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俺は地図を広げた。
コンパスを使って基地からの距離を測る。

航続距離の半径内に、日本の千歳空港がある。


そうだ! 日本へ行こう!


こんな国ソビエト連邦とはおさらばだ。

腐った組織、クソみたいな上官、飲んだくれの同僚、監視してくるKGB、そして、喧嘩の絶えない妻、そのすべてから逃れてやる!!


俺はこの戦闘機で、自由の地へと飛び立つのだ!

とは言っても、そう簡単にはいかないだろう。

戦闘機は常に2機以上で行動する。
機体の位置はレーダーで把握されている。
逃げ出せば追跡され、同僚機のミサイルによって撃墜されてしまう。


しかし……


俺には妙案があった。

自由の国への脱出。
必ず成功させる!!

* * * * *

作戦決行日。

パイロットは離陸前に必ず、医師の診断を受けることになっている。
俺はいつもより血圧が高いと指摘された。
緊張しているのだろう。

「朝、ジョギングをしていたので」

と、ごまかす。
軍医は特に疑うこともなく、搭乗の許可を出した。

今日の訓練は3機で行う。
俺たちは、訓練空域に向けて飛行した。

緊張が高まる……

* * * * *

作戦決行!!


俺は減速し、高度を下げた。
墜落をよそおうのだ。


俺は墜落信号を発信する。

海面ぎりぎりまで降下したところで、俺は操縦桿を引く。
そこから海面すれすれの低空飛行を続けた。
低空飛行なら、レーダーに捕捉されることはないはず。

当然のように、僚機や基地から無線の連絡が入ってくる。
俺は無線機を切った。

そして、機首を北海道へと向けた。

日本の防空識別圏に入れば、自衛隊はスクランブルをかけてくるだろう。


あれ……?


すでに、俺は日本の防空識別圏に侵入している。
にも関わらず、日本の戦闘機の姿が見えない……
これはいったいどういうことだ?

日本の領空に入った。
俺は今、領空侵犯をしている。

ソ連では、領空侵犯機は撃墜するきまりだ。
しかし、日本の自衛隊はそんなことはしてこないと聞いている。
無線で警告したり、威嚇射撃をしたりするのが関の山だ。
それを無視し続ければ、強制着陸させるための誘導を行うはず。


で、自衛隊機はどこにいるんだ?
まったく姿が見えない。


無線機を切っているので、自衛隊機が警告を出しているのかどうかも分からない。
俺はそのまま、日本の領空を飛行する。


まずい。燃料がない……
超低空飛行は予想以上に燃料を消費していた。

雲がかかっており、どこが千歳空港なのかも分からない。
自衛隊機、早く俺を見つけて、強制着陸のための誘導をしてくれ……

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