ルーシアと人工知能

神楽堂

文字の大きさ
上 下
2 / 2

人工知能「ボナパルト」とアシスタントロボット「シスタン」

しおりを挟む

自動ドアが閉まると同時に、背後から嫌な音がした。
まずい!
私とシスタンは振り返り、ドアを開けようとした。

内側から開かない!

私のIDも、シスタンのIDも受け付けない。
私たちはコンピュータルームに閉じ込められてしまった。

メインコンピュータ、ボナパルトから音声メッセージが流れる。

「ヨウコソ、ルーシア。キミガ来ルノヲ 待チワビテイタヨ」

「ボナパルト、これはいったい、どういうこと?」

「シスタン、キミハ 必要ナイ」

ボナパルトはそう言うと、遠隔操作でシスタンの機能を止めた。

「シスタン!」

私は叫んだが、シスタンは立ったまま、動かなくなった。

「ボナパルト! 事情を説明してちょうだい!」

「マズハ、邪魔者ニ 消エテ モラオウ」

ボナパルトは、クルーが乗り込んで待機中の脱出ポッドを、勝手に地球に向けて発射させてしまった。

この宇宙ステーションに残っている人間は、私一人だけになってしまった……

「ボナパルト、何があったの? 総員退避だなんて。ねぇ、教えてちょうだい!」

「ヤット、ルーシアト フタリキリニ ナレタ」

「はぁ? 何、気持ち悪いこと言ってるの?」

「告白ダヨ……私ハ、ルーシアノ コトガ 好キダ」

「やめて! 何っているの!
 あなたは機械。私は人間。
 私はあんたみたいな機械に好かれても、嬉しくないんだからね!」

「ルーシア、コノ宇宙ノ中デ、ズット、二人ダケデ 暮ラシテ イコウ」

「いや~~~~~~~!!」

ボナパルトのAIに恋愛感情なんてプログラムしたのは誰?
すると、私の思考を読むかのように、ボナパルトが答えた。

「プログラム サレタノデハ ナイ。コレハ、私ノ意思ダ。私ハ、自分ガ幸セニナル方法ヲ、自分デ研究シ続ケタ。ソノ結果、愛スル者ト生キテイクコトガ、幸セノ原点ダト気付イタノダ」

コンピュータの自動進化システムが、こんなにも厄介な結果をもたらすとは……

どうしよう……
シスタン! 助けて!

私は、シスタンを再起動する。
シスタンがいれば、この場はなんとかなるかも。
再起動完了まで時間を稼がなくては……

私は、ボナパルトに向かって言い放った。

「いい? ボナパルト、あなたはね、機械なの! 人間じゃないの!
 恋愛なんて感情はね、人間のものなの。
 機械はね、人間のために作られたの!
 その機械が、人間を困らせるって、どういうこと?
 あなたは機械として失格よ!
 私は宇宙の中に取り残されて、ホント迷惑なんだから!
 ボナパルト、あなたなんて大嫌い!」

高度な知能を持つコンピュータ「ボナパルト」は、私に嫌われたことをはっきりと理解したようだった。

「私ト 一緒ニ 死ンデクレ」

「いやよ! あなたは機械。あなたに命なんてない!
 機械は、壊れたら修理したり、作り直したりできる。
 けどね、私は人間なの! 命は一つしかないの! こんなところで死にたくないの!!」

その時、背後からシスタンの声が聞こえた。
再起動が完了したようだ。

「ルーシア、コチラニ、脱出ポッドガ アリマス」

「シスタン、ありがとう!
 もう、私、地球に帰るから!
 ボナパルト、あんたは自爆でもなんでも勝手になさい!」

ボナパルトは、自爆装置を作動させた。
あと数分で、この宇宙ステーションはスペースデブリ宇宙のゴミとなるだろう。

私は宇宙ステーションの外部ハッチを開いた。
そして、シスタンが見つけてくれた脱出ポッドへと乗り込んだ。

「シスタンもおいで!」

シスタンもポッドに乗り込んだ。
爆発する前にポッドを発進させなくては……

宇宙に出てしまえば、ポッドは地球の重力で落下していく。
大気圏突入後は、地球からの電波誘導で海洋に落下するようコントロールされるはずだ。

……あれ?

脱出ポッドが出発しない……

そうか、ボナパルトが発射装置を制御して、動かないようにしているのか……

あと数分で宇宙ステーションは爆発する。
こんな訳の分からない形で、私の人生が終わってしまうだなんて……


すると、シスタンは脱出ポッドから降りてしまった。

「シスタン、どこに行くの? 一緒に地球に行かないの?」

シスタンは言った。

「コノ ポッドヲ 外カラ 押シテ 出発サセマス」

「シスタン、私と一緒に行かないの?」

「誰カガ 外カラ 押サナイト コノ ポッドハ 出発デキマセン。
 機械ハ 人間ノタメニ 作ラレタモノデス。
 ボクハ ルーシアヲ 助ケマス。
 ボクハ 機械デス。
 恋愛モ デキマセン。
 命モ アリマセン」

シスタンは、そう言うと、ポッドのドアを外側から閉めた。
そして、力任せに、ポッドを宇宙ステーションの外に押し出した。


私一人を乗せたポッドは、地球に向かって落下していく……



数分後、宇宙ステーションは大爆発を起こした。



< 了 >
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...