異世界辺境村スモーレルでスローライフ

滝川 海老郎

文字の大きさ
1 / 67

1. 転生の記憶

しおりを挟む
 俺はブランダン十歳。苗字は無いらしい。
 村の中を走り回っていた帰り、石につまずいて転んで頭を打った。

「うおおお、いってええええ!!」

 その瞬間、すべてを思い出した。
 星の名前は地球、国は日本。高校卒業からの引きこもり歴五年の二四歳。
 趣味はPCとスマホ、無料ゲームと実質無料のネット小説。
 家とコンビニと近所のパトロールが日課。引きこもりといいつつ、太陽には当たる生活。

 俺は狭い個室の中から広い異世界を想像して、妄想して、そしてスローライフを夢見ていた。
 そのため色々な知識を読み漁ったり、よくあるマヨネーズの作り方を調べたり、ちょっとそういうことにハマっていた。
 庭に生えている猫じゃらしを収穫しているところまでは記憶にあるがその後は思い出せない。

 女神様と会い転生の話をした。俺は原因不明だけど死んだらしい。ユニークスキル「器用貧乏」を取得した。なんでもできるけど特に優れたことはできない、そんなスキルだった。

 普通なら頭がおかしくなったと思うかもしれない。でもはっきりと思い出せた。
 日本語もこの世界の言語、厳密にいうならこの地域の言語、マールラ語も分かる。

 大丈夫。ちゃんと現在の主人格も残ってる。ただ過去の記憶がよみがえっただけだ。前の自分に乗っ取られたりもしていない。

「ちょっと、ブラン大丈夫?」
「う、うん……、まぁなんとか」
「ほんと? なんか変な顔してたけど、そんなに痛かった? 頭とか打ってない?」
「打ったけど大丈夫」
「大丈夫ならいいけど、しっかりしてよねっ、よしよし」

 この子はドロシー、ザ・異世界での定番種族のエルフで俺と同じ十歳。
 ドロシーは心配しながら俺の頭をでてくれる。
 くすぐったいけど、ちょっぴりうれしい。
 元の世界では女の子と触れ合う機会なんて一年にいち日すら無かった。
 たんこぶはできていないようだ。

 まだ小さいけど、顔はびっくりするほど可愛い。可憐かれんな感じ。
 このド田舎というか国の中で一番の辺境の村にいるのに純血のエルフの血は争えないらしい。
 ドロシーは美少女で金髪碧眼へきがん。まだ十歳だから胸はぺったんこだ。将来に期待しよう。
 髪は伸ばしてて肩よりちょっと長いくらいのストレートだ。

 この村にはもう一人の女の子リズと合わせて三人だけの子供たち。

 リズも同じくたぶん十歳ぐらい。背丈もドロシーと同じくらい。
 明るい赤茶色の髪の毛を首にかかるかどうかぐらいまで伸ばしてる。
 猫耳族なので、耳は頭の上に生えてて、あと長いしっぽも生えている。
 丸顔で可愛い顔をしている。ひげとかωみたいに割れたりはしていない。


 村に家は三軒。俺んちと、ドロシー親子と、おばばとリズの家だけしかない。
 村というか「スモーレル地区」といい、いわゆる集落というやつだった。
 今は、ドロシーの父ちゃんとうちの父ちゃんが農作業の合間に四軒目を建築中だった。
 家が建ったら住民を募集するらしいよ。

 開拓村であり、近くのちゃんとした村から半日の距離歩いた山のふもとにある。
 少し下れば川が流れていて、村の横には沢が流れている。井戸は無い。
 あとは三世帯分の小さな傾斜面の畑があるだけだ。

「この石ころめ」

 俺は何となくつまずいた石を拾って眺めてみる。普通の石だ。
 結局、何にするでもなく石は庭に転がしておいた。

 家に帰って、父ちゃんと麦ワラを編んで袋にする内職をして待つ。
 母ちゃん、ナターシャが部屋の隅で、薪を燃やしながら、スープを煮込んでいた。

「おーい、ご飯できたわよ」
「はーい」

 畑は主に小麦で、他の野菜を申し訳ない程度に育てている。
 だから俺んちは貧乏で、いつも小麦の薄焼きパンと野菜と肉の煮込んだ塩味のスープばっかり食べている。

 美味しいといえば、それなりに美味しい。
 肉は父ちゃんが山で仕留めてきたイノシシ肉を乾かしたものだ。
 薄焼きパンは、いわゆる白パンよりも発酵が悪くて固いので、丸くするんじゃなくて薄くガレットみたいにして食べる。
 ナン、トルティーヤみたいな感じといえばそんな感じでもあると思う。

 異世界日本の記憶がよみがえった今、今までの生活とくに食生活は貧しかったんだ。
 ずっとそうだったから、そんなものだと思ってた。
 味も塩と肉と野菜の出汁だしぐらいしかなかったけど、もっとおいしい料理がたくさんあるのを思い出してしまった。

 こうなりゃ、自力で地球の知識を応用して、美味しい食生活をなんとしても、したい。

「ごちそうさま」

 そうして、すぐに寝る時間になった。
 布団を被って考える。


 美味しい、ごはんが食べたい。


 まずは記憶が戻ったのでスキルについて考える。
 ユニークスキル「器用貧乏」。何ができるかと言うと、とりあえずアイテムボックスは使えることが分かった。
 これは大きい。十歳児が背負ったり手に持てる荷物の量には限界がある。おそらく器用貧乏なので最大容量とかに制限があるのだろうけど、無いよりずっといい。
 とりあえずは、当面はこのことは秘密にしようと思う。アイテムボックスというものがあるなんて、話題にすらなったことが無いのでレアだと思う。

 基本属性魔法とかも使えそうな気配がある。
 魔力感知、体に魔力があるのを感じる。今までは、ほとんど何も考えないで生きてきたようなものだったけど、前から魔力そのものは感じていた。ただ当たり前すぎて気にしていなかった。
 魔力量もおそらく、多すぎず、少なすぎないそこそこの量だと思う。

 ただ生活するだけでは、魔法はあまり使わないかもしれないけど、前途洋洋というところか。

 こうして、俺の生活改善計画が発動するのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...