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* * * * * *
「凜香ちゃん、何ニヤニヤしているの?」
クラスメイトから声を掛けられて、私は我に返る。
自分が書き直した小説のことを思い出していたのだ。
小学校時代の憧れの子、恵美ちゃんと同じ高校に入ったのはいいものの、
なかなか接点がなかった。
恵美ちゃんと友達になりたい、そう思っていたが、現実は厳しかった。
恵美ちゃんが私のことを詳しく覚えてくれていて、
私のことをきちんと分かってくれていたらいいな。
そんな妄想を抱いてしまうのだった。
そこで私は、自分の小説に恵美ちゃんを登場させてみた。
恵美ちゃんが私のことを覚えていて、私からヒントを得て物語を書いた。
そんな設定にしてみた。
今回は、なんだかしっくりくるような気がした。
どうしてだろう?
今まで散々、しっくりこなくて時を戻してやり直してきたのに……
私のやりたいこと、伝えたいことって、何だったんだろう。
これでいい! と決めることができず、何度もやり直す。
それが私。
ループをテーマにすることで、私は自分の弱さを表現したかったのかもしれない。
私の隠れた願いとは何だったのか。
恵美ちゃんに認められる世界を創りたかったのかもしれない。
隼人くんに好かれる世界を創りたかったのかもしれない。
その思いを、正直に作品に書いてみた。
それは、現実世界ではそうでなくてもいい。
私の作り出した世界の中で、そうなっていればいい。
だって、これは小説なんだもの。
私自身は運命には抗えなくても、小説の中の登場人物は運命に抗える。
小説を書く。それは、小さな世界を創造することと同じ。
私にはもう、作品を書き直そうという気持ちはなくなっていた。
試しに、私は念じてみた。
「時よ戻れ!」
しかし、時は戻らなかった。
私が時を戻せるのは、結果が分からない時だけ。
時を戻せなくなったということは、
それは、何かの結果が分かった、ということ。
長い書き直し生活も、これで終わりとなった。
やり直してばっかりの私だけど、
そんな私をそのまま受け入れることができる私になりたい。
私は小説を投稿し、パソコンを閉じた。
そして、窓を開けて夜空を見上げた。
今日は7月7日。七夕だ。
夜空には、ベガとアルタイルが光っている。
織姫と彦星だ。
「私が時を戻してばっかりだったから、
織姫と彦星、なかなか会えなかったかもね……」
部屋に吊るしていた短冊が夜風に揺れた。
小学6年の時に書いたものだ。
短冊には、こう書いてあった。
[小説家になれますように]
明日、文芸部に入部してみようかな。
私は再び、夜空を見上げた。
星は静かに、私を見つめていた。
< 了 >
「凜香ちゃん、何ニヤニヤしているの?」
クラスメイトから声を掛けられて、私は我に返る。
自分が書き直した小説のことを思い出していたのだ。
小学校時代の憧れの子、恵美ちゃんと同じ高校に入ったのはいいものの、
なかなか接点がなかった。
恵美ちゃんと友達になりたい、そう思っていたが、現実は厳しかった。
恵美ちゃんが私のことを詳しく覚えてくれていて、
私のことをきちんと分かってくれていたらいいな。
そんな妄想を抱いてしまうのだった。
そこで私は、自分の小説に恵美ちゃんを登場させてみた。
恵美ちゃんが私のことを覚えていて、私からヒントを得て物語を書いた。
そんな設定にしてみた。
今回は、なんだかしっくりくるような気がした。
どうしてだろう?
今まで散々、しっくりこなくて時を戻してやり直してきたのに……
私のやりたいこと、伝えたいことって、何だったんだろう。
これでいい! と決めることができず、何度もやり直す。
それが私。
ループをテーマにすることで、私は自分の弱さを表現したかったのかもしれない。
私の隠れた願いとは何だったのか。
恵美ちゃんに認められる世界を創りたかったのかもしれない。
隼人くんに好かれる世界を創りたかったのかもしれない。
その思いを、正直に作品に書いてみた。
それは、現実世界ではそうでなくてもいい。
私の作り出した世界の中で、そうなっていればいい。
だって、これは小説なんだもの。
私自身は運命には抗えなくても、小説の中の登場人物は運命に抗える。
小説を書く。それは、小さな世界を創造することと同じ。
私にはもう、作品を書き直そうという気持ちはなくなっていた。
試しに、私は念じてみた。
「時よ戻れ!」
しかし、時は戻らなかった。
私が時を戻せるのは、結果が分からない時だけ。
時を戻せなくなったということは、
それは、何かの結果が分かった、ということ。
長い書き直し生活も、これで終わりとなった。
やり直してばっかりの私だけど、
そんな私をそのまま受け入れることができる私になりたい。
私は小説を投稿し、パソコンを閉じた。
そして、窓を開けて夜空を見上げた。
今日は7月7日。七夕だ。
夜空には、ベガとアルタイルが光っている。
織姫と彦星だ。
「私が時を戻してばっかりだったから、
織姫と彦星、なかなか会えなかったかもね……」
部屋に吊るしていた短冊が夜風に揺れた。
小学6年の時に書いたものだ。
短冊には、こう書いてあった。
[小説家になれますように]
明日、文芸部に入部してみようかな。
私は再び、夜空を見上げた。
星は静かに、私を見つめていた。
< 了 >
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