4 / 34
神様、どうにかしてください
しおりを挟む
拝啓、神様。
今の時期を存じませんので時候の挨拶は省略させていただきます。
さて、神様。
私は前世で何か悪いことをしたのでしょうか。
前世の私はそれはもうひどく臆病で、何をするにも不安がるために失敗することのほうが多く、ずっと親に心配を掛けたりしました。
これは全く自分の後悔するところであり、異世界に転生しておよそ五年が経った今でもなお消えぬ未練です。
せめて突然の交通事故という形の別れでなければ、感謝の言葉なりを伝える親孝行もできたのでしょうが、今となってはただの不孝者にすぎません。
ですが、です。
今私が直面しているこの状況は、その罪の程に対してあまりにも酷じゃないでしょうか。
具体的にはそう、武器やら杖やらを携えた人間の集団が、私の護衛の方々を瞬く間に殺し、私も今まさに殺されようとしている状況です。
そもそも、本当にこの方たちは人間なのでしょうか。
一人は腰の剣に手を掛け、チャキリと鞘から引き抜く音を鳴らしたかと思えば兵士五人を瞬殺しました。
剣を抜いたようにすら見えませんでしたが、どこぞの侍の末裔だったりしませんか。
一人は短い魔法で私の侍女に致命傷を与え、今にも私を殺さんばかりの視線で睨んできています。
おかしいです。あの魔法は私では食材を切り刻む程度の威力しか出ないのですが。
一人は私を見てとても驚いているお姉さんです。
いかにも聖職者という服装でとても穏やかな方に見えます。
いえ、前世の年齢を合わせるとお姉さんと言っていいのかはわかりませんが、殺伐としたこの場で唯一の癒しです。
察するに、私の立場は非常にまずいです。
というのも前世ではうだつの上がらない一般人だった私ですが、このたび転職ならぬ転生をすることで見事にキャリアアップいたしました。
今世の私は何と、魔王の一人娘です。
なんということでしょう。あまりにも荷が重く、命の危険を孕んだ波乱の人生となりそうです。
せめてもうちょっとこう、お金がある貴族の次男坊とか、ある程度の安全と富が確保されたような転生ライフが欲しかったです。
まあ魔王の一人娘というのもこの上なく特別な立場には変わりないのですけれども。
どうしてそのことに気付いたのかと言えば、まあ特別な理由もありません。
物心ついた時には玉座に座っている父の膝の上で、配下の方々に魔王陛下と呼ばれる父を見てきたからです。
私を掌の上に乗せてしまえそうなほどに大きく屈強な父と、それに傅くいかにも魔物という風体をした配下の方々。
そして配下の皆様が私にかけていく王女様という言葉。
ここまで要素が揃ってしまえば、もう現実逃避のしようもないというものです。
そして今、私の目の前にいるのはいわゆる勇者と呼ばれる方々でしょう。
魔王の娘だとばれれば、いかにいたいけな少女であっても抹殺間違いなしです。
将来魔王になりうる存在を、どうして生かしておくでしょうか。
さらにはこのまま一般人のふりをしても私を殺す気に満ち溢れた眼鏡の方がいらっしゃいます。
というより、侍女に庇われた時点で一般人の振りをしても信じてもらえなさそうです。
あたりは一面血みどろ、絶賛絶体絶命、恐怖体験真っ只中です。
しかし私を守るために人の命が失われた以上、何もせず殺されるのは嫌です。
とはいえ幼子の身で逃げることも抵抗することも結果は知れております。
私自身に特別な力があるわけでもなく、魔王の娘でありながらほとんど一般的な人間の女の子と大差ありません。
ゆえにこういう時の手は一つ、神頼みです。
古来より人間は自らの手が及ばない物事の行く末を神様にぶん投げてきました。
今私の手はこの場においてつまようじよりも頼りない木偶の棒でしかありません。
つまり私は今、全てを神様に放り投げてその結果を受け入れるのみです。
両手を組んで目を閉じます。
この世界の神様への祈り方はこれでいいんでしょうか。
二礼二拍一礼のほうが良かったでしょうか。
まあ、こういうのは気持ちが大事だと偉い人も仰っていたような気がします。
ああ、神様、あるいは目の前の優しそうなお姉さん。
どうかか弱い私をお救いください。
差し出せるものなどございませんが、少しばかりのお慈悲をください。
そして私を守るために命を落とされた方々に、どうか少しだけでもお礼を伝えさせてください。
「リリア様の魔法……」
お姉さんの声がします。
リリア、というのは聞き覚えがあります。
お父様の寝室に飾ってある肖像画の女性、私のお母様だそうです。
最も、お母様は私を産んだ時に亡くなってしまわれたそうなので、直接の面識はないのですが。
とても優しい聖女のような方だったそうです。
そうして祈っていると、虚脱感がします。
体の中に流れている見えない何かを抜き取られていくような感覚です。
その見えない何かは体に重要なものなのか、ごっそり抜き取られているせいで少し気分が悪くなってしまいました。
代わりに周囲が心なしか暖かい空気に包まれているような気がします。
ひょっとして、この割と適当な祈りで何かが起きているのでしょうか。
それはそれでまた異世界ファンタジーですね。
また一つこの世界の不思議が増えました。
「この子が、当代の聖女様なの……?」
お姉さんは何を仰っておられるのでしょうか。
私は聖女ではなく魔王の娘なのですが……。
今の時期を存じませんので時候の挨拶は省略させていただきます。
さて、神様。
私は前世で何か悪いことをしたのでしょうか。
前世の私はそれはもうひどく臆病で、何をするにも不安がるために失敗することのほうが多く、ずっと親に心配を掛けたりしました。
これは全く自分の後悔するところであり、異世界に転生しておよそ五年が経った今でもなお消えぬ未練です。
せめて突然の交通事故という形の別れでなければ、感謝の言葉なりを伝える親孝行もできたのでしょうが、今となってはただの不孝者にすぎません。
ですが、です。
今私が直面しているこの状況は、その罪の程に対してあまりにも酷じゃないでしょうか。
具体的にはそう、武器やら杖やらを携えた人間の集団が、私の護衛の方々を瞬く間に殺し、私も今まさに殺されようとしている状況です。
そもそも、本当にこの方たちは人間なのでしょうか。
一人は腰の剣に手を掛け、チャキリと鞘から引き抜く音を鳴らしたかと思えば兵士五人を瞬殺しました。
剣を抜いたようにすら見えませんでしたが、どこぞの侍の末裔だったりしませんか。
一人は短い魔法で私の侍女に致命傷を与え、今にも私を殺さんばかりの視線で睨んできています。
おかしいです。あの魔法は私では食材を切り刻む程度の威力しか出ないのですが。
一人は私を見てとても驚いているお姉さんです。
いかにも聖職者という服装でとても穏やかな方に見えます。
いえ、前世の年齢を合わせるとお姉さんと言っていいのかはわかりませんが、殺伐としたこの場で唯一の癒しです。
察するに、私の立場は非常にまずいです。
というのも前世ではうだつの上がらない一般人だった私ですが、このたび転職ならぬ転生をすることで見事にキャリアアップいたしました。
今世の私は何と、魔王の一人娘です。
なんということでしょう。あまりにも荷が重く、命の危険を孕んだ波乱の人生となりそうです。
せめてもうちょっとこう、お金がある貴族の次男坊とか、ある程度の安全と富が確保されたような転生ライフが欲しかったです。
まあ魔王の一人娘というのもこの上なく特別な立場には変わりないのですけれども。
どうしてそのことに気付いたのかと言えば、まあ特別な理由もありません。
物心ついた時には玉座に座っている父の膝の上で、配下の方々に魔王陛下と呼ばれる父を見てきたからです。
私を掌の上に乗せてしまえそうなほどに大きく屈強な父と、それに傅くいかにも魔物という風体をした配下の方々。
そして配下の皆様が私にかけていく王女様という言葉。
ここまで要素が揃ってしまえば、もう現実逃避のしようもないというものです。
そして今、私の目の前にいるのはいわゆる勇者と呼ばれる方々でしょう。
魔王の娘だとばれれば、いかにいたいけな少女であっても抹殺間違いなしです。
将来魔王になりうる存在を、どうして生かしておくでしょうか。
さらにはこのまま一般人のふりをしても私を殺す気に満ち溢れた眼鏡の方がいらっしゃいます。
というより、侍女に庇われた時点で一般人の振りをしても信じてもらえなさそうです。
あたりは一面血みどろ、絶賛絶体絶命、恐怖体験真っ只中です。
しかし私を守るために人の命が失われた以上、何もせず殺されるのは嫌です。
とはいえ幼子の身で逃げることも抵抗することも結果は知れております。
私自身に特別な力があるわけでもなく、魔王の娘でありながらほとんど一般的な人間の女の子と大差ありません。
ゆえにこういう時の手は一つ、神頼みです。
古来より人間は自らの手が及ばない物事の行く末を神様にぶん投げてきました。
今私の手はこの場においてつまようじよりも頼りない木偶の棒でしかありません。
つまり私は今、全てを神様に放り投げてその結果を受け入れるのみです。
両手を組んで目を閉じます。
この世界の神様への祈り方はこれでいいんでしょうか。
二礼二拍一礼のほうが良かったでしょうか。
まあ、こういうのは気持ちが大事だと偉い人も仰っていたような気がします。
ああ、神様、あるいは目の前の優しそうなお姉さん。
どうかか弱い私をお救いください。
差し出せるものなどございませんが、少しばかりのお慈悲をください。
そして私を守るために命を落とされた方々に、どうか少しだけでもお礼を伝えさせてください。
「リリア様の魔法……」
お姉さんの声がします。
リリア、というのは聞き覚えがあります。
お父様の寝室に飾ってある肖像画の女性、私のお母様だそうです。
最も、お母様は私を産んだ時に亡くなってしまわれたそうなので、直接の面識はないのですが。
とても優しい聖女のような方だったそうです。
そうして祈っていると、虚脱感がします。
体の中に流れている見えない何かを抜き取られていくような感覚です。
その見えない何かは体に重要なものなのか、ごっそり抜き取られているせいで少し気分が悪くなってしまいました。
代わりに周囲が心なしか暖かい空気に包まれているような気がします。
ひょっとして、この割と適当な祈りで何かが起きているのでしょうか。
それはそれでまた異世界ファンタジーですね。
また一つこの世界の不思議が増えました。
「この子が、当代の聖女様なの……?」
お姉さんは何を仰っておられるのでしょうか。
私は聖女ではなく魔王の娘なのですが……。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く
腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」
――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。
癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。
居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。
しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。
小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる