ジョブスキル『座敷わらし』で、幸せな家を作ります!

鹿音二号

文字の大きさ
7 / 27

6.こういうことは2度もなくていい

しおりを挟む
「メレを私の養子にしたいのだ」

つまり、ディナータ子爵の目的で、話というのはこのことだったのだ。
メレは驚いて目をまん丸にして、他のみんなは何のことかわからずにひそひそとささやきあっている。
ブローは……

「メレに何をするつもりだ!」

やっぱり、怒った。
それを、子爵は大人の余裕で笑った。

「君がメレの兄か。妹を守ろうとするとは、いい兄だ」
「っだ、騙されないぞ!メレが不思議な力を持ってるから、自分のものにしたいんだろう!」
「まずは聞いてほしい。君たちにも悪いことじゃない」

続く子爵の話は、ミカの予想通りだった。
メレの治癒スキルは貴重なものだ。
それを使って自分たちの生活を良くしようというのは、自然の流れだった。
けれど、『小さな天使』の噂は広まっていく。そうして国や神殿の耳に届けば、きっとメレを狙っていろんなことが起こるだろう。
そう、家を焼かれたのは、ある意味当たり前だったのだ。

「私は、君たちのような身寄りのない子供を助ける活動をしている。メレは特殊だ、このままだと君たち全員が不幸になってしまう」

メレが、ふと悲しげな顔をした。

「私の……せいなの?」
「メレ、違うの!」
「そうだ、誰も悪くない」

ミカの声に被せて、子爵がきっぱりと言った。

「ジョブスキル、特にそれが判明する子どもの段階で、誰が何を持っていようとそれは運命というものだ。それでも誰かのせいと言うなら、神様のせいだな」
「神さま……」

ふと、メレがミカを振り返った。

「……そうなのね」
「どうしたの?」
「……ううん。あの、ししゃくさま」

メレはディナータにもう一度向き合った。

「考えてもいいですか?」
「いいとも」
「メレ!」

ブローが足でカーペットを蹴る。気に入らないとそういうしぐさをするのだ。

「お兄ちゃん、考えさせてほしいの。これは、みんなのためになると思う」
「いやだ!メレはおれの妹だ!」
「お兄ちゃん……」
「ブロー、メレのことも考えてあげて」
「いやだ!」
「……大丈夫だ、急に妹を取っていったりしない。君も、考えるといい」
「……!」

ブローの前で膝をついて目を合わせるディナータに、彼はうろたえた。

「ここにはしばらく好きにいたらいい。ゆっくり考えて……昨日のこともある、心が落ち着くまで待とう」
「……う」

ブローはふんっと顔をそむけた。まっすぐに言われて、きっと戸惑っているのだ。

「何か聞きたいことは?」

メレに子爵が尋ねると、メレは首を振った。

「よくわからなくて……考えてから、また聞いてもいいですか」
「ああ、いくらでも」
「あの、」

ミカが手を上げると、子爵は分かっていると頷く。

「ミカ君はお茶を一緒にどうかな。もちろん他の子たちも別室に用意してある」
「おちゃ?」
「なんだそれ?」
「ふふ、みんな行ってらっしゃい。きっと驚くと思うよ」

執事らしい人とメイドたちに促されて、メレたちは部屋を出ていった。

「……さて、君は別のゲストルームで私に付き合ってもらうことになるが、かまわないか?」
「えっと……お招きいただき、感謝します?」
「はは、すばらしいね。君ならどこの社交場に出しても恥ずかしくない」
「からかわないでください」

ちょっと前世の漫画を思い出して真似てみただけだ。頬が熱い。

「いや、君はどこか違うね」

子爵に連れて行かれたのは、大きな窓がある比較的小さな部屋だった。上品な内装で、これなら落ち着いてお茶ができそうだ。

「うわあ……」
テーブルにはところ狭しとならぶお菓子と軽食。

(ティースタンドなんて初めて見た!)

窓際にセッティングされていて、椅子に座ると外の庭が見えた。
今は初夏で、きれいに整えられた花壇にバラのような花が咲いている。

「きれい……」
「お気に召したかな」
「はい!……あ、ありがとうございます、このような素敵なお茶会に……」
「大丈夫だ、マナーも挨拶も強制しない。私相手なら気にすることはないよ」

本当になんでもなさそうに席に着くディナータに、ほっとした。

「……ありがとうございます。慣れていないのはそうなんです……」

前世だって、こんなしっかりしたお茶なんてしたことがない。ファストフード店か、ファミリーレストランで友達と話したことがあるくらいだ。

(あ、会社の人に新歓だってちょっといいお店に連れて行ってもらったっけ)

それくらいの乏しい社会経験だ。
すぐにメイドの人がお茶を持ってきた。押してきたカートに綺麗なカップが並んでいる。
どきどきと待っていると、美人のメイドさんはそっと微笑んでミカにお茶を出してくれた。
思わず頭を下げるのは、前の人生の記憶のせいだ。

「君も下がっていい」
「かしこまりました」

メイドさんは子爵の言葉にお辞儀して、部屋を出ていく。
しばらくお茶とお菓子を堪能し、美味しさに蕩けそうになったところで、子爵は話し始めた。

「君の質問を聞く前に、私の質問に答えてほしい」
「……はい」

何を聞かれるのか、ちょっと緊張してしまう。

「君だけ、他の子どもたちと様子が明らかに違う。昨日も、最近仲間たちのところに来たと言ったな、どういうことか教えてほしい」
「……はい。私は……」

家出をして、あそこにたどり着いたこと。
父親と二人暮らしだったが、毎日暴力を受けていたこと。
仕事はミカがしていて、ほとんど生活費はミカが稼いでいたこと。
仕事をもらえなかった日に、命の危険を感じて逃げ出したこと。
話していくと、本当にどうしてこうなったのだろうと落ち込んでしまう。

前世もそうだったのだ。
幼い頃は両親と妹がいて、あまり裕福ではないが一緒に暮らしていた。
けれど両親の仲は悪かった。どうして毎日ケンカをするのか、分からなくても怒鳴り声や物を壊す大きな音に、妹と部屋の隅で震えて身を寄せ合っていた。
ミカが小学5年の時、両親が離婚をした。
理由は、母親の不倫が分かったからだった。
妹は、父親が違っていた。
妹は母親に連れられてアパートを出ていき、ミカもまた、父親の稼ぎが悪く追い出されるようにその部屋を出た。

母親と妹が出ていってから、本当のミカの苦しい時間が始まる。
行政からの支援でかろうじて生活できていたが、父親は働かず、ミカは中学はなんとか出たものの高校へは進学できずに働きに出た。けれど、稼いできた給料は父親に取り上げられ、数円でも先月よりも稼ぎが悪ければ罵声を浴びせられ、殴られた。

まるで、一緒だったのだ、今のミカと。
転生というものだろうと思う。今の『ミカ』としてちゃんと生きてきた感覚がある。
けれど、なら、どうして同じ苦しみを味わわなければならないのか。
惨めで、むなしい。

――前世の記憶は、そんな父親から逃げ出し、会社に正社員として雇用されて、やっと解放されたと思った18歳の頃までだ。
セオリーというなら、死んでしまったのだろう。よく覚えていないのだが。

(……せっかく、自由になれたのに)

すこし涙が出てしまったが、子爵は今までのミカの人生に泣いたのだと思ったらしい。

「……大変だったようだな」
「そうですね。……い、今も、帰りたくなくて……」
「なら、その件は黙っておこう。君が我慢して父親の面倒を見る必要はない」
「……いいんですか?」

子爵は苦い顔をしてため息をつく。

「ああ、そういう、親で苦労する子どももたくさんいる。君はこうやって違う環境に身を置けたのだ、幸いと思っておくといい」
「はい。あの、子爵にご迷惑は」
「君の父親は下層民だろう。貴族に楯突くならいくらでも黙らせる手はある。……おっと」

手を口元に当てた子爵は、どうやら言うつもりがないことを言ったようだ。

「すまない。どうにも君と話していると子どもだということを忘れてしまう」
「過激だと思ったんですけれど……聞かなかったことにします」
「そうしてくれるとありがたい」

バツのが悪そうな様子を見ると、本気で予定外に口を滑らせたようだ。
それだけ、信用してもらっていると思っていいのだろうか。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

平凡な村人だと思われていた俺、実は神々が恐れる最強存在でした〜追放されたけど、無自覚チートで気づけば世界の頂点〜

にゃ-さん
ファンタジー
平凡な村人・レオンは、勇者パーティの荷物持ちとして蔑まれ、ある日「役立たず」として追放される。 だが、彼の正体は神々が恐れ、世界の理を超越する“創世の加護”を持つ唯一の存在だった。 本人はまったくの無自覚——それでも歩くたび、出会うたび、彼によって救われ、惹かれていく者たちが増えていく。 裏切った勇者たちは衰退し、彼を捨てた者たちは後悔に沈む。 やがて世界は、レオン中心に回り始める。 これは、最弱を装う最強が、知らぬ間に神々を超える物語。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

処理中です...