犬になんかなるものか

御子柴

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あまい再会

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暁は箱をそのままぽいと床に捨てて、「いい?」と天海くんに眩しいくらいの笑顔で笑いかけた。
「言い訳ないよね?今こっちはお取り込み中なの」
しっしっと天海くんは手を払っても、暁は動く気配がない。
にこにことした笑顔のまま立っている。
「早く出てけって」
天海くんは相当苛立っている。それは誰から見ても明白だった。
たぶん暁から見ても。
これからどうしようと考えていると、暁はいきなり俺の手をとった。
「走って」
そう耳元で囁かれた瞬間、手を引かれ、転びそうになりながら走った。
後ろから天海くんが何か叫んでいるのが聞こえる。
お店を出て、そのまま道沿いに走った。

「もう追ってきてないと思うよ!ちょっと休も!」
少し走ったところでペースを落とした。
二人とも久しぶりに走ったからか息切れがひどくて、顔を見合わせて笑った。
それから近くにあったファミレスに入った。
深夜ということもあり、人はあまりいなかった。
店員にオムライスを頼むと、暁が笑った。
「まだオムライス好きなんだね」
「な、なんだよ」
「悠人は変わってないなあと思って」
なんだか急に恥ずかしくなって、話を変える。
「なんで暁はあそこにいたんだ?声優だったよな?」
「あ、うん。今も有名じゃないけど声優はやってるよ!ただ、次の仕事のドラマCDに丁度SMが出てくるから勉強になるかなあと思ってちょっとの間だけ働かせてもらってて…」
「暁はすごいな。俺なんか…」
俺なんか男のものしゃぶって仕事貰ってるんだぜ。
そう口から出そうになって必死に止めた。
暁は自分の実力でテレビに出るくらいまでなっているのに、それに比べて俺は。
暁が「ん?」と微笑んだ。
「俺なんか、どうしたの?」
「え、あー…」
絶妙なタイミングで店員が来た。
暁の前にはパフェを、俺の前にはオムライスを置いて店員は去っていった。
「いただきます」
そう言って、オムライスにスプーンを差し込む。
トロトロのたまごの中からケチャップライスが顔を見せる。
一掬いして、口に運ぶ。
「んん!おいひい!」
大盛りの生クリームに苦戦してる暁に声をかける。
「ひと口食べる?」
「あー…じゃあひと口ちょうだい」
「ん」
また一掬いして、暁の口に運ぶ。
「暁、もうちょっと口開けて」
「あふい…」
「よしよし」
暁がもぐもぐと咀嚼しているところを見ていると、昔を思い出す。
昔もよく食べあいっこをしていたな。
「おいしいだろ」
「うん!悠人もパフェ食べる?」
「食べる!」
あ、と口を広げて目を瞑る。
少し待っても口の中にパフェが入ってくる気配がなくて、目を開けた。
「暁?」
「……え、あ、ごめん」
ぼーっとしてたと、暁は慌ててスプーンでパフェを掬って俺の口に運んだ。
「おいしい…」
熱々のオムライスの後に食べたパフェはかなりひやっとして美味しかった。
「ねえ、今日俺の家に泊まんない?」
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