79 / 99
建国祭 2
しおりを挟む「お待たせして申し訳ございません。本日の殿下は、いつも以上に美貌に磨きがかかってますね」
見慣れたと思っていた美しい容姿だが、改めて隣の王弟殿下を眺めてから、しみじみと言葉を吐いた。
「仕方ないだろう? 俺は何を着ても似合ってしまうからな」
美しく口角を上げ、艶やかに微笑むとまた後方から黄色い声が漏れている。
「はあ……左様でございますか。たしかに殿下は質素な服装でも一際目立ちそうですね」
イクシオンは自分の容姿の非凡さをわかっているだけに、否定などはしない。
呆れたように一言返すと、出口に向かい歩き出した。
衣装部屋から出ると外は真っ暗になっている。遠くに町が僅かに見え、そこはランプがたくさん灯り、庶民たちの祭りが開かれている。
長い廊下を歩きながらイクシオンが口を開く。
「お前もよく似合っているぞ。俺の隣を飾るに相応しい姿だ」
自分が選んだからか、オリビアの姿を見て頷きながら話している。
悔しいがイクシオンのセンスの良さにはオリビアも納得していた。
「殿下の隣では私など霞んでしまいますが、本日は別行動ですので気は楽です」
「……まぁ、そうだな」
淡々と話すオリビアの隣で、イクシオンは歯切れの悪い返事を返している。
「申し訳ございませんが、殿下も以前説明した通り、ご協力をよろしくお願いいたします」
「騒ぎが起きたら即座に駆け付ける、だったな」
「はい」
「暴れるつもりか?」
物騒な感じで聞かれるが、表情は崩さず淡々と答えていく。
「おそらくそうですね。その場合、私ではなく、相手が暴れると思いますが」
「お前がどれだけ暴れても加勢してやるから、思い切りやってこい」
まるでオリビアがジャンを殴りにでもいくような言い方だ。
イクシオンが暴れるオリビアと共にジャンを懲らしめてる場面を想像したらとても可笑しくて、思わず笑ってしまった。
「ぷっ、はははっ……! そんなこと言われたら、本当に暴れてしまいますよ?」
笑ったまま見上げたら、イクシオンもオリビアを見て微笑んでいた。
「俺はまったく気にしないぞ。どんな時でもお前の味方だ」
愛しい者でも見るような慈愛に満ちた表情と台詞に、ドキッと心臓が大きく跳ねた。
「――っ! あ、ありがとうございます……」
いつも揶揄うようなことしか言わないのに、絶妙なタイミングで意表を突くような発言をするのだからたまらない。
ドキドキと高鳴る鼓動に耐えきれず、パッと顔を反らしてお礼を言う。
「もちろん対価はもらうがな」
対価と聞いて平静さを取り戻す。
そう言ってもらったほうが現実的で気が楽だった。
「私が殿下にあげられるものなど何もありませんが?」
今度は視線を合わせて言葉を返すと、立ち止まったイクシオンは屈んで目線を合わせ、オリビアの開いた胸元を指先で軽く突いた。
「この体で払ってもらおうか」
目を細め艶やかな笑みで近づいたかと思うと、耳元でこそっと囁かれる。
「かっ……、考えておきます」
どこまでも自分を翻弄するイクシオンに悔しさを覚えて、わざと曖昧に答えてみた。
「否定はしないんだな?」
「殿下の行動次第ということです」
「クククッ、お前もずいぶんあしらい方が上手くなったな」
どうせ最後はイクシオンの発言通りになるのだから、少しは困ればいいのだと意地悪く考えてしまう。
「殿下と共にいたら嫌でもこうなります」
「それはいい傾向だ」
笑いながら再び足を進めるイクシオンに、オリビアも前を向いて歩き出した。
512
あなたにおすすめの小説
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う
ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――?
エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【完結】体目的でもいいですか?
ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは
冤罪をかけられて断罪された。
顔に火傷を負った狂乱の戦士に
嫁がされることになった。
ルーナは内向的な令嬢だった。
冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。
だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。
ルーナは瀕死の重症を負った。
というか一度死んだ。
神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。
* 作り話です
* 完結保証付きです
* R18
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました
ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。
夫は婚約前から病弱だった。
王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に
私を指名した。
本当は私にはお慕いする人がいた。
だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって
彼は高嶺の花。
しかも王家からの打診を断る自由などなかった。
実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。
* 作り話です。
* 完結保証つき。
* R18
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる