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旅行編
後日談 最終話
*
馬に乗り、夜の王都を駆け抜ける。
王宮から一刻程走ると侯爵邸に着いた。
先触れを出していなかったので突然の帰宅に門番のキースが驚く。
そして早くルーシェに会いに行けと急かされる。
この男も本来は厳格で気難しい奴なのだが、ルーシェの魅力に取り込まれた内の一人だ。
屋敷に入るとホールにクラウスが待っていた。
「坊っちゃま、こんな夜更けにお帰りとはどうなさいました?確か帰宅は当分先の予定ではなかったですかな?」
一刻も早くルーシェの元に行きたくて、歩きながらその問いを聞き流す。
「お帰りになられたのでしたら、ルーシェさんに会いに行かれて下さい。ずっと様子がおかしかったですから……」
「ルーが、か?」
「はい、左様でございます。無理に明るく振る舞おうと、見ている此方が痛々しい程でした。もうお休みだとは思いますが、行って差し上げて下さい」
その言葉に心底驚き、急いでいた脚が思わず止まる。
クラウスは婚姻前の関係に煩く、ウィルソンがルーシェの元へ通っているのも少しは自重しろと散々言われていたからだ。
なのにあのクラウスにこんな台詞を言わせるとは。
クラウスといいキースといい、ルーシェは相当この屋敷の人間に愛されているようだ。
フッと小さく笑いが出てしまう。後ろを振り返り、クラウスに視線を合わせる。
「……わかっている。元よりそのつもりだ」
その言葉だけ言い残し、再び足早にルーシェの部屋へと急いだ。
そっと扉を開ける。
周りは薄暗いが、夜目が利くのでベッドに寝ているのが見える。
ウィルソンは逸る気持ちを抑え、ゆっくりとベッドへ向かい腰を下ろす。久々に見るルーシェに愛しさと高揚感が湧き上がる。
テーブルの燭台に火を灯すとルーシェの顔が良く見える。
「ん……」
安らかに眠っているルーシェを少し恨めしく思うが、良く見ると頬に涙の跡が残っていた。
それを見てウィルソンの心の蟠りが消え、安堵が押し寄せる。
自分だけでは無く、ルーシェも不在を寂しく思ってくれていたのだ。
外套を脱ぎシャツだけになると、ルーシェの前髪をそっと掻き上げる。
隣に入ろうと上掛けを捲り、思わず声を上げそうになる。
「──!」
咄嗟に口を手で覆う。
ウィルソンはその状態のまましばらく止まってしまった。
ルーシェがウィルソンの寝間着を羽織り、寝ていたからだ。
その衝撃の事実に柄にもなく心臓が脈打ち、どんどん心の奥に愛しさがこみ上げてくる。
顔が綻ぶのを止めることが出来ない。
(これは、マズイな……)
こんなにも愛おしくて堪らない存在を他には知らない。
言葉で言われるより遥かに胸にくる。
ルーシェが寂しさを紛らわす為にしていた行為だと思うと、いても立ってもいられず布団に潜り込みルーシェを抱きしめた。
柔らかな身体の感触とルーシェの仄かに甘い芳しい香りが鼻孔を擽り、寝ていることなどお構いなしに顔中にキスを落としていく。
「う…ん……」
突然の行為にルーシェが僅かに目を覚ます。
寝惚けているのか、まだ焦点があっていない。
「…ウィル、さ…ま?…ウィル…様っ……」
「ルー」
ウィルソンが唇に口付けを施すと、ルーシェは意識が曖昧なまま腕を伸ばし、ウィルソンに抱き着く。
「ず…っと…ずっと……会いた…かった……」
「遅くなってすまない……私も君に、会いたかった」
ウィルソンはルーシェを自分の腕の中に閉じ込めるように抱き寄せる。
「…寂しかった…もう……離さ…ない…で……」
譫言のように呟き、ルーシェはウィルソンにしがみつく。
「……大丈夫だ…側にいる」
ウィルソンは安心させる様にルーシェの頭を撫でる。
「ウィル様が……居ないと……ダメな…の……」
涙を流して、安心したように胸に顔を寄せ再び眠りに付いた。
「……それが、君の本音か…‥」
ルーシェの様子を見ながらウィルソンは思う。
自分は大きな勘違いをしていたのだろうか。
ルーシェは自分に対し淡泊なのではなく、己の欲望を抑えているだけだと。
(殿下の言った通りだったな)
普段のルーシェなら、しばらく離れていた後は嬉しそうにしながらも、どこか遠慮がちで素直に甘えてはくれなかった。
自分ばかりが会いたかったのかと落胆し、気が滅入る事もあった。
だがそれはルーシェが強がり、己を抑えていただけだったのかもしれない。
がっちりと抱き着いて離さないルーシェを見て、自然と笑みが溢れる。
やはり彼女は自分を囚えて離さない。
この胸の内に込み上げる感情を何と表現すればいいのか……言葉に表すことが難しい。
これを無自覚でやっているんだから本当に質が悪い。
ウィルソンもルーシェを抱きしめ、温もりを感じながら瞳を閉じる。
自分が誰かの隣で、こんな風に安心して眠れる日が来るとは思いもしなかった。
心が安らぎで満たされ、今まで眠れなかったのが嘘のような猛烈な睡魔が襲ってくる。
こうして二人は抱き合ったまま、陽が高く昇るまで目覚めることはなかった。
**************************
ここまで読んで頂いて、ありがとうございます!
これにて完結となります!
長い間ありがとうございました!!
馬に乗り、夜の王都を駆け抜ける。
王宮から一刻程走ると侯爵邸に着いた。
先触れを出していなかったので突然の帰宅に門番のキースが驚く。
そして早くルーシェに会いに行けと急かされる。
この男も本来は厳格で気難しい奴なのだが、ルーシェの魅力に取り込まれた内の一人だ。
屋敷に入るとホールにクラウスが待っていた。
「坊っちゃま、こんな夜更けにお帰りとはどうなさいました?確か帰宅は当分先の予定ではなかったですかな?」
一刻も早くルーシェの元に行きたくて、歩きながらその問いを聞き流す。
「お帰りになられたのでしたら、ルーシェさんに会いに行かれて下さい。ずっと様子がおかしかったですから……」
「ルーが、か?」
「はい、左様でございます。無理に明るく振る舞おうと、見ている此方が痛々しい程でした。もうお休みだとは思いますが、行って差し上げて下さい」
その言葉に心底驚き、急いでいた脚が思わず止まる。
クラウスは婚姻前の関係に煩く、ウィルソンがルーシェの元へ通っているのも少しは自重しろと散々言われていたからだ。
なのにあのクラウスにこんな台詞を言わせるとは。
クラウスといいキースといい、ルーシェは相当この屋敷の人間に愛されているようだ。
フッと小さく笑いが出てしまう。後ろを振り返り、クラウスに視線を合わせる。
「……わかっている。元よりそのつもりだ」
その言葉だけ言い残し、再び足早にルーシェの部屋へと急いだ。
そっと扉を開ける。
周りは薄暗いが、夜目が利くのでベッドに寝ているのが見える。
ウィルソンは逸る気持ちを抑え、ゆっくりとベッドへ向かい腰を下ろす。久々に見るルーシェに愛しさと高揚感が湧き上がる。
テーブルの燭台に火を灯すとルーシェの顔が良く見える。
「ん……」
安らかに眠っているルーシェを少し恨めしく思うが、良く見ると頬に涙の跡が残っていた。
それを見てウィルソンの心の蟠りが消え、安堵が押し寄せる。
自分だけでは無く、ルーシェも不在を寂しく思ってくれていたのだ。
外套を脱ぎシャツだけになると、ルーシェの前髪をそっと掻き上げる。
隣に入ろうと上掛けを捲り、思わず声を上げそうになる。
「──!」
咄嗟に口を手で覆う。
ウィルソンはその状態のまましばらく止まってしまった。
ルーシェがウィルソンの寝間着を羽織り、寝ていたからだ。
その衝撃の事実に柄にもなく心臓が脈打ち、どんどん心の奥に愛しさがこみ上げてくる。
顔が綻ぶのを止めることが出来ない。
(これは、マズイな……)
こんなにも愛おしくて堪らない存在を他には知らない。
言葉で言われるより遥かに胸にくる。
ルーシェが寂しさを紛らわす為にしていた行為だと思うと、いても立ってもいられず布団に潜り込みルーシェを抱きしめた。
柔らかな身体の感触とルーシェの仄かに甘い芳しい香りが鼻孔を擽り、寝ていることなどお構いなしに顔中にキスを落としていく。
「う…ん……」
突然の行為にルーシェが僅かに目を覚ます。
寝惚けているのか、まだ焦点があっていない。
「…ウィル、さ…ま?…ウィル…様っ……」
「ルー」
ウィルソンが唇に口付けを施すと、ルーシェは意識が曖昧なまま腕を伸ばし、ウィルソンに抱き着く。
「ず…っと…ずっと……会いた…かった……」
「遅くなってすまない……私も君に、会いたかった」
ウィルソンはルーシェを自分の腕の中に閉じ込めるように抱き寄せる。
「…寂しかった…もう……離さ…ない…で……」
譫言のように呟き、ルーシェはウィルソンにしがみつく。
「……大丈夫だ…側にいる」
ウィルソンは安心させる様にルーシェの頭を撫でる。
「ウィル様が……居ないと……ダメな…の……」
涙を流して、安心したように胸に顔を寄せ再び眠りに付いた。
「……それが、君の本音か…‥」
ルーシェの様子を見ながらウィルソンは思う。
自分は大きな勘違いをしていたのだろうか。
ルーシェは自分に対し淡泊なのではなく、己の欲望を抑えているだけだと。
(殿下の言った通りだったな)
普段のルーシェなら、しばらく離れていた後は嬉しそうにしながらも、どこか遠慮がちで素直に甘えてはくれなかった。
自分ばかりが会いたかったのかと落胆し、気が滅入る事もあった。
だがそれはルーシェが強がり、己を抑えていただけだったのかもしれない。
がっちりと抱き着いて離さないルーシェを見て、自然と笑みが溢れる。
やはり彼女は自分を囚えて離さない。
この胸の内に込み上げる感情を何と表現すればいいのか……言葉に表すことが難しい。
これを無自覚でやっているんだから本当に質が悪い。
ウィルソンもルーシェを抱きしめ、温もりを感じながら瞳を閉じる。
自分が誰かの隣で、こんな風に安心して眠れる日が来るとは思いもしなかった。
心が安らぎで満たされ、今まで眠れなかったのが嘘のような猛烈な睡魔が襲ってくる。
こうして二人は抱き合ったまま、陽が高く昇るまで目覚めることはなかった。
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