24 / 24
第二十四話 祈り祈られ
しおりを挟むとうとう、イズルが元の世界に帰る日がやってきた。
召喚したときと同じ様に、一番異世界が近づき、その時に100人の魔道士と、聖女の力で道を作る。
そこへ、イズルを送り返すのだ。
カロリーナが儀式の中心となる。イシスはまだわずかな力しか扱えない。けれど、どうしても儀式に参加したいと言えば、誰にも制止されなかった。
それどころかカロリーナと同じ、儀式のための白い最上級のローブと、この日のためにドワーフが作ってくれた聖杖を持つ。
ドワーフはカヤマンディと今でも交流がある。
ベニシテはせっかく整えた炉を放棄したくないと、元離宮だった鍛冶場に常に何人かのドワーフを常駐させている。見返りに人間の鍛冶師の指導をしてくれるのだから、破格だろう。
その炉で作られた、祝福精錬ミスリルの端切れを組み合わせた、二本の聖杖。
祈りの力を高めてくれる、聖女にはありがたいもの。
準備は整った。
城の大ホールに、イズルが入場した。
服装はこの世界に来た時に着ていたタイトな礼服。学府の生徒のお仕着せというのだから驚いた。今はサイズが合わなくなったと窮屈そうに言っていたが、どうしても残して行けないとお針子に手直ししてもらったという。
彼の入場に合わせて、全員が膝をつき、頭をたれた。
国王も、王太子も、教会の尊位司教も。
イズルに世界が救われたのだから、最大限の感謝を表すのだ。
長々とした式典などいらないと言うから、代表してベアフレート王太子が挨拶を述べるにとどまった。
友人同士、きっと万感の思いだろう。真摯に頷き合う彼らと、ベアフレートの目尻に光るものがあるのを見て、イシスは胸がいっぱいになった。
ここで予定外のことが起きた。
いや、儀式を仕切るカロリーナが何も言わないので、ある意味予定どおりだったのかも。
挨拶が終わったイズルが、イシスに近寄ってきた。
驚くイシスに、隣のカロリーナがにこりと笑い、手話。
『イズル様が、イシスさまにお祈りをしたいと』
え?とイズルを見ると、少しイタズラっぽい、よく見かけた笑みを浮かべている。
彼らに促されて、イシスはその場で膝をついて手を組んだ。
そして、正面に立ったイズルの祈りの所作。
聖女のものだ。
――不思議なことが起きた。
『あまねく光。あまねく闇』
『声』が、聞こえた。
イズルの声だ。朗々と響く、青年の声。
聞こえるはずのない『音』に、イシスは呆然とイズルを見上げた。
こう改めて見ると、イズルはこの3年で顔つきも精悍になり、ずいぶんと大人びた。
勇者を立派に務め上げ、堂々としているのは変わりないけれど、雰囲気は落ち着いた。
その彼の、今は金色の目が静かにイシスを見下ろしている。
強く、清廉な力を感じる。
『あまねく空、あまねく地、あまねく海、あまねく山、神の意に従い存在し給うたすべてのものよ、神霊よ。我、勇者イズルが願い、祈る。この者へ神の祝福があらんことを。魂の道行きに幸多からんことを』
自然と垂れたイシスの頭頂部に、イズルの手が触れる。
何か、あたたかいものが、ふわりとイシスを包んだような……気がした。
『イズル様は1年修練されました』
立ち上がったイシスに、カロリーナが手話で伝えた。
『つらい修練もこなされて』
相変わらず、何も聞こえない。
けれど、さっきイズルの声が聞こえたような。
(……どちらでもいいわ)
イズルが、こうやって『祈ってくれた』。
それだけで嬉しい。
2078、最上級の祝福の祈り。
一年も修練したというと、まだイシスの封印が解けていないときからだ。
きっと、イシスを救うためにしてくれた。
ありがとうございます、と一音ずつ声に出してから、イシスはお礼の祈りを返す。発音が怪しいので、やはり十分な祈りにはならなかったけれど、イズルは分かったように微笑んだ。
――帰還の時。
儀式は滞りなく、イズルは元の世界に帰っていった。
『行ってしまいましたね』
カロリーナが寂しげに言った。
それに同じく手話で返して、かたわらに来たベアフレートの同じく寂しげ……そしてどこか悔しそうな顔を見上げる。
『どうしたの?』
イシスには、苦笑に近い表情を見せベアフレートは、こちらの手をとって軽く持ち上げて……額に押し付けられた。
「!?」
「……僕も祈ればってことかな」
その声が、耳を通して、届いた気がする。
相変わらず、周りの音は聞こえない、けれど。
「アフィ」
「……?」
やはり、聞こえない。
けれど、イシスは微笑んだ。
「あなたの声が、聞こえたかもしれないわ」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付
唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる