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「凜香~? どうしたの? なんか元気ないね」
急にクラスメイトから話しかけられて、私は正気に戻った。

何度も時を戻して、タイムリープものの小説を書いているものの、
しっくりくる作品を書き上げることができなかった。

あと何回、時を戻せるのだろうか?
いつか、戻せなくなる時がくるのだろうか?
そして、いや、それ以上に私を悩ませる要素があった。
後ろの席に座っている、野崎隼人くんのことだ。

ループする世界で彼だけが毎回、別の行動を取る。それが不思議だった。
それだけならいいのだが、彼がだんだん、私に好意を寄せてくるのだ。

好かれるということ自体は悪い気はしないけれども、
異性と付き合いたいとか、今はそんなことは考えられなかった。
あと、こんなことを言っては失礼かもしれないが、
隼人くんは私のタイプではなかった。

ループする世界で、彼だけが記憶を維持しているように思えた。
なぜって、彼が告白してくる日に、私は急いで帰って逃げることに成功したのに、
次の世界では、隼人くんはその前日に告白してきたことがあったのだ。

私が逃げることを知っている?
これは、彼も記憶が連続しているという証拠であろう。

ループのたびに、私は罪悪感が積み重なっていく。
そろそろ作品を完成させて、このループを終わらせないと。

私は小説を書き上げることと、彼の思いから逃げること、
この2つの課題に取り組むことになってしまった。


そしてついに、私は作品を書き上げた。
題名はこうだ。

『ループな小説家のループな苦悩』

私のこれまでの取組そのものを、作品にしてみた。
タイムリープの能力を持った女子高生作家が、何度も作品を書き直そうと時を戻し続ける。
繰り返される世界の中で、私は後ろの席の男の子から好意を寄せられてしまう。

時間を巻き戻して何度もやり直せば、いつかは自分の思い通りの未来になる。
私も隼人くんも、そう考えている。

しかし、私は隼人くんと付き合いたいわけではない。
何度、時を戻しても、申し訳ないが私の意思は変わらない。

望みを叶えることは、他人にとっては迷惑になる場合もある。
はじめは時を戻して夢を叶えることが正義だと考えていたが、本当にそれは正しいことなのだろうかと、疑問に思い始める。

彼の望みが叶うことは、私にとっては幸せではない。
私の望みが叶うことは、彼にとっては幸せではない。

どちらか一方の望みしか叶わない。
そうであれば、あえて時を戻して運命を変えようとするのではなく、
与えられた運命に従って生きる方がよいように思えた。

運命は、自分の思い通りにはならないかもしれない。
けれども、それでいい。
叶わぬ夢があってもいい。

そう納得できた時、私はタイムリープすることをやめ、
自分の運命に向かい合って生きる決心がついた。
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