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しおりを挟む「師匠!よろしくお願い致します!」
騎士団の鍛練場に練習服でやってきたアイシャは、肩口までの邪魔な髪を後ろで一つにまとめ、堂々と真正面から入ってきた。
中では騎士達が訓練を行っている。剣を打ち合う音が辺りに響いている。
その中でギルバートは指導をしていている。
アイシャに気づいたが、そのまま続けて騎士達を見ている。
ギルバートは藍色の短めの髪に、鋭い灰色の瞳、端正な顔立ちなのだが、不機嫌そうな雰囲気が人を寄せ付けないオーラを醸し出している。
アイシャも無視されることを気にせず、ギルバートの元へ向かい、一礼する。
「師匠、本日もご指導よろしくお願いします!」
ギルバートは一瞥し、後ろを指差す。
「お前は隅で型の練習をしていろ」
「はい!」
またまた一礼、アイシャは騎士達が練習している後ろの端に移動し、教えられた通りの型を徹底的に覚えている。
そんな様子を他の騎士達は微笑ましく見ているのだ。
「アシュリーちゃん、今日も頑張るね!」
「仕事終わってから来てるんだろ?」
「偉いよ~」
顔見知りになった騎士の人達がアイシャに声をかける。
「お疲れ様です。私も他の方々に負けない様に頑張ります!」
アイシャは邪魔にならない隅の方で、初めに教えてもらった基本をいつも練習していた。
ギルバートは団長でアイシャに構っている程暇ではない。
なのでアイシャはこうして他の騎士やギルバートの打ち合う姿を見ては、その通りに型や素振りの練習をしているのだ。
陽も暮れてくると騎士団の訓練も終わる。その後の少し間だけ、ギルバートはアイシャに指導してもらえる。
もちろんギルバートに容赦などない。
「まだ話にならないな」
ギルバートの訓練が終わるとアイシャはボロボロになる。相手にもならないのは承知の上だ。
それが終わるとギルバートはさっさと鍛練場を後にする。
アイシャは何とか立ち上がり、ギルバートに一礼する。
「師匠!ありがとうございました!」
ギルバートは振り返りもしない。
見送りながら、残っていた騎士達がアイシャに声をかける。
「アシュリーちゃん、お疲れ様!」
「本当に毎日良くやるよな」
「あの団長相手にすごいよ。俺なんて相手させられるのも恐ろしいよ」
手拭いで汗を拭いていると、他の騎士達が労ってくれる。
「いえ、師匠の言う通りまだまだです。もっともっと強くならなければ!」
グッと拳を握り、悔しそうに言うアイシャに他の騎士達も感心する。
「……アシュリーちゃんて、どうしてそんなに強くなりたいの?」
「本格的に騎士でも目指してるのか?」
不思議そうに訪ねる。
普通に見てアイシャは美人だし、他の男から守って貰えるくらいの器量なのに、ここまで一途に強さを求める。
騎士達にとって、アイシャの行動はかなり不可解だった。
「私は、私の守りたい者の為に、もっと強くありたいのです!その為にはこのくらい、どうということもありません!」
キッと瞳を向けられた騎士達は、その真っ直ぐで真剣な眼差しにドキリとする。
「早く師匠に認めて貰えるくらいにならないと!」
そう言って鍛練場を後にする。
「……俺達も、追い越されないように頑張らないとな…」
「ああ、本当にな」
残された騎士達は顔を赤く染め、その姿を見送った。
アイシャが騎士団の練習に顔を出す様になってから、いつも以上に騎士達は訓練に打ち込むようになった。
中には良く思わない者も勿論いるが、基本的には受け入れられ、良い刺激になっている。
そのひたすら頑張る一生懸命な姿、ギルバートにボロボロにされてもめげないひた向きさに、アイシャに懸想する者も少なくない。
アイシャがいつもの様に、ギルバートに指導してもらっていると、珍しくギルバートが話かけてきた。
「3日後の昼にアーサーとお前の職場へ行く」
「……了解、しま…した……」
息も絶え絶えに返事を返す。
練習用の剣を下ろすと、ギルバートはまた質問してくる。ここまで喋るのも本当に珍しい。
「お前達はどこから来た?お前もお前の連れも、この国の者ではないな」
ギルバートからの質問にギクリとするが、アイシャは動揺を見せない。息を整え、ギルバートを見る。
「……師匠と言えど、その質問にはお答え出来ません」
確かに身分証は偽造してあるので、良く調べれば偽物だとバレてしまう。
だが、ここで取り乱してはいけない。
「それは後ろめたい事があるからか」
「そのような事は一切御座いません」
お互い睨み合うが、どちらも引かない。
周りの騎士達も話の内容までは聞こえないが、その状況にハラハラしながら見守っている。
「それは師匠ではなく、アーサー様からのご質問ですか?」
「お前には関係ない」
「こちらもお聞きしたいのですが、あの方が捜している人とはどの様な人物なのですか?」
「質問を質問で返すな」
「師匠が答えないのでしたら、私にも答える義務はありません」
「お前は本当に生意気だな」
呆れた様にギルバートが話す。徐に剣を置き、歩き出す。
「師匠?」
「着いてこい」
大股でずんずん歩いて行くギルバートに、アイシャも剣を置き慌てて着いていく。
その様子に騎士達は口々に噂する。
「おい!団長が呼び出したぞ!!」
「二人でどこ行くつもりだ!?」
「アシュリーちゃんが!!なぁ、大丈夫か!?」
「団長に限ってないだろ?」
「いやいや、団長が女の子にあんなに話すのなんて、見たことないからな!」
二人の後ろ姿を見送りながら、騎士達はアイシャの身を案じるのだった。
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