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これから先ずっと…
あーん
しおりを挟むゆるっと。
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「三間坂先生、そうしてるとマスターって感じだね」
カウンターの向こうで、Yシャツの袖を捲り上げた状態でコーヒーを淹れている。
「先生はやめて下さいって言ってるでしょ? 皆さんの相談役って感じの緩い会計士なんですから」
スツールには、駅前商店街の八百屋の大将。手元には茶封筒が置かれている。
「ただいまぁ」
ってさっき帰ってきて、カウンターで大将と並んで座ってコーヒーを待ってる。
今日の楓さんも決まってる。
帰宅の度に事務所の扉を開けては、中の様子になんだか和む。
コーヒーの香りが充満してるココは、会計事務所ですよね?って毎回思うけどね。
前の店舗を残しつつの改装だったから、致し方ない。
ドアの開閉にカウベルとかの優しい音色だったら完全に喫茶店だよ。ちなみに開閉時の音は電子音。2階までバッチリ聞こえる電子音。
カウンター側をほとんど残しての改装工事だった。カウンターの反対側と奥は事務所仕様になっている。表も固い感じに会計事務所の看板も出しているが……。
帰って来てのお迎えは熱い抱擁ではないのが少し残念。
「おかえりィ」
にこやかな楓さん。
「タケちゃんおかえり。今日は早いね」
今日は大将だった。日替わりで色々な人がいる。
コーヒーを淹れてる姿はマスターです。
「俺もコーヒー」
「はいよ」
うん、マスターだよ、楓~。
おしぼり渡された。
前の人が撤退するのと、楓がココを見つけたのが被ったのが運の尽きだった。
楓にしたら、ラッキーか?
この店、奥に広いスペースがあるから、楓さんが思い描いた事務所仕様にするのは都合がいい感じだったようだ。
しかも2階が住居ってのも気に入ったようだし。
「はい、どうぞ」
出されるコーヒーはプロ仕様。
先生はココの前の主。
訳あって店を閉じる事になったが、復帰はしたいようだ。なので、道具一式、設備のほとんどを残して、楓が使ってる。
復帰の暁には、コレらを持って行くのだとか。
面白かったのが、楓がおしぼりをなんだか気に入ったらしく、業者と契約までしてしまった事。業者としても契約数が減る訳でもなかったからか了承したし。
小型冷蔵庫のような箱を開けるとおしぼりが入っている。
コーヒーの先生は、たまに来て、淹れ方などを教えてくれてるらしい。お礼に今後の経営とか今の状況とかの相談に乗ってるようだ。
なんだかんだと、楓は自分の思う日常を手に入れたようだ。
俺もその一部のような気がする。
うん、『一部』結構。
楓の一部になれるなら、ずーっと一緒と思えるから。
おしぼりでさっぱりして、コーヒーでまったりする。
「はい、浩介さん」
改まった感じでケーキが出された。
俺が好きなチーズケーキ。
「あー、いいなぁ」
大将が本当に羨ましいそうに言ってる。あげないよ。
ココ喫茶店じゃないから。
「ふふふ…ごめんね。ーーーそろそろ時間じゃないですか?」
大将が楓が見てる壁時計を見て、慌てて、残りのコーヒーを流し込み、茶封筒を掴むと、「ごっそうさんッ」と慌ただしく事務所を出て行った。
楓は大将のを引っ込めて、カウンターから出て来た。扉に鍵をかけ、シェードを下ろす。
店じまい。
自分の分を俺の横に並べると、美味しそうに食べ始めた。
「ご飯前だけどいいよね?」
もう食べてるじゃん。可愛いなぁ。
「前後が逆になっただけだから」
俺はそんな楓を眺めながら、コーヒーを傾ける。
幸せそうに食べてる。
今度、美味しいと評判のロールケーキを買ってこようかな。
一口大を彼の口元に差し出した。
慌てて今のを飲み込んであーんと口を開ける。仕草が可愛い。俺と同じ歳の男なのに。
ちょっと大きかった。
よっとと押し込み気味に入れられた。
口の端に溢れたケーキを指で掬ってる。
俺は、その手を掴んで指ごと欠片を食べる。
瞠った目が細められる。
指をチュッと舐めれば、頬が染まってくる。
深く含めば、ふるると震えてる。
おっとイタズラが過ぎた。
ムッとしそうな雰囲気を察して、手を離す。
「どうかなっちゃうじゃん…」
唇を尖らせて嘯く。
自分のケーキを掬って、再び俺に差し出す。
パクッと食べで笑ってやると、笑い出した。この笑顔。俺が見たかった笑顔。
クスクス笑いながら、食前のコーヒータイムを楽しむ。
夕暮れのカウンターにゆっくり時間が流れる。
ケーキ分の運動がこの後待ってそうだ。
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