彼とメガネの彼の話【時々番外編更新】

アキノナツ

文字の大きさ
29 / 39
寄添う二人

第4話

しおりを挟む

なんて事だ…。

真司しんじの結婚式が近づいて、倫との距離感が歪んでいると感じるまでになっていた。

りんが妙に身体を寄せてきたり、反対に離れて行ったりと忙しい。

もう泣く事は無くなったが、どうしたのだろう。

ソファで論文を読んだりしてると、俺を背凭れにして寄りかからせてきたり、ぺったり腕に張り付いて絡んできたりする。

疲れてるのか、寂しいのか…。
凭れかかる身体を摩ったり、トントンしたりしてやっていたが、暫くすると不機嫌になって部屋に引っ込んでしまう。

不機嫌になるのも分からないが、俺は片側にかかる重みが無くなって寂しくなる。
途轍もなく寂しくなってしまう。

倫が遠い。

困った。

タブレットや本を俺の傍や凭れかかったりして、触ってる姿に癒されてただけに、ふいっと去られるのは、居た堪れない。
焦燥感に苛まれる。

今の倫は、何かに似てる……猫みたいだ。

飼ったことないけど。


◇◇◇


優太ゆうたが釣れません。

べったりくっ付いてみたりしました。

昔みたいに『しよ?』の一言が言えませんが!

自分に嫌気がさして、優太から離れては、寂しくなってくっ付きます。

悪循環です!

真司くんの結婚式の為に、二人でスーツを新調した。
優太が行きつけの仕立て屋さんがアルトに事で連れてってもらった。

そこのテーラーさんの手つきに嫉妬したりしてます!

もう! もう!
優太のばかぁぁぁぁ!

オレのばかぁぁぁ!


***


仕上がったスーツを取りに来た。
一式着込んで、最終チェック。

オレは、真新しいスーツを鏡でチェック。
後ろで優太が見てる。
優しい顔。好き。

テーラーさんがサッとチェックしてOKが出た。
いい笑顔のテーラーさん。
職人さんだと思う。
会心の出来なんだろう。オレも解るよ。

優太のは微調整がいるかもと、テーラーさんがジャケット以外を着てくるようにと優太を追いやった。

オレのジャケットを脱がしながら、優太の話をしてくる。
ベストの細部をもう一度見て、脱がして畳む。

ん? なんでそんな話?

優太が出てきた。
テーラーの持つジャケットに腕を通す。

うむむむ…!
あのテーラー、こっちに見せつけるみたいに優太に触って!

これは挑発だ。
そうだ。挑発だよ!
ふふん。
そんな安っぽいのに乗せられるか! 

ーーーでも。
あのテーラー、オレの知らない30代の優太を知ってるみたいに話してた。

実際知ってるんだと思うけど。
優太、お客さんだもん。

優太の事、よく知ってるみたいに言ってた。
商売以外の付き合いがあったって事?

流れるような手付きで、各部をチェックしてる。指が……。

オレは、着替える為にその場を逃げるように後にした。

優太はオレだけって言ってくれてたんだよ。
オレ以外に、靡くワケないじゃん…。

……今も?

オレ…オレの…優太……取らないで。

鼻の奥がツーンした。
泣きそう。

あのテーラー嫌い。

そのテーラーに笑いかけてた優太。
あんな優太、嫌い!

こんなオレは、もっと嫌い!


◇◇◇


スーツを取りに行った。
倫は何を着ても似合う。

問題はなさそうだ。

テーラーの清水さんが、俺のスーツを手近づいてきた。
申し訳なさそうに微調整が必要かもと言う。
珍しい。
凖礼服だからか? パターンはわかってるから、いつも通りそのまま引き取るつもりだったが。

来てくるように促される。

二人を残して、試着室へ向かう。

ジャケット以外を着込んで出てきた。
サッとチェックして、ジャケットを着せてくれる。
その様子を倫が見てる。

やけに倫が清水さんを睨みつけてる気がする。
清水さんが変な事をしたのだろうか。

やはり職人の仕事というのは、倫にとっても興味深いのだろうか。

暫くすると、フイっと背を向けて着替えに行った。
なんだ?

明らかに倫が不安定だ。

チェックしながら、耳元で囁かれた。
「彼が例の想い人なんだね」
鏡越しに目が合う。

清水さんの糸目が更に細まった。
倫に何か言った?

二人きりにしない様に気を付けていたのだが、あの短時間に何を……。

清水さんは涼しい顔。
引っ掻き回さないでくれないかな。それでなくても、倫が変で困ってるってのに。

微調整は必要なく、二人とも納品となった。

さて、これで結婚式で事前に用意するものは一通り揃ったな。

倫さんの不安定さだけが心配だ。

清水さんは一体何を倫に蒔いた。
楽しそうにタネを植え付けてくれる。
芽吹かなければいいが、芽吹いた時は…トラブルの予感しかない。頭が痛い。

あの人は……。
テーラーの腕は良いのに。

倫に前もって話しておけば良かったのか?


***


倫は短期撮影旅行に出てしまった。

結婚式の前には余裕持って帰ってくると言ってたが。
倫が不義理な事をする事はないとは思うが、清水さんの件があるし、ゆっくり話がしたかったのだけど。

倫の部屋に入ってみると、スーツが吊ってあった。

浮かれてただろうか。

倫と揃いのものを作ったのは初めてだった。

俺は、どんな倫も愛そうと覚悟を決めて、離れても、倫を想い続けてた。
想うだけは許して欲しい。
重いだろうか。

俺のところに帰って来てくれた。

舞い上がる思いで、倫に触れるのも、愛おしくて、腫れ物を触るみたいにしか、触れない。
大事な、大切な、俺の倫。

でも、倫は、全てを愛してる。
俺だけのには永遠にならない。

ーーーー分かってる。


◇◇◇


飛び出して来てしまった。

分かりやすい逃避です。

優太と話し合わないといけないのだと思う。思うんだけど……。

どの写真も寂しそうになる。
談笑してるおばあちゃん達なのに、なんだか影が濃くなる。

うーーーん。違うんだよなぁ。

おばあちゃん達のは悪いけど、これはボツだな。

今回は人物より風景かなぁ……。

ファイトォー、ファイトォー、いち、にぃー、さん、しぃー……
遠くで懐かしい掛け声がする。

どこからだろう……。
部活だな…。

キョロキョロしながら歩いてると、視界が開けて、高いフェンスが立ちはだかった。

高校かな?

ザッザッと、フェンスの向こうをジャージの男子学生が走って横切って行った。

陸上部の子かな。
黙々と走ってる。長距離かもしれないな。

優太のあの写真、どうしたんだったか。

ーーーー楽しそうに跳んでたな。

嗚呼、あれは跳ぶ事を楽しんでたんだ。
閃き、ストンと落ちた。
今なら解る。

あの頃は、光とかコントラストがとか考えに凝り固まってた。あの頃は気づかなかった。バカだな。

だから、行き詰まって、辞めたんだ。

オレ、今、楽しいかなぁ……。


***


そろそろ帰らないと……。

今回はあの高校で世話になった。
始めは不審者扱いだったけど。

フェンスのところで、カメラ持った男がじっとしてたら…ね。
解るよ。解るけど。
ーーー怖かった。

向こうの先生方も怖かったよね。
途中からお互い様って笑っちゃったけど。

ーーーお互い様か。

優太と話そう!

この気持ちも、想いも、全部全部!
聞いて貰って、優太の事も、想いも、全部!訊くんだ。

車窓からの景色をスマホで撮って、メッセージと共に送る。

『帰る』


◇◇◇


結婚式。
晴れた。雲一つない晴天の青空。
真司の性格のように抜けるような空だ。

真司……大きくなったなぁ。
兄というか親の気分というより孫を見てる気分だよ。

もう可愛がりまくってたよなぁ。
向こうは迷惑だったかもな。

これからは、嫁さんに可愛がって貰え。

隣りの倫の様子を伺う。

目も鼻も赤い。
ハンカチが手放せないようだ。

カメラを扱ってる時だけ、キリッとしてる。
専属のカメラにも気遣って、位置取りしてる。

途中見せて貰ったら、花嫁さんが綺麗に写ってた。真司と幸せそうに。

温かい写真だ。


***


二次会は不参加。
当たり前だな。
倫は誘われてたみたいだが。

チャペルを眺めてた。

式までに倫と話がしたかったのだが、色々と忙殺されて、何も話せず。ギクシャクしたままここに来てしまったが。

倫も何か言いたそうだった。
聞いてやれずに申し訳なくて……。

短時間で花嫁さんと仲良くなってた倫が、ハグで別れを惜しんで、手を振って見送ってる。

こちらに駆けてきて、横に並んでチャペルを見た。

「綺麗だね」
息を弾ませて、明るい声だ。
「うん。ーーー倫」

言葉が溢れてきた。
横に立つ倫をじっと見つめていた。

何度目、もう数えて切れないな。
最後の告白をした。

「好きだ。愛してる」

嗚呼、正面を見て、手を握れば良かっただろうか。
想いのまま口をついてた。

驚きなのだろうか。
彼の見開いた目が、揺らいて、一筋頬を流れ、粒が光ってる。

柔らかく微笑んだ。

「オレも好きーーー愛してる」

今までの響きと違う何かがあった。

なんだろう……?

心の奥に染み込んでくる、好き。

これは……俺が求めてたものなのだろうか。

この多幸感はなんだろう。

スッと肩が当たった。
寄り添う倫の肩を抱き寄せた。

「帰ろうか?」
「うん」

俺たちの家に。



===========

テーラーの清水さんのお話は、スピンオフがございます。
『テーラーのあれこれ』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/825350246/266780014
です。合わせてどーぞヽ(*´∀`)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...