩くのもいいかな。そうだ、パソコンでエッセイなんか書いてネット作家デビューなんていうのも面白そうだ・・・。
 こう考えると、まだまだ体験していない幸せが残っている。若い頃ばかりじゃない、この中年期こそ、過去を振り返らず心に余裕をもって残ったもので幸せを楽しんでいきたい。これを寛解後の生き方にしたいなあ。
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