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復讐
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まずは悪事に手を染めず犯罪にならないこと。これをやってしまうとジャンたちと変わらない最低な人間になってしまう。
これまで奪われた子爵家の財産を取り戻し、必ず相手にギャフンと言わせること。
それがオリビアの決意した復讐だ。
机に座り、必要なことや注意事項を紙に書いていく。
「犯罪に手を染めないでジャンたちに復讐するのに一番いいのは、やっぱり身分の高い人に嫁ぐこと。しかも相手は最低でも侯爵家以上の爵位がないと……」
この世界の貴族女性が位を上げるには、基本的に嫁ぐこと以外方法はない。
領地を受け継ぐことも自分で起業することも許されてはいない。
なのでより爵位の高い相手に嫁ぎ、自分の地位を上げることに全てをかけている。
しかしオリビアはすでに結婚適齢期を越え、今年で二十六になる。
加えてそこまで秀でた容姿ではなかった。
背中の半分ほどまで伸びた焦茶色の髪は、いつもポニーテールで一本にまとめて縛るくらいで、特別に手入れなどはしていない。
色白が好まれるこの国で外に出ることも多いオリビアの肌は薄っすら日に焼けしている。
空色の瞳はくっきりとしていたが、二重ではなく奥二重だったので密かにオリビアのコンプレックスだった。
痩せ型で胸もさほど大きくなく、背もこの世界では低いほうに分類される。
さらにジャンとの騒動とスミス侯爵家との確執で、結婚が破談となった「傷もの令嬢」として汚名を着せられたオリビアの結婚は絶望的といえる。
「私のポテンシャルが低すぎてヘコむなぁ……。良くても悪くてもお金持ちのお爺さんの後妻くらいかな? どっちにしても、私が高位貴族に嫁ぐことは不可能だ。はぁ……、どこかにいないかな、良い相手が――」
しばらく机に突っ伏して考えていたオリビアは、そこでパッとある人物が思い浮かび、勢いよく顔を上げた。
「――そうだっ! 一人だけいるっ!!」
勢いのまま机の引き出しを開け、入っていた書類をかき分け、奥のほうにある古びたノートを取り出した。
「あった! 記憶が戻った時に書いておいて良かったっ」
取り出したノートを自分の胸にぎゅっと抱きしめた。
そのノートにはこの世界の言葉でない文字で『癒やしのアフロディーテ 攻略対象者』と書いてある。
ペラペラと古いノートのページを捲っていき、一番最後のページでオリビアの手が止まった。
「私が復讐を成し遂げるには、もうこの人しかいない。魅惑の攻略対象者、王弟殿下のイクシオン・アーク・ライアー……!」
ノートを持つオリビアの手に力が籠もる。
前世のことはほとんど覚えていないのだが、なぜかこのゲームのことだけは細かく記憶していた。
そしてこの世界がゲームの中だということに気付いていた。
改めて書いてあった内容を頭に叩き込んでいく。
オリビアのいるこの世界は、実は前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だった。
その名も『癒やしのアフロディーテ』というものだ。
主人公のアフロディーテが攻略対象者四名の誰かを選び、目当ての相手のルートに向かい進んでいくもの。
その中の一番難易度の低い攻略対象者が王弟殿下であるイクシオンだった。
(たしか……現実でアフロディーテと結ばれたのは攻略対象者の一人、第一王子メルディオだった。イクシオンはアフロディーテに振られた後は、とくに誰とも一緒になるようなことはなかったと思う。今はたしか、イクシオンが統治してる領地がかなり深刻な問題を抱えてる。イクシオン自体は魅力的な人だったけど、他の誰も彼を助けられる人はいなかった。唯一アフロディーテがすべてを解決できる人物だったのに、その本人もメルディオを選んでしまったから)
なぜイクシオンの難易度が低いかというと、イクシオンは無類の美女好きだからだ。
医師を目指す貧乏貴族のアフロディーテは誰もが認める絶世の美女だ。
イクシオンはアフロディーテと出会うなり、その美しさに一目惚れし、積極的に迫っていた記憶がある。
要するに言い方は悪いが、美女なら誰でもいいようなチョロい攻略対象者だったのだ。
「イクシオンの領地はここからかなり遠いけど、馬車を乗り継げばなんとか辿り着ける。私は領地問題を解決する術を知ってるし、向こうは絶対的な地位を持ってる絶好の相手。お互いの利害は完全に一致してる!」
自分は美人じゃないからイクシオンも興味は沸かない。
だが、イクシオンが一番頭を悩ませている領地問題は解決することができる。
これを引き合いに、イクシオンに契約結婚を申し込めば、互いの問題をすべて解決できるとオリビアは意気込んでいた。
これまで奪われた子爵家の財産を取り戻し、必ず相手にギャフンと言わせること。
それがオリビアの決意した復讐だ。
机に座り、必要なことや注意事項を紙に書いていく。
「犯罪に手を染めないでジャンたちに復讐するのに一番いいのは、やっぱり身分の高い人に嫁ぐこと。しかも相手は最低でも侯爵家以上の爵位がないと……」
この世界の貴族女性が位を上げるには、基本的に嫁ぐこと以外方法はない。
領地を受け継ぐことも自分で起業することも許されてはいない。
なのでより爵位の高い相手に嫁ぎ、自分の地位を上げることに全てをかけている。
しかしオリビアはすでに結婚適齢期を越え、今年で二十六になる。
加えてそこまで秀でた容姿ではなかった。
背中の半分ほどまで伸びた焦茶色の髪は、いつもポニーテールで一本にまとめて縛るくらいで、特別に手入れなどはしていない。
色白が好まれるこの国で外に出ることも多いオリビアの肌は薄っすら日に焼けしている。
空色の瞳はくっきりとしていたが、二重ではなく奥二重だったので密かにオリビアのコンプレックスだった。
痩せ型で胸もさほど大きくなく、背もこの世界では低いほうに分類される。
さらにジャンとの騒動とスミス侯爵家との確執で、結婚が破談となった「傷もの令嬢」として汚名を着せられたオリビアの結婚は絶望的といえる。
「私のポテンシャルが低すぎてヘコむなぁ……。良くても悪くてもお金持ちのお爺さんの後妻くらいかな? どっちにしても、私が高位貴族に嫁ぐことは不可能だ。はぁ……、どこかにいないかな、良い相手が――」
しばらく机に突っ伏して考えていたオリビアは、そこでパッとある人物が思い浮かび、勢いよく顔を上げた。
「――そうだっ! 一人だけいるっ!!」
勢いのまま机の引き出しを開け、入っていた書類をかき分け、奥のほうにある古びたノートを取り出した。
「あった! 記憶が戻った時に書いておいて良かったっ」
取り出したノートを自分の胸にぎゅっと抱きしめた。
そのノートにはこの世界の言葉でない文字で『癒やしのアフロディーテ 攻略対象者』と書いてある。
ペラペラと古いノートのページを捲っていき、一番最後のページでオリビアの手が止まった。
「私が復讐を成し遂げるには、もうこの人しかいない。魅惑の攻略対象者、王弟殿下のイクシオン・アーク・ライアー……!」
ノートを持つオリビアの手に力が籠もる。
前世のことはほとんど覚えていないのだが、なぜかこのゲームのことだけは細かく記憶していた。
そしてこの世界がゲームの中だということに気付いていた。
改めて書いてあった内容を頭に叩き込んでいく。
オリビアのいるこの世界は、実は前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だった。
その名も『癒やしのアフロディーテ』というものだ。
主人公のアフロディーテが攻略対象者四名の誰かを選び、目当ての相手のルートに向かい進んでいくもの。
その中の一番難易度の低い攻略対象者が王弟殿下であるイクシオンだった。
(たしか……現実でアフロディーテと結ばれたのは攻略対象者の一人、第一王子メルディオだった。イクシオンはアフロディーテに振られた後は、とくに誰とも一緒になるようなことはなかったと思う。今はたしか、イクシオンが統治してる領地がかなり深刻な問題を抱えてる。イクシオン自体は魅力的な人だったけど、他の誰も彼を助けられる人はいなかった。唯一アフロディーテがすべてを解決できる人物だったのに、その本人もメルディオを選んでしまったから)
なぜイクシオンの難易度が低いかというと、イクシオンは無類の美女好きだからだ。
医師を目指す貧乏貴族のアフロディーテは誰もが認める絶世の美女だ。
イクシオンはアフロディーテと出会うなり、その美しさに一目惚れし、積極的に迫っていた記憶がある。
要するに言い方は悪いが、美女なら誰でもいいようなチョロい攻略対象者だったのだ。
「イクシオンの領地はここからかなり遠いけど、馬車を乗り継げばなんとか辿り着ける。私は領地問題を解決する術を知ってるし、向こうは絶対的な地位を持ってる絶好の相手。お互いの利害は完全に一致してる!」
自分は美人じゃないからイクシオンも興味は沸かない。
だが、イクシオンが一番頭を悩ませている領地問題は解決することができる。
これを引き合いに、イクシオンに契約結婚を申し込めば、互いの問題をすべて解決できるとオリビアは意気込んでいた。
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