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強がり
「お前はいつまでそうしているつもりだ?」
「――っ!」
突然、背後から声をかけられ、壁に寄りかかっていた体が驚きにビクッと跳ねた。
「いッ!」
その拍子に思わず着いた足にズキッと痛みが走る。痛みに顔を歪め、声が漏れてしまう。
「強がるのもいいが、こんな時くらい素直に助けを求めたらどうだ?」
やはり不機嫌そうなイクシオンがそう言って近づき、自然の流れのように抱き上げられた。
「なっ、殿下?!」
突然の浮遊感に驚いて、とっさにイクシオンの体に抱き着いた。
騎士団長のライアンならまだしも、イクシオンは長身だが肉体派には見えないので、抱えられていることに不安を覚える。
「重いので降ろしてください! 一人で歩けますっ」
いくらオリビアが小柄でも、やはり人一人抱えるのは大変だ。
恥ずかしさもあってイクシオンに降ろせと訴えるが、そのまま歩き出してしまった。
「ライアンの時は大人しく抱えられていたのに、夫である俺の前では暴れるのか?」
耳元で怪訝そうに問われるが、ライアンにも抱えることを許したわけではない。
ライアンはオリビアの訴えも聞かずに、勝手に行動していただけだ。
「大人しく抱かれていた訳ではありません。卿にも再三降ろしてほしいと申し上げていましたが、聞き入れてもらえませんでした。……私のことなど、放っておけばいいのに」
意外なほど危なげもなく抱えられているが、やはり慣れないことに恥ずかしさと抵抗感が勝る。
「お前はどうしてそこに好意があると思わないんだ? ライアンのやつは明らかにお前に下心があってやっているんだぞ」
呆れるように問われるが、イクシオンの言っていることがまったく理解できなかった。
「ライアン卿が、私を……? 絶対にあり得ません。あの方はああいう性格なんです」
「たしかにライアンは昔から向こう見ずな奴だが、ここにお前を抱えてきた時の奴の顔を見ていないだろう?」
眉根をぎゅっと中央に寄せ、さらに怪訝な顔をしているイクシオンに、オリビアは少し怯んで控えめに口を開いた。
「見ては、いませんが……私は殿下の妃なので怪我をさせて焦っていたのでしょう。他意はないと思います」
イクシオンの様子を伺いながら言葉を返していくが、いつもの調子には戻ってくれなかった。
「まぁ、俺はそのほうが安心だがな。お前の鈍感さには心底感心させられる」
皮肉げな言葉に悔しさを覚え、言い返したい気持ちをグッと抑えた。
代わりに首に回していた腕を引き寄せ、両手の塞がっているイクシオンの唇を強引に奪った。
「――!」
唇を離すと、立ち止まって驚いた顔をしているイクシオンの瞳をまっすぐに見つめた。
「一つはっきり言わせてもらいますが……、私は今、殿下の妻です。殿下の妃であり、伴侶であり、殿下のものなのです。私は絶対に殿下を裏切りませんっ」
こう見えてイクシオンは、人を疑う傾向が強い。
なぜ常に一夜の相手を求めるかというと、後継者問題もそうだが、やはりそれも亡くなった母親が関係していた。
幼少期に愛など信じるなと母親に言われ続けた結果、イクシオンは常に好意を疑うようになった。前世の自分ことなどほとんど覚えていないのに、なぜかゲームの知識だけは鮮明に覚えている。
「加えて言うのであれば、他の男など興味もありませんし、どうでもいいのです! こんなことをするのも殿下だけですっ……それを、忘れないでくださいっ!」
足を止めて黙って話を聞いていたイクシオンが徐ろに口を開いた。
「――あぁ、そうだったな。お前は俺の妃で、妻で……俺だけのものだ」
「えぇ、おっしゃる通りです」
オリビアがきっぱり断言すると、ようやくイクシオンの表情がいつも通りに戻ってきた。
イクシオンは再び歩き出し、オリビアもその様子にホッと胸を撫で下ろした。
使用人たちが頬を染めて通り過ぎながら、一礼をしてオリビアたちを振り返っていた。
「とりあえず医務室まで運んでやる。そのあとは、そうだな……共に湯あみでもするか。片足が使えないと何かと不便だろう? 俺が直々に洗ってやるぞ。体の隅々までな……」
艶やかな笑みを浮かべて麗しい顔を近づけるイクシオンに、オリビアはさっと頬を赤らめ、顎を引いてキッと睨みつけた。
「け、結構です。一人でできますから、謹んで辞退させていただきますっ」
「クククッ、久しぶりに戻ったんだ。妻との時間を堪能するとしよう」
揶揄うように金色の瞳を細め、機嫌よくオリビアを見つめている。
「~~っ! いりませんっ!」
噛みつくように反論するが、イクシオンはやはり上機嫌でオリビアを抱えて歩き出した。
「――っ!」
突然、背後から声をかけられ、壁に寄りかかっていた体が驚きにビクッと跳ねた。
「いッ!」
その拍子に思わず着いた足にズキッと痛みが走る。痛みに顔を歪め、声が漏れてしまう。
「強がるのもいいが、こんな時くらい素直に助けを求めたらどうだ?」
やはり不機嫌そうなイクシオンがそう言って近づき、自然の流れのように抱き上げられた。
「なっ、殿下?!」
突然の浮遊感に驚いて、とっさにイクシオンの体に抱き着いた。
騎士団長のライアンならまだしも、イクシオンは長身だが肉体派には見えないので、抱えられていることに不安を覚える。
「重いので降ろしてください! 一人で歩けますっ」
いくらオリビアが小柄でも、やはり人一人抱えるのは大変だ。
恥ずかしさもあってイクシオンに降ろせと訴えるが、そのまま歩き出してしまった。
「ライアンの時は大人しく抱えられていたのに、夫である俺の前では暴れるのか?」
耳元で怪訝そうに問われるが、ライアンにも抱えることを許したわけではない。
ライアンはオリビアの訴えも聞かずに、勝手に行動していただけだ。
「大人しく抱かれていた訳ではありません。卿にも再三降ろしてほしいと申し上げていましたが、聞き入れてもらえませんでした。……私のことなど、放っておけばいいのに」
意外なほど危なげもなく抱えられているが、やはり慣れないことに恥ずかしさと抵抗感が勝る。
「お前はどうしてそこに好意があると思わないんだ? ライアンのやつは明らかにお前に下心があってやっているんだぞ」
呆れるように問われるが、イクシオンの言っていることがまったく理解できなかった。
「ライアン卿が、私を……? 絶対にあり得ません。あの方はああいう性格なんです」
「たしかにライアンは昔から向こう見ずな奴だが、ここにお前を抱えてきた時の奴の顔を見ていないだろう?」
眉根をぎゅっと中央に寄せ、さらに怪訝な顔をしているイクシオンに、オリビアは少し怯んで控えめに口を開いた。
「見ては、いませんが……私は殿下の妃なので怪我をさせて焦っていたのでしょう。他意はないと思います」
イクシオンの様子を伺いながら言葉を返していくが、いつもの調子には戻ってくれなかった。
「まぁ、俺はそのほうが安心だがな。お前の鈍感さには心底感心させられる」
皮肉げな言葉に悔しさを覚え、言い返したい気持ちをグッと抑えた。
代わりに首に回していた腕を引き寄せ、両手の塞がっているイクシオンの唇を強引に奪った。
「――!」
唇を離すと、立ち止まって驚いた顔をしているイクシオンの瞳をまっすぐに見つめた。
「一つはっきり言わせてもらいますが……、私は今、殿下の妻です。殿下の妃であり、伴侶であり、殿下のものなのです。私は絶対に殿下を裏切りませんっ」
こう見えてイクシオンは、人を疑う傾向が強い。
なぜ常に一夜の相手を求めるかというと、後継者問題もそうだが、やはりそれも亡くなった母親が関係していた。
幼少期に愛など信じるなと母親に言われ続けた結果、イクシオンは常に好意を疑うようになった。前世の自分ことなどほとんど覚えていないのに、なぜかゲームの知識だけは鮮明に覚えている。
「加えて言うのであれば、他の男など興味もありませんし、どうでもいいのです! こんなことをするのも殿下だけですっ……それを、忘れないでくださいっ!」
足を止めて黙って話を聞いていたイクシオンが徐ろに口を開いた。
「――あぁ、そうだったな。お前は俺の妃で、妻で……俺だけのものだ」
「えぇ、おっしゃる通りです」
オリビアがきっぱり断言すると、ようやくイクシオンの表情がいつも通りに戻ってきた。
イクシオンは再び歩き出し、オリビアもその様子にホッと胸を撫で下ろした。
使用人たちが頬を染めて通り過ぎながら、一礼をしてオリビアたちを振り返っていた。
「とりあえず医務室まで運んでやる。そのあとは、そうだな……共に湯あみでもするか。片足が使えないと何かと不便だろう? 俺が直々に洗ってやるぞ。体の隅々までな……」
艶やかな笑みを浮かべて麗しい顔を近づけるイクシオンに、オリビアはさっと頬を赤らめ、顎を引いてキッと睨みつけた。
「け、結構です。一人でできますから、謹んで辞退させていただきますっ」
「クククッ、久しぶりに戻ったんだ。妻との時間を堪能するとしよう」
揶揄うように金色の瞳を細め、機嫌よくオリビアを見つめている。
「~~っ! いりませんっ!」
噛みつくように反論するが、イクシオンはやはり上機嫌でオリビアを抱えて歩き出した。
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