異世界辺境村スモーレルでスローライフ

滝川 海老郎

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3. ハニー大作戦

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 数日後、またカエラばあさんと、山に入っていた。
 ばあさんは毎日山に行くわけではなく、取ってきて次の日はその草の処理をしたりする。
 そしてしばらくするとまた取りに行く。
 この時期は春の新芽が出る季節なので、取りに行く頻度が高い。

 背中には麦ワラで編んだ、ちょっと雑なかごを背負っている。

「ばあさん、花の蜜を吸いにくる虫いるじゃん、名前なんだっけ」
「ああ『ハチ』じゃな」

 よし、ハチのマールラ語を教えてもらった。ハチ、ハチ、ハチ、ハチと心の中で復唱する。
 村では外と交流することも少ないし、無知の子供たちだけで遊ぶことが多いから、知ってる単語が極端に少ないと思う。
 知識の重要性を前世の記憶で思い出した俺は、ハチみたいに、必要ならどんどん教えてもらう。

「そのハチの蜂蜜をさ、集めたいんだけど」
「ああ、山の中の木のうろによく巣を作るんじゃな。巣を探すのが大変でこの国では貴重品じゃな」
「そうだよね。だからさ、この時期に巣立ちとかするんだよね? それで木の箱を村の隅にいくつもおいて、ハチを育てたらお金になると思うんだけど」
「なるほど、人工的に洞を作って、そこにおびき寄せるんじゃな、なるほど、よく考えたの」
「でしょう」
「まぁやってみるといいわ」
「それで、おびき寄せるのに、多少の蜂蜜が欲しいんだけど、当然のようにうちにはないわけでして、カエラさ、持ってないかな」
「おお、持っておるぞ。一部の薬には蜜漬けにするものがあってな、多少は買ってあるわい」
「やった!!」

 と、ちょっと遠回りな会話をしつつ、養蜂ようほうの目途というか、お墨付きをもらった。



 意見が出たら、早いほうがいい。
 すぐに父ちゃんに言って、木を分けてもらう。
 木材は薪にするためにまだ割ってないのが大量にあるし、家を建てる端材もある。
 巣箱にちょうどよさそうな、板をもらってきて、巣箱を組み立てた。
 この世界には、スズメバチはいないらしい、というか聞いたことがないので、たぶんいないと思う。
 いるなら山に入るときに注意するように言われるはずだ。
 何が重要かと言うと、スズメバチは巣箱に入らないように入り口を狭く作らないといけないが、いないなら細かいことは考えなくていいと思う。
 クマが出たらそのときだけど、この近くはあまりでない。あまりなので絶対ではないが、まぁ抵抗するだけ無駄だろう。
 当然のようにこの村は城壁などに囲まれていたりはしないのだった。


 木材と釘と、それから木槌とノコギリで巣箱を四つ作成した。

 釘やノコギリなどは家を建てるためや、各種ものを自作するために元から家にあった。よかった。工作器具までないと、一気に詰む。

 全部の巣箱に入るとは限らない。正直、俺の贅沢ぜいたくのためにたくさん欲しい。
 だって、この世界には砂糖が無いのだ。
 砂糖という言葉自体、聞いたことがない。
 甘味や甘い、そして蜜という言葉はあるが、砂糖は無い。

 その後、おばばに砂糖について聞いたところ、はるか遠くの海の向こうのほうに、たくさん取れるという伝説があるとかなんとか。
 だから甘味といえば蜂蜜なんだけど、その蜂蜜すら貴重品扱いなのだった。
 俺たちはヤマツツジの蜜を吸ったりしてたので、甘い蜜は知っている。
 あ、ちなみに地球のツツジの仲間には毒がある種類があるので、注意が必要だったりする。



 カエラばあさんに、蜂蜜をほんの少し分けてもらい、巣箱に塗って匂いをつける。
 そしてあとは待つだけだ。
 楽ちんといえば楽ちんだった。



 そして、少し経ったある日、見に行ったら四つ中、三つにハチが入っていた。

「よっしゃ、やった」

 ガッツポーズをする俺を見て、不思議そうな顔をするドロシーとリズ。

「これで、甘いものが食べられるようになるぞ」
「本当? やったにゃん!」
「ブラン、私にも分けてくれる?」

 俺が簡単に説明すると、喜ぶ二人。

「まぁ今すぐじゃないから。どうどう。静まりたまえ。ハチさんが集めてくるまで、時間かかるんだよ」
「そうなんだにゃん。にゃんだ」
「ふふん、それくらい知ってるわよっ」

 二人はしょんぼりしつつ、目はキラキラしていた。肉食獣みたいでちょっと怖い。

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