ソナタを奏でるには、

アキノナツ

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2】ソナタを奏でるには、覚悟が要るようです。(※)


今日は街まで出てきた。

ちょっと良い酒を探しにーーーのはずが!

なぜか大型のCDショップの前にいます。
後ろが支えるので、さっさとゲートを潜りますよぉ。

わくわく浮かれてますよ。何か?

ほぉーと思わず、言いそうになった。
久々過ぎて、戸惑う。

クラシックかぁ。

CDショップ自体入るのが久しぶり過ぎて、眩暈がしそうなのに、入った事すらないコーナーを前に足が竦んだ。

いやいや、大の大人がこんな事でなんとする!
澄ました顔で棚を見てるがーーーー分からん!!!

変な汗かいてきた。
わくわく? どっか行ったわ。緊張してきたよ。

クラシックって一言でまとめたらダメなんですね。

途方に暮れながらも、突き進む。

楽器別ってありますけど、……チェロまで来れましたけど、……色々ありますなぁ……あり過ぎだ。初心者には優しくない情報量。

電気屋だったら、「何かお探しで?」と言ってくれるだろうが、来られても困るが、どうしたものか……。

進めない…途方に暮れました。
でも、頑張るよぉ。

とりあえず、一枚手にとる。

この人、テレビで見た事あるなぁ。
おぅ? なんとかなるか?

チェロだけの曲ってのだけでも色々あるんだ。
曲が同じみたいだけど、人が違うって事か。

あれだ!
同じ曲でも歌う歌手が違うと、別物に聞こえくるってやつだよ。
カバーとかリバイバルとか、楽曲提供者自身が歌うってやつがあるじゃん。あれだよあれ!

ひとり納得。スッキリ。

ーーーしっかし、分からん!
一歩進んだようで、進んでないな。

そう言えば、あの弾いてくれた曲名も知らなかった。何を買うか見当もつかん。

ーーー仕方がない。

この人が有名そうだから、チェロだけの曲が入ったコレでも買ってみるか。
今の俺にこれ以上の選択肢はないだろう。

ショップを出た。

外の空気が美味い!
例え排気ガスいっぱいの通りに面しててもさ。
やり切った!

ーーーー買いました。買ったよ!

俺、クラシックデビューしちゃったよ。

手に持ったショップのロゴが入った袋を掲げて見た。

ふと視線の先、車が行き交う大通りの反対側のバス停に、あのチェロの人がいるのに気づいた。

「っ………!」
あちゃー、名前知らんよ。
振り上げた手を引っ込めた。

店では「チェロさん」の通り名が、本人も含めて浸透してるので、こういう所でそう呼びかけて良いものかどうか……。

何を嬉しそうに、浮かれてるんだ。

店を非日常とするなら、今は日常。
外ですれ違っても知らんぷりで嫌がるお客も居るし……声掛けるの止めるか。

声を掛けるのを辞めたんだから、さっさとこの場を離れればいいのに、なんとなく彼を見ていた。

今日はチェロ背負ってないのか。
チェロのない彼を彼と識別できた俺ってもしかして重症?

いやいやぁ~、何の重症ですか?

いつも斜め掛けしてる鞄だけを身に着けて、バス停に居るって事は、何処かにお出掛けか?
相棒さんはお留守番なのね。
なんだろう……あのチェロから離れるのが想像できない。
優しい手つきでワイングラス片手に撫でてる姿が脳裏を過ぎる。

それにしても、横の背広のおっさん近いな。連れ?


離れようと思うのに、何故かその場から動けなくなっていた。

彼の様子が変だ。
なんか身を捩って…嫌がってない?
表情が良く分からないな……。
何か話し出した?
鞄の陰でよく分からんけど、やっぱりチカンじゃんか!
太腿触ってるよな?!
クソ!おっさん!!!

カッと頭に血が昇った。

一歩、車道に踏み出そうとして、固まった。

彼が微笑んでる?
ーーーハッキリ見えた。
微笑みを浮かべて相手を見ている。
色を含んで見えるのは俺の気持ちが入ってるから?
ーーーなんの気持ち?

やがてバスが来て、二人は一緒に乗って、どこかへ行った。



目の前ギリギリをバイクが通り過ぎて、我に返った。

歩道の中程まで戻ると、帰る事にした。
あれから随分あそこに突っ立てたみたいだ。
仕込みに向かうか。
何かしないかとどうにかなりそうだ。
ーーーどうにか?


◇◇◇◇


コロロン

バイトも帰したし、そろそろ閉店にしようかと思っているところだった。

彼だった。
随分来てなかったが。
今日はチェロも居なければ、様子もおかしい。すでに飲んできてるようだ。

「マスター! ボニーちゃん、ちょーだい」
『ボニー・スコット』
気に入ってくれたのは良いけど、もう既に随分と飲んでるようだ。

確か話のネタに仕入れたノンアルコールのウイスキーがあったな。
ハイボールか何かにしたら誤魔化せるか。

「ちょっとレモン切らして、こっちでいいかな?」
色合いだけ似せた。
「えー、あれ飲みに来たのにぃ」
「じゃぁ、やめる?」
出したグラスをすーっと引きかけると、手が出てきた。
手が熱い。
もう眠るかも知れないな。
「飲むぅ」

くぴっと一口。
飲んだはずが、口の端から溢れて、首筋を濡らした。
飲み方が少し怪しいな。

おしぼりでふいてやりながら、「何かあったのか?」と話を振った。

この前見かけた話はしない。と決めている。
した所で、何をどう言って良いか分からないからいいのだ。

「酷いの! やばいと思ったから巻いてきた」
ん?

「もういい感じだったのに。センサーがビビッと警報でさ。正解だよ。鞄の中怪しい道具入ってるんだよ。マジ、ヤバかった」
ん? んんん????

グビグビ飲んで、カツンとカウンターテーブルに。

「オレ、SM趣味ないっつうの!」
SM?!

おかわり!とグラスが出てくる。
水を入れても分からないかも。

そっと水を出す。
グラスだけカクテルに使う細長く背の高い物。

思った通り何も言わず飲んでる。
このまま水分を摂らせよう。

しかし、なんの話だ???

「バーで飲んでたら、横にきて、甘い感じだったのにさ。気分良く飲んでたのに、あいつが席立った時、チラッと見えたんだよ。もう、ブッチしようかと思ったけど、変に逆恨み買ったら、マズイじゃん」
グビっと一口。

「だからさ、その気はあるんだけど、気分じゃなくなったわって、店出たのね」
ニッコリ笑ってるけど、いつもの爽やかさがない。艶があって……俺、何考えてる?

「なのに、付いてくるの! キモイぃ」
もう…頭痛くなってきた。
薄々、俺もわかってるんだよな? 認めたくないだけだよな?

「その男?と寝るつもりだった?」
もう客は彼だけだから、何を話してもいいんだが。
カウンターから出ると、closeの札を出して、扉を閉める。

「んー、そのつもりだったけど、あれはないね。今日は気分でも無くなった」

「自分、売ってるの?」

「売ってない。出会いで寝るだけ。そうじゃないと、オレ狂っちゃうからぁ」

何言ってんだ?
あんだけいい音出してチェロ弾いてる男とこの男は一緒なのか?

「不特定多数って危なくないか?」
「そうだねぇ。でも、大丈夫だよ。いつも上手くやってるから」
「上手くって。今日ヤバかったんだろ?」
グラス片手に脚を組んでぶらぶらさせてる。

「うん。今日のはヤバかったね。途中人混みに入ってバス乗って巻いた。お陰で酔いが回ってさ。ICカードって便利だねぇ」
スマホをチラッと出す。ケースにカードを入れてるのか。

バス……。

「オレもこんな事したくてしてないよ。この方法しか思いつかないだけで。一応、ルールとか自分に課してるし。もしもの覚悟はしてるつもりだけど」
なんか言ってるけど、もうどうでもいい!

「あの男とも寝たのかよ?!」
「あの男?」
「大通り沿いのバス停のチカンの背広男。一緒にバス乗ってどっか行ったよな?」

グラスを傾けながら、考えてる様子にムカムカしながら、このイライラをどうしていいのか分からず、じっと彼を見ていた。

「ああ! あの男(ひと)ね。アレは良かったね」
ぷちんと何かが切れる音がした。

バーン!
カウンターテーブルを平手で思いっ切り叩きつけていた。
「俺にしとけ! セフレでもなんでもなってやるから、もう危ない事はするな!」

キョトンと俺を見てる彼を抱きしめていた。

グラスを置く音がした。

俺の背に手が回って、抱き返してくれた。

「オレさ。狂ってるかもしんないよ?」
「狂ってない。狂わない為にしてるんだろ?」
「そうだけど。特定の人は続かなくて……」
「恋人とかはならなくていい。俺を使ってくれていい」
「そんなの悪いよぉ」
「セフレの覚悟した」
顔見たら、酔いも覚めたにだろう。じっと見てきた。薄暗い店内の灯りの中、瞳に俺が写ってる。
吸い込まれるように、唇を重ねていた。

男とキスしてる。
全然嫌悪感はない。
寧ろコレが当然のような行為だった。

舌と絡めて、唾液を交換して、唇を食むように音を立てて離れる。二人の間を名残り惜しげに糸が繋ぎ、切れた。

額をつけて、泣いてる彼の涙を手で拭いてやる。

「俺を使え……」
「ーーーーうん」

夜が更ける。



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