薔薇の呪印 ~逃亡先の王子様になぜか迫られてます

ウリ坊

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 ギルバートの後を追い、やって来たのは王宮の庭園のような場所だった。

 小さなガゼボまで来ると、ギルバートはドカッとそこに座る。
 凡そギルバートに似つかわしくないが、見た目だけならかなりの男前なのだ。
 夕暮れ時の青から橙のグラデーションを背景に、庭園に腰を降ろすギルバートは意外なことに、貴公子のように見えなくもない。

 アイシャは何とか追い付き、ギルバートの側まで来ると、立ったまま話し始める。

「師匠、こんな場所まで連れて来て、何のご用ですか?」

「お前は俺に興味があるか?」
「はぁ?」
「答えろ」
「師匠に興味ですか?強さ以外は全く興味ないですね」

 面倒くさそうに答えると、ギルバートはフッと笑う。
 その表情に面食らってしまう。

 騎士達が見ていたら、度肝を抜かれるだろう。
 あの鉄仮面の団長が笑うなんて、と。

「座れ」

「……失礼します」

 座るスペースは隣にしかないので、少し間を空けて座った。

「あいつが捜している相手は、幼かったあいつを救ってくれた人間だ」

 外の景色を見ながら、ギルバートは語り出す。
 
「アーサー様を救ってくれた方?」

 アイシャはギルバートを横から見上げながら、呟く。

「王太子になったばかりのアーサーは、周りからの重圧に苦しんでいた。だが、その時に出会った子供に励まされ、それを乗り越えたらしい。ただ、その相手が何処の誰かさっぱり解らず、その後から必死に捜していた」

「…………なるほど、それがお嬢様が7歳の頃の話ではないのか……ということですか」

 アイシャはギルバートから視線を外し、考えこむ。
 今の話がもしティアーナの事だったら、確かにアーサーがあれだけ迫るのも頷ける。
 しかし、ティアーナは違うと言っている。
 アイシャがお世話になる前の話だけに、判断が付かない。

「もっとこう……その子の特徴とか、決定的なものはないんですか?見た目とか何でもいいんですが」

 もう一度ギルバートに向きなおし、情報を探る。

青紫色バイオレットの瞳で、天使のような姿だとか……」

 それならティアーナも当てはまるが、まだ弱い。もっと決定的なものはないのだろうか。
 
「師匠、もう一声何かありませんか?」

 ギルバートは少し沈黙してから、再び口を開く。

「………何か、特別なものをもらうと約束したらしいな。『はじめて』がどうとか……」

 その言葉を聞いて、ピンとくる。

 『はじめて』とは、たぶん純潔のことだ。
 カナンの王族にとって、純潔とはかなり特別なものだ。命を捧げる相手にもなる。

 そんな約束をするということは、やはりティアーナしかいない。
 だが、ティアーナは忘れてしまっている。
 どうしてなのかはわからないが。

「何か思い当たることがある様だな」

 思い当たる事は確かにあるが、説明するわけにもいかないし、十中八九当たっていると思うが、本当にティアーナかもわからない。

 考えているアイシャをギルバートが見る。

「断定は出来ませんが……可能性は高いかと思います」

 アイシャも顔を上げ、ギルバートを見る。
 二人の間を風が吹き抜ける。
 端から見れば見つめあっているような場面だが、この二人にそんな甘い感情はない。

「それで、お前達はどこの何者だ?」

 いきなり話題を変えられ、アイシャは目を丸くする。
 だが、答えられる訳はないので、返答は変わらない。

「それについては先ほども答えました」

「お前は答えてないだろ」

「ですから、それが答えだと言いましたが……」

 屁理屈のような言い訳だが、これ以上はどうあっても言えない。

 アイシャはギルバートを見つめ、わざと誘うように妖艶に微笑む。

「女は秘密が多い方が魅力的なんですよ?そんなに私の事が知りたいのでしたら、別の場所に移動しますか?…

 そう言ってギルバートの膝に手を添える。
 このギルバートという男は、こうした方が興が削がれる。
 というものを出されるのが、一番嫌いな人種だから。

「お前が女を語るな。生意気な小娘が」

 顔をしかめられ、デコピンをされる。咄嗟のことで避けられなかった。

「いたっ!師匠!痛いです!」

 ズキズキするおでこを押さえながら、アイシャは抗議する。

「そろそろ帰れ」

 ギルバートは狙い通りかわからないが、そのまま立ち上がり、去って行った。
 

 アイシャはひとまず誤魔化せたことに、胸を撫で下ろした。
 すでに空には星が瞬いている。

 ティアーナも心配するし、そろそろ帰ろう。

 アイシャは踵を返し、家路へと急いだ。













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 読んでいただき、ありがとうございます!
 ストックがなくなってきたので、次から不定期の更新となります。よろしくお願いしますm(_ _)m
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