魔王の娘ですが、人類最高支援能力を持つ聖女です ーお前の勇者を連れて来いって、どういうことですかお父様ー

星 高目

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魔法を取り巻く世界

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「それでは皆さん、本日は前回の続きで女神様が勇者様と聖女様にお力を授けられたところから読んでいきましょう」

 クルト牧師が教会に集まった子どもたちへ向かって語りかけました。
 その目の前には書見台に置かれた分厚い本があります。
 はあいと間延びした声で返事する子どもたちの様子は様々です。
 目を輝かせていたり、既に眠そうにしていたり。
 
「女神様は恐ろしい力で人々を追い詰めていく魔族の残虐さに涙し、勇者と聖女という希望を~」

 朗々とクルト牧師が読み上げているのは、ナーデ教の教典だそうです。
 人類から見た、勇者と聖女、そして魔王の物語や世界の成り立ちが記されているのだとか。
 ナーデ教の教会ではこうして週に一度子どもたちを集め、その内容を朗読して聞かせています。
 そうすることで、小さい頃から敬虔な信徒を育てているのでしょう。
 寓話のような形であれば、子どもはそれなりに聞いてくれますから。
 実際私の隣に座っているルッツはきらきらと目を輝かせて話に聞き入っています。
 リリィは私の膝枕ですやすやお眠りですが。……兄妹でも全然違うのですね。

 しかしこれは私にとっても人間の価値観や文化に触れるいい機会です。
 ナーデ教は人間の中で最も信仰されている宗教ですから、必然その教義は人々の価値観や文化に大きな影響を与えています。
 であればそれを知ることで私と人間のずれを埋めることができるというわけです。

「また、女神様は人類の中でも優れた人々を選び、彼らに魔法を授けました。このとき女神様に選ばれた人々が、現在の王様や貴族として国を運営しています」

 早速とんでもない言葉が聞こえてきましたね。
 ある程度予想はしていましたが、まさか神様に授けられた特別な力という扱いだったとは。
 前世でいう王権神授説のようなものでしょうか。
 魔族の中では素質に左右される面はあれど、魔法は誰でも使えて当たり前のものでした。
 そこに貴賤はなく、ただ強さだけが全て。魔法の業前に長けていることはその一要素に過ぎません。
 というか女神様が人類のために魔法を授けたというのであれば、魔族がそれを使えるのは一体どういうことなのでしょうね。
 女神様がどちらにも肩入れしていないのか、そもそもいないのか。
 しかしなぜ魔族も魔法を使えるのでしょうだなんて聞くわけにもいきません。
 どうして魔族について知っているのかと聞かれればおしまいです。
 ……私、ルッツやモーガンさんの前で魔法、使ってましたよね?

「彼らは魔法が特定の人々によって独占されることは、我々人類のためにならないと考え魔法の普及に努めました。今では魔法は一般的なものとなっています」

 なるほど、それであまり驚かれることがなかったのですね。
 とはいえやはり誰でも使えるものになっていないのは何か理由があるのでしょう。
 庶民に力を与えることを恐れているだとか、権力の象徴としての意味を保ちたくないだとか。
 人間は魔族と異なり、魔法を扱える素質を持つ人が少ないという可能性も考えられます。
 色んな事情が複雑に絡み合っていそうな、あまり深く考えたくない案件です。

「さて、私たちナーデ教は魔法を扱える人材を広く求めています。皆さんの魔法の素質を測るために、今日は魔測晶まそくしょうを用意しました」

 クルト牧師が懐から、不思議な輝きを放つ丸い水晶を取り出しました。
 わっと場が盛り上がり、やったあ! 俺も魔法使いてえ! などという声が子ども達から聞こえてきます。
 そして列になって順番に魔測晶へ触れていきます。
 一方で私は、リリィを抱きかかえて列に並びながら冷や汗を流していました。
 私、それほど才能はないくせに全属性を使えるんですよね。
 魔族にも魔法の素質を測る魔道具はあり、私もそれを使ったことがあります。
 結果、火・水・風・土・白・黒の六属性を全て使えるものの、肝心の素質が対してないというものでした。
 どんな武器も扱えるけれど、肝心の肉体が貧弱な子どもであるようなものです。
 ちなみに白魔法は治癒や結界を扱い、黒魔法は俗に呪いと呼ばれるものも含むその他定義づけできないものという感じです。
 黒魔法は魔族しか使えないということはないので、そこは少し安心できます。
 
 さてなぜ私があ、やっべえかもなんて内心思っているのかと言いますと。
 私がどういう扱いになるのかわからないからです。
 恐らくこれはナーデ教が魔法を使える人間を子どものうちから抱え込む方策です。
 少しとはいえ素質があるとなれば、少なからず目を付けられるでしょう。
 いえ、もう既に聖女がこの辺りにいることは聖騎士の方々にばれているので目はつけられているのでしょうが。
 
「ルッツ」

 隣でワクワクしているルッツに声を掛けます。
 
「なあに?」
「もし魔法の素質があるとなったらどうなるのですか?」
「なんか、牧師様に魔法を教えてもらえたり、魔法学院への入学許可が得られる? んだってさ」

 なるほど。魔法使いになろうとする人々をナーデ教が本格的に管理しているわけですね。
 驚くほどずぶずぶです。魔法使い=ナーデ教の教徒という図式が成立しています。
 これは魔法使いを巡って各国とナーデリア聖教国との間でなにやら摩擦が起きていそうな気もしますが。

 そんなことを考えているとルッツの番が来ました。
 彼は水晶の前で少しためらったかと思うと、一気に手を伸ばして水晶に触れ――何も起きませんでした。

「やっぱダメかあ」

 そう言って彼は肩を落とします。
 魔法を扱う素質があればこの水晶は属性に応じた色の光を放ちます。
 触れて何も起きなかったということは、才能がないということ。
 それは勇者を目指す彼にとって、残酷な事実に違いありません。

「大丈夫ですよ、ルッツ。魔法が使えなくたって――」

 その瞬間辺りがまばゆい光に包まれます。
 ふと水晶に顔を向ければ、私が抱っこしているリリィが触れていました。
 光の色は白と黒を除く四属性のもの。閃光のように眩しい光は、彼女が相当な才能を持っていることを意味します。

「な、なんと!」

 クルト牧師が驚くのも無理はないことでしょう。これまでの子どもたちに対して、魔測晶はほとんど何の反応も見せなかったのですから。
 仮にこれが魔族でも使われているものと同じものだとすれば、リリィは魔族の上位に匹敵する才能を持っていると考えられます。
 当の本人は、事の重大さがわかっていないようでうっとうし気に目を細めているだけですが。
 リリィが手を離すと、やがて光は収まりました。
 誰もが今起きた事態を飲み込めていない様子で、声の一つも発しません。

 このまま行けば、リリィは天才として教会に敷かれた道の上を歩いて行くことになるのでしょう。
 善も悪もまだわからないというのに。
 起きてしまった以上それが変え難い事実ならば。

 私は魔測晶を思い切り掴みました。
 確かに私が教会に目を付けられることは危険かもしれません。しかし自分が惜しいからと、この子を一人で行かせるだなんてお断りです。
 せめて私だけでもこの子の傍にいてあげたい。
 だから六色に輝いて――パリン――ん?
 パリン?
 少しばかり六色に光ったかと思えば、硬質なもの特有の嫌な音。
 恐る恐る目をやれば、魔測晶は真っ二つに割れていました。
 
 割れてしまったんですが!?
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