遺書添削人 久世未来の脱胎

御子柴

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高校一年生 吉村秋人の遺書①

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  和泉西高校 2年A組 久世未来
  きっちりと整えられた黒髪は腰まで届き、体が弱いのか滅多に学校に来ない久世の肌は陶器のように白く、いつも物憂げに窓の外を見つめているその端麗な顔でクラスの中では深窓の令嬢として認知されている。


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  「秋人くんってでぶなの?」 
  小さい頃から太りやすい体質だった。
  親はそんな事を気にせず、俺の事をたくさん甘やかしてくれた。
ご飯もお菓子もケーキも、「男の子は食べなきゃ大きくなれないわ」と何でも好きなだけ食べさせてくれた。
  でも、それが仇となった。
  「でーぶ!でーぶ!でーぶ!」
  小学校に入るとよくデブと揶揄されるようになった。
  その時はまだいじられているなというだけで相手にそこまで悪意は無いのを分かっていた。
  「豚は養豚場に帰れよ」
  中学校に入ってから本格的ないじめが始まった。
  容赦なく言われる罵詈雑言。
  周りからの笑い声。
  同級生に囲まれて蹴られたり殴られたり。
  四つん這いになることを強制されたりや「ブヒ」以外言うことを禁止されたり。
  酷い時は「豚くんのお肉は美味しいのかなー?」とカッターで切られそうになった事もある。
  すべては此処から遠い高校に行けばどうにかなると思っていた。
  「ほら、ダイエットだ。全員分のパン買ってこいよ。10秒以内にな。じゃないと指また折っちゃうぞー?」
  中学の時の同じクラスの奴もこの高校に入学していて、俺の計画はバラバラに崩れた。
  俺の中学の頃の話は入学早々瞬く間に学校中広まった。
  最初は1年生。
  「あれが豚の吉村くん?」
  次は2年生と3年生。
 「おい、豚。お前1人で片付けろよ。お前を部活に入れてやっただけ感謝しろよ」
  最後に先生と生徒の親達。
  「こんな問題も解けないのか?頭も豚なのか?」
  毎日が地獄だった。
  豚。デブ。家畜。ボール。
  学校生活の中で人間と、同じ人間だと同級生に思われた事はあるのだろうか?
  貶され、暴力を振るわれ、ぱしらされ、物を盗られ…。
  そんな日々に生きている意味はあるか。
  無い。
  明日も明後日もみんなの中で俺は豚。
  何年も変わらなかったものはこれからも変わるはずはない。
  
  今までの人生を軽く振り返ってきて尚更自分が惨めになってきた。
  俺は屋上の柵に手をかけた。
  ここからは丁度グラウンドで部活をしているサッカー部と野球部が見える。 
  「お前ら、覚えてろよ」
  柵に足を乗せた所で後ろから声をかけられた。
  「今から、死ぬ?」
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