魔王の娘ですが、人類最高支援能力を持つ聖女です ーお前の勇者を連れて来いって、どういうことですかお父様ー

星 高目

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神様、どうにかしてください

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 拝啓、神様。



 今の時期を存じませんので時候の挨拶は省略させていただきます。

 さて、神様。

 私は前世で何か悪いことをしたのでしょうか。

 前世の私はそれはもうひどく臆病で、何をするにも不安がるために失敗することのほうが多く、ずっと親に心配を掛けたりしました。

 これは全く自分の後悔するところであり、異世界に転生しておよそ五年が経った今でもなお消えぬ未練です。

 せめて突然の交通事故という形の別れでなければ、感謝の言葉なりを伝える親孝行もできたのでしょうが、今となってはただの不孝者にすぎません。

 ですが、です。

 今私が直面しているこの状況は、その罪の程に対してあまりにも酷じゃないでしょうか。

 具体的にはそう、武器やら杖やらを携えた人間の集団が、私の護衛の方々を瞬く間に殺し、私も今まさに殺されようとしている状況です。

 

 そもそも、本当にこの方たちは人間なのでしょうか。

 一人は腰の剣に手を掛け、チャキリと鞘から引き抜く音を鳴らしたかと思えば兵士五人を瞬殺しました。

 剣を抜いたようにすら見えませんでしたが、どこぞの侍の末裔だったりしませんか。

 一人は短い魔法で私の侍女に致命傷を与え、今にも私を殺さんばかりの視線で睨んできています。

 おかしいです。あの魔法は私では食材を切り刻む程度の威力しか出ないのですが。

 一人は私を見てとても驚いているお姉さんです。

 いかにも聖職者という服装でとても穏やかな方に見えます。

 いえ、前世の年齢を合わせるとお姉さんと言っていいのかはわかりませんが、殺伐としたこの場で唯一の癒しです。



 察するに、私の立場は非常にまずいです。

 というのも前世ではうだつの上がらない一般人だった私ですが、このたび転職ならぬ転生をすることで見事にキャリアアップいたしました。

 今世の私は何と、魔王の一人娘です。

 なんということでしょう。あまりにも荷が重く、命の危険を孕んだ波乱の人生となりそうです。

 せめてもうちょっとこう、お金がある貴族の次男坊とか、ある程度の安全と富が確保されたような転生ライフが欲しかったです。

 まあ魔王の一人娘というのもこの上なく特別な立場には変わりないのですけれども。



 どうしてそのことに気付いたのかと言えば、まあ特別な理由もありません。

 物心ついた時には玉座に座っている父の膝の上で、配下の方々に魔王陛下と呼ばれる父を見てきたからです。

 私を掌の上に乗せてしまえそうなほどに大きく屈強な父と、それに傅くいかにも魔物という風体をした配下の方々。

 そして配下の皆様が私にかけていく王女様という言葉。

 ここまで要素が揃ってしまえば、もう現実逃避のしようもないというものです。



 そして今、私の目の前にいるのはいわゆる勇者と呼ばれる方々でしょう。

 魔王の娘だとばれれば、いかにいたいけな少女であっても抹殺間違いなしです。

 将来魔王になりうる存在を、どうして生かしておくでしょうか。

 さらにはこのまま一般人のふりをしても私を殺す気に満ち溢れた眼鏡の方がいらっしゃいます。

 というより、侍女に庇われた時点で一般人の振りをしても信じてもらえなさそうです。

 あたりは一面血みどろ、絶賛絶体絶命、恐怖体験真っ只中です。



 しかし私を守るために人の命が失われた以上、何もせず殺されるのは嫌です。

 とはいえ幼子の身で逃げることも抵抗することも結果は知れております。

 私自身に特別な力があるわけでもなく、魔王の娘でありながらほとんど一般的な人間の女の子と大差ありません。

 ゆえにこういう時の手は一つ、神頼みです。

 古来より人間は自らの手が及ばない物事の行く末を神様にぶん投げてきました。

 今私の手はこの場においてつまようじよりも頼りない木偶の棒でしかありません。

 つまり私は今、全てを神様に放り投げてその結果を受け入れるのみです。

 

 両手を組んで目を閉じます。

 この世界の神様への祈り方はこれでいいんでしょうか。

 二礼二拍一礼のほうが良かったでしょうか。

 まあ、こういうのは気持ちが大事だと偉い人も仰っていたような気がします。



 ああ、神様、あるいは目の前の優しそうなお姉さん。

 どうかか弱い私をお救いください。

 差し出せるものなどございませんが、少しばかりのお慈悲をください。

 そして私を守るために命を落とされた方々に、どうか少しだけでもお礼を伝えさせてください。



「リリア様の魔法……」



 お姉さんの声がします。

 リリア、というのは聞き覚えがあります。

 お父様の寝室に飾ってある肖像画の女性、私のお母様だそうです。

 最も、お母様は私を産んだ時に亡くなってしまわれたそうなので、直接の面識はないのですが。

 とても優しい聖女のような方だったそうです。



 そうして祈っていると、虚脱感がします。

 体の中に流れている見えない何かを抜き取られていくような感覚です。

 その見えない何かは体に重要なものなのか、ごっそり抜き取られているせいで少し気分が悪くなってしまいました。

 代わりに周囲が心なしか暖かい空気に包まれているような気がします。

 ひょっとして、この割と適当な祈りで何かが起きているのでしょうか。

 それはそれでまた異世界ファンタジーですね。

 また一つこの世界の不思議が増えました。



「この子が、当代の聖女様なの……?」



 お姉さんは何を仰っておられるのでしょうか。

 私は聖女ではなく魔王の娘なのですが……。
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