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旅行編
初めての旅行 2
しおりを挟む馬車が目的地に着き、先にウィルソンが降り、ルーシェが降りる時に手を出してくれるが、恥ずかしくて御者の人の顔が見れなかった。
俯き加減で馬車を降りたが、今夜からお世話になるお屋敷を見上げ、ルーシェは言葉を失った。
お城の様な豪邸に開いた口が塞がらない。庶民感覚のルーシェは、まさかこんな凄い場所に泊まるだなんて思っていなかった。
「あ、あの…ウィル様?……場所、間違えてませんか?」
恐る恐る聞いてみるが、ウィルソンは別段変わりなく、普通に答える。
「いや?ここで間違えない」
「な、何ですか?この、ただならぬ雰囲気のお屋敷は……」
「それは、そうだろう。ここは王族専用の邸宅だからな」
「はぁ?」
当然の事のように言われ、目が点になる。
こちらの世界で旅行というものに縁のなかったルーシェは、どうしても前世の様な感覚で、それなりの旅館に泊まり、美味しいものを食べ、温泉に入ってゆっくりする。というものを思い浮かべていた。
なのだが、それがどうしてこうなった?
荘厳な雰囲気の邸宅を前に、ビシリと固まってしまったルーシェの腰に手を回し、ウィルソンはどんどん前に進んでいく。
大人数の使用人に出迎えられ、訳もわからぬまま部屋に案内され、気付いたらポカーンとソファーに座っていた。
ハッとして、急いでウィルソンに確認をとる。
「ウィル様!これはどういうことですか!?」
「?どういうこととは?」
ウィルソンは気を使って、人払いしてくれている。上着をかけながら不思議そうな顔でルーシェを見ている。
「いや、ですから、どうしてこんな豪邸に…しかも王族って…そんな場所恐れ多くて…」
「これはあくまで、君に対しての功績を讃える褒賞だからな。エミリオ殿下が是非にと許可してくれた」
「エミリオ殿下が……」
こんな凄い待遇で逆に嫌がらせなんじゃないかと、勘ぐってしまう。
ソファーに座っていたルーシェの目の前に跪き、手を取って唇を寄せる。
「君が私との休暇を所望してくれたんだ。それに値するほどの恩沢を捧げるつもりだ」
宝石の様に美しい薄紫色の瞳で熱く見つめられ、ゾクリと肌が粟立つ。
心臓がドクドクと脈打ち、鼓動が激しくなる。
ウィルソンと恋仲になり、早数ヶ月経つが、未だこの美貌に慣れない。
こうして視線一つで、簡単に魅了されてしまう。
この見目麗しい婚約者が、何故自分のような者を選んでくれたのか、いつまで経っても疑問は尽きない。
「そ、そんなつもりでは…私はウィル様と一緒にいられれば、それ以上望むことなどございません……」
「君は本当に欲がないな。もっと我儘を言って、私を求めてくれて構わない」
握っていた指先をカリッと、軽く噛む。
「んっ!」
それから丹念に舐められ、背中がぞくぞくする感覚が止まらない。
「っん、あっ!ウィル様、あの……ぁッ」
今日のウィルソンは、甘さがいつにも増して凄い。
こんな風に3日も甘ったるい雰囲気を味わっていたら、糖分過多で倒れるかもしれない。
コンコンッ
外からノックの音が聞こえ、外から晩餐の準備が整ったと、声をかけられる。
正直助かったと思ってしまった。
あのままじゃまた、事になだれ込む勢いだった。
「ウィル様、私こんな格好ですが…正装に着替えた方がよろしいでしょうか?」
いつもよりは良いドレスは着ているが、きちんとしている訳ではない。
王族が利用するような晩餐なら、ちゃんとしたドレスに着替えるべきだろうか、と緊張してしまう。
ウィルソンが立ち上がり、上着だけ羽織る。
「気にすることはない。君は正式な場に慣れていないだろう?緊張して、料理も楽しめないようでは意味がないからな。そのままで大丈夫だ」
手を差し出され、ルーシェもソファーから立ち上がる。
ウィルソンの気遣いが嬉し過ぎて、感動でうるうるしてくる。
「ウィル様…好きです……」
瞳を潤ませ、ウィルソンに思ったことを素直に告げると、勢いよく握っていた手を引っ張っられる。
「えっ?んっ!……ん~っ」
後頭部を手で寄せ、唇を深く奪われる。
しばらく貪られ、荒い息をつきながら離された。
「はぁ……はぁ……」
「ルー…あまり可愛い事を言っていると、晩餐を食べ損なうぞ」
目の前で欲望を抑えたように低く囁かれ、身体がビクリと跳ねる。
「んっ…はい…気をつけ…ます……」
これは自分も気を引き締めないと駄目だな。
ルーシェは軽率な言動は控えるように心に誓った。
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