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第二章

第9話 記憶

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優しく微笑んでくれた彼が気になった。

「隣に座ってもいい?」

と聞いた私に彼は少し戸惑たのだけど、どうぞと言ってくれた。
彼の隣に座り木から落ちる雫を体に感じた。

雫は体に触れると染み込んで疲れた体を癒してくれる。
しばらくそれを感じ、同じように隣で癒されている彼を見ると、彼はジッと私を見ていた…あっ、名前も言わずに座ったからかな変に思った?

何だこいつ急に来て、名前も言わずに隣に座るなんて非常識だ……とか?

「あの、私はシャルロットと言います、あなたは?」
「私はリオと言います。シャルロット様」

いまこの人は私を様と付けて呼んだわ、いまの私の自己紹介では公爵とも令嬢とも言っていないのに。

「どうして?リオさんは私がお嬢様だと終わりになったのですか?今日はドレス姿ではありませんし、髪型もポニーテールで、軽めのワンピース姿なのに」

の問いに、彼はしまったと言う顔をした…私の事を知ってる?
やはり何処かで会ったことがあるのかしら?

ジッとリオさんを見ると彼は困った顔を見せた。

「ねえ、リオさん」

名前を呼んだだけなのに彼はビクッと体をビクつかせた。

「そんなにビクつかないでくださいリオさん、そうだわ、私ねあなたに1つお願いがあるの」

「お願いですか?何でしょう」

「あなたのその…ご立派な尻尾を触らせてください!いいえ、撫でさせて!」

リオさんの太くて立派な鱗状の尻尾を始めて見た時から触りたかったの。

「私の尻尾ですか…先の方ならいいですよ」

「ほんと、じゃあーここに乗せてください!」

私は足を伸ばしスカートの上に尻尾を乗せてとリオさんに催促をした。

「わかりました、はいどうぞ」

ぽふんと私の足を伸ばしたスカートの上に、リオさんの尻尾が遠慮がちに乗った。
思ったよりも重いしズッシリとしていた。

「重くはないですか?」

「はい大丈夫です、リオさん触りますね」

両手でさわさわ、さわそわ…さわ、ピクン!

「あっ…」

尻尾を触れば触るほどリオさんの頬や耳が赤くなり、あっと言ってた口を押さえた。

「リオさん!?」

「シャルロット様…その、さわさわがくすぐったいのです。私はその初めて尻尾を人に…いいえ女性に触られたので……ふふっ」

「くすぐったいのですね、ふふっ」

リオさんが余りに可愛く感じてしまって、さわさわ、さわさわともっとしてしまった。

「はははっ、おやめください。シャルロット様!」

身をよじって笑い出したリオさん。
その姿を見ているとふっと何かが頭を過る。

『シャルロットちゃんそんなに触っちゃダメだよ、俺のだったらいいけどね』

あっ、まただあの声が聞こえた。
誰の声なの?

目の前で私に優しく笑いかける、長い黒髪にサファイアの瞳のあなたは誰?

『シャルロット嬢になら触られてもいいよ』

誰がが私の頬に触れてた。
ああーっ…胸が痛い……キューっと苦しくなる。
私には最近まで側にいてくれた誰か…みんながいたの?

なのに、思い出そうとすると靄がかかる。

「シャルロット様?」

「リオさん…ねえあなた」

私の事を知っている?と聞こうとした時にザッザッと早足の音が聞こえ、アル様とラーロさんが癒しの木の下に血相を変えてやって来た。

「リオさん、いますぐに来てください」

アル様がそう言うとリオさんは慌てた。

「みんなに仲間に何かがありましたか?」

慌てて立ち上がり、いままで私の足に乗っていた、尻尾が離れていった。

「なぁ、ちび竜。連れてきた竜人の中に怪我人が何人かいるんだよな。骨折をしていたりとか縫うほどの傷を負った竜がいるという話だよな」

「はい、壁が崩れたりして怪我を負った人がかなりの数いるはずです、その方達がどうかなったのですか?」

慌てるリオさんにラーロさんは首を振る。

「違う逆だ…治ってんだよ!骨折もくっついているし、縫うほどの傷も無くなってるお前の国で何か治療をしてからここに来たのか?」

「いいえ、治療とかできる状態ではありませんでした…まさか!」

まさかと言い、リオさんは口に手を当てて少し考え「あっ!!っ」と大声をあげ私を見た。

アル様もラーロさんもリオさんと同じ様に私を見た。
そして3人で何やら顔を見合わせ話し頷いていた。

「そうか、まさかな」

とラーロさん。

「これは調べてみないといけないね」

楽しそうに微笑むアル様。

「アル様、ラーロさん。仲間の所へ見に行きましょう!」

2人を急かすリオさん。

みんなは私の分からない話をしてから、みんなで納得して魔法協会の建物の方に、早足で戻って行ってしまった。

「なんなの…?」

ポツンと訳も分からないまま癒しの木の下に置いていかれた。
何処にも行けず癒しの木の下で座っていると、箒を手に持ったラーロさんだけ戻ってきた。

「シャルちゃんごめんね。これから話し合いとかで忙しくなるから、いまから俺の屋敷まで送るよ。前に塗った魔女の秘薬がまだ効いていると思うから箒で送るよ。さあ、乗って」

と、箒に跨った。

「ラーロさん、リオさんは?」

「ごめんね、彼にも詳しく話を聞かないといけないから、また明日の朝に会えるようにするよ」

「はい、分かりました」

また明日リオさんに会えると分かり、私はラーロさんの箒の後ろに跨った。
しかし、前に乗ったときよりも、何だかふらつく様な感じがした。

私の様子にラーロさんも気が付く。

「うわ、これはシャルちゃんの魔女の秘薬が切れかかっているね、飛ばすからシャルちゃんはしっかり背中を掴んでいて!!」

ラーロさんの魔力を感じるとふわっと箒は浮き上がり飛んだ。
前よりもガタガタと体が揺れ箒から落ちそうになる。

「ラーロさん怖い。落ちる、落ちゃうよ」
「大丈夫、シャルちゃんも魔力を練って、飛ぶイメージを浮かべて!」

「うっ…頑張ります!」

何度かグラつきながらもラーロさんの背中に、しっかりとしがみつき屋敷に飛んでいく。

ようやく屋敷に付き地面に足が付くとホッとした。

「はーはー、何度か危なかったね」
「はい…落ちるかと思いました」

私達が屋敷に帰ってきたのがわかったのか、マリーさんが屋敷から出てきて仕切りに私に大丈夫かと聞いてきた。

「大丈夫。マリーさんお腹がすいたからお昼まだだったら、マリーさん一緒に食べよう」

「はい、分かりました。シャルロットお嬢様すぐにお昼のご用意を致しますね」

マリーさんはキッチンに昼食の準備に向かって行った。
箒を入口に立てかけラーロさんは屋敷に入る前に。

「シャルちゃん今日は多分、俺は魔法協会に泊まる事になるから、明日の朝早くに迎えに来るからね」

「ラーロさん、分かりました」

私が頷くとラーロさんはすぐに魔法協会に戻らなくてはいけないのか、屋敷の中をバタバタ走り自分の部屋から資料や本を持ってくる、私はラーロさんの邪魔にならないように壁によりかかり見ていた。

屋敷を出る前にラーロさんは私の方に振り向き。

「シャルちゃん、庭のひよこ豆を少し貰って行くね」

「はい?どうぞ」

返事を返すとラーロさんはひよこ豆の莢を少し、収穫して箒に跨ると魔法協会に戻って行った。

箒で飛んでいくラーロさんを見送り、私は庭の隅のひよこ豆が気になっていた。
ラーロさんは自分の庭なのに、ひよこ豆を待って行くと時、私に断ってから持って行った。

「やはり、あのひよこ豆は私が植えたんだ」

何故だろう?
ひよこ豆が好きだから?

庭のひよこ豆に近づき残っている、莢にふれるとざわざわとの胸の中が騒ついた。

「シャルロットお嬢様、お昼の準備が終わりました」

「はーい、いま行きます」

キッチンのテーブルでマリーさんとの昼食をとった後は、することが無く部屋に戻り朝ラーロさんが持って来た図鑑を何気無しに開いた。

ペラペラとページをめくりであるページで手が止まった。

「これ、スライム?スライムの絵だわ!反対側のページは魔法陣?変わった図鑑ね」

でも、前に誰かと一緒に見たような気がした。
ざわざわと胸の中がざわ付く。

「もう、朝から何、何なのよ!」

分からないことばかりで少しイラっとして、見ていた図鑑に八つ当たりをしてしまった。

両手でバシッとスライムが描かれたページを叩いてしまった。
魔法陣に私の手が触れた途端に光りスライムの映像が映った。

ビョヨヨーーン、プルルルルンと愉快に、私の目の前でスライムが伸びたり縮んだり。

「何、何なの。このスライムの動き、ふふっ……やっぱりこの図鑑で1番スライムが好きだわ!」

あれ、いまわたしスライムが1番好きと言った。
初めて?見た図鑑なのにどうして知っているの?
どういう事?

そう言えば朝ラーロさんが言っていた。
図鑑と後ノートでルーン文字を私が勉強しているって、図鑑と一緒に置いてあったノートを開いた。

「これは?」

ルーン文字の勉強していたと見られるページに絵が描いてあった。


「この…ど下手な絵は私の絵だわ」


私の下手な絵の横に描いてあるこれは誰の絵?
ページをめくると次のページにも絵が描いてあった。

この絵は誰が描いたの?
私の目の前に部屋の中が見えた。

そこに私の絵を見て笑う誰かがいる。

『シャルロット嬢は絵が下手だな』

『シャルロットちゃんよりも俺の方がまだ上手いよな』

『シャルロット様…ふふっ』


「あーっああ、あああっ…何よ、絵が下手なのは知ってる!」


ねぇ、あなた達は誰なの?
知っているのに思い出せない。
胸にこみ上げるこの想いは何?


『シャルロット嬢』


私に優しく笑いかけるあなた…に会いたい。


会いたいと思ったすぐにズキズキと……


「ああ、頭が、胸が痛い……ググッ!!きゃぁぁぁ!」


叫んだと同時にパリィィィンと私の中で何かが、音を出して砕け散っていった。


「シャルロットお嬢様!」

私の叫び声を聞きつけてマリーさんが勢いよく扉を開け入って来て、いまにも倒れそううな私を両手を伸ばし必死に抱えてくれた。

「シャルロットお嬢様気をしっかり」

「大丈夫よ、マリーさん」


ああ、思い出した…。


全部…思い出した…。


目を覚ましてからずっと、心の中にひかかっていた事を…全部いま思い出した。


「ねえ、マリーさん」


私は流れ込んでくる多くの記憶に朦朧としながらマリーさんに聞いた。



「どうして私はここに居るの?」

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