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第二秘書 32
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第一議員会館中尾事務所。
高木が電話中である。
「はい! 衆議院中尾事務所です。・・・あ、お世話になります。少しお待ち下さい」
受話器を押えて、
「武智さん、三番に経産省の濱田さんです」
武智「ハマちゃん? おう、ハイハイハイハイ」
武智は急に顔が緩み受話器を取り、三番のボタンを押す。
相変わらずの慇懃な応対である。
「イヤー、いやいやいや、お世話になりまーす」
経産省審議官室。
濱田(濱田庸一審議官)が武智と電話している。
「すいませ~ん、連絡が遅れて。昨日、戻って来たもので」
「お疲れ様でえーす。あの、例の『電事連の件』・・・」
中尾事務所。
武智と濱田が電話に突然応接室のドアーが開く。中尾先生が、
「武智君、ちょっと・・・」
武智は受話器の口元を手で塞いで、
「あ、今、電話中・・・」
中尾先生は大声で、
「良いから、受話器を置きなさい!」
「あッ、ハイ!」
武智は急いで受話器を置く。
経産省審議官室では濱田が受話器を耳にして聞いて居る。
電話の向こうが騒がしい。
と、突然電話が切れてしまう。
濱田は受話器を睨み舌打ちをする。
「チッ! 代議士が居るのか・・・アカンな」
事務所では中尾先生が急に猫なで声で、
「ちょっと来てくれる」
武智は直立して、
「ハイ!」
応接室に入る武智。
先生はソファーを指して、
「ちょっと、そこに座ってくれる」
「ハイ!」
「で、アナタの今日の予定は?」
「ハイ! 十時に中元の酒の段取り、十時半、経済振興部会に代理出席。十一時、赤堀村の村長以下十名の陳情団を総務省へ。その後、直ぐに農水省に連れて行きその後、陳情団と食堂で食事。十三時から地元から「博康会」が国会見学に来ますのでその付き添い案内と・・・」
「もう良い、分かった。そんな事は高木くんでも出来る。アンタはもっと重要な事を忘れてる」
「え? あッ!・・・ハ?」
中尾先生は蔑(サゲス)んだ目で武智を見る。
「これだ。ねえ、これが出来の悪い秘書の実態なんですよ」
中尾先生の声のテンションが徐々に上がって行く。
「・・・目先のニンジンしか見えない。良いですか? 余裕がない! 脇が甘い!気が抜けている! こう云うのを『ヨ・ワ・キ』と言うんだ!」
武智は顔を紅くして、
「あ、ハイッ! 勉強に成ります」
「アナタ、この間の食事会で何を聞いてたの?」
「ハイ! 先生と伴くんの会話です!」
「聞いたらなぜ直ぐに実行に移さない!」
「いや、明日・・・」
「バカ者! 『クイックアンドレスポンス』と云う言葉を知らないのか!」
「いや、あの・・・」
「イヤ、アノ? 水神村はどうした! 山川の婆さんに会って来たのか!?」
「ミズカミ? ヤマカワ? ・・・」
「由紀(ユキ)ちゃんだッ!」
武智は少し考え、頭を掻きながら、
「失礼します。記憶にー・・・」
中尾先生は呆れた顔で、
「赤坂の中華屋だ!」
「あ~あ、 ウエイトレスの由紀チャン!」
「どうした。報告が無いぞ!」
「いや、すっかり」
「スッカリ?」
中尾は呆れた顔で、
「スッカリ? 君は私の秘書を何年やってる」
「ハイ! 三年です!」
「・・・陳情団だとか見学者なんてモノは不動票じゃないか! 婆さんの新鮮な三十票の方がよっぽど大切だと言ったはずだ! 今すぐ群馬に走りなさい!」
「え、今? ハイッ!」
「日々是決戦! 常在戦場! 時は金! 伴くんは何をしている!」
「ハイ! 国交省に」
「コッコウショウ? 後援会長の息子は」
「ハイ! 適時進めて・・・」
「バカ者ッ! 文豪と同じ大学だ。稲大なんかあの蟻男(アリオトコ)を使えば誰でも入れる。そっちの方が先だ。こう云った陳情処理が一番大切だと云う事を、アナタも分かってるでしょう」
「ハイ!」
武智はカラダは固まって叱咤されている。
中尾先生が高木に向かって優しく、
「高木く~ん! 伴くんに直ぐに戻るように連絡取りなさい。少し打ち合わせをしょう」
高木が事務室から、
「あ、ハイ! 直ぐに」
「打ち合わせの後、直ぐに『文教の蟻』の所にアナタと伴くんで行きなさい。カステラを忘れない事! その後、アナタは群馬に戻りなさい。それから地下の売店から湯呑(ユノミ)を三十個。高木く~ん! 売店に湯呑三十、中尾博康で」
高木が事務室から、
「ハイ。売店で湯呑三十個~。何時に・・・」
「夕方で良い」
「ハイ。では四時半と云う事で」
武智は貧乏ゆすりをしながら、頭を伏せて溜息を吐く。
つづく
高木が電話中である。
「はい! 衆議院中尾事務所です。・・・あ、お世話になります。少しお待ち下さい」
受話器を押えて、
「武智さん、三番に経産省の濱田さんです」
武智「ハマちゃん? おう、ハイハイハイハイ」
武智は急に顔が緩み受話器を取り、三番のボタンを押す。
相変わらずの慇懃な応対である。
「イヤー、いやいやいや、お世話になりまーす」
経産省審議官室。
濱田(濱田庸一審議官)が武智と電話している。
「すいませ~ん、連絡が遅れて。昨日、戻って来たもので」
「お疲れ様でえーす。あの、例の『電事連の件』・・・」
中尾事務所。
武智と濱田が電話に突然応接室のドアーが開く。中尾先生が、
「武智君、ちょっと・・・」
武智は受話器の口元を手で塞いで、
「あ、今、電話中・・・」
中尾先生は大声で、
「良いから、受話器を置きなさい!」
「あッ、ハイ!」
武智は急いで受話器を置く。
経産省審議官室では濱田が受話器を耳にして聞いて居る。
電話の向こうが騒がしい。
と、突然電話が切れてしまう。
濱田は受話器を睨み舌打ちをする。
「チッ! 代議士が居るのか・・・アカンな」
事務所では中尾先生が急に猫なで声で、
「ちょっと来てくれる」
武智は直立して、
「ハイ!」
応接室に入る武智。
先生はソファーを指して、
「ちょっと、そこに座ってくれる」
「ハイ!」
「で、アナタの今日の予定は?」
「ハイ! 十時に中元の酒の段取り、十時半、経済振興部会に代理出席。十一時、赤堀村の村長以下十名の陳情団を総務省へ。その後、直ぐに農水省に連れて行きその後、陳情団と食堂で食事。十三時から地元から「博康会」が国会見学に来ますのでその付き添い案内と・・・」
「もう良い、分かった。そんな事は高木くんでも出来る。アンタはもっと重要な事を忘れてる」
「え? あッ!・・・ハ?」
中尾先生は蔑(サゲス)んだ目で武智を見る。
「これだ。ねえ、これが出来の悪い秘書の実態なんですよ」
中尾先生の声のテンションが徐々に上がって行く。
「・・・目先のニンジンしか見えない。良いですか? 余裕がない! 脇が甘い!気が抜けている! こう云うのを『ヨ・ワ・キ』と言うんだ!」
武智は顔を紅くして、
「あ、ハイッ! 勉強に成ります」
「アナタ、この間の食事会で何を聞いてたの?」
「ハイ! 先生と伴くんの会話です!」
「聞いたらなぜ直ぐに実行に移さない!」
「いや、明日・・・」
「バカ者! 『クイックアンドレスポンス』と云う言葉を知らないのか!」
「いや、あの・・・」
「イヤ、アノ? 水神村はどうした! 山川の婆さんに会って来たのか!?」
「ミズカミ? ヤマカワ? ・・・」
「由紀(ユキ)ちゃんだッ!」
武智は少し考え、頭を掻きながら、
「失礼します。記憶にー・・・」
中尾先生は呆れた顔で、
「赤坂の中華屋だ!」
「あ~あ、 ウエイトレスの由紀チャン!」
「どうした。報告が無いぞ!」
「いや、すっかり」
「スッカリ?」
中尾は呆れた顔で、
「スッカリ? 君は私の秘書を何年やってる」
「ハイ! 三年です!」
「・・・陳情団だとか見学者なんてモノは不動票じゃないか! 婆さんの新鮮な三十票の方がよっぽど大切だと言ったはずだ! 今すぐ群馬に走りなさい!」
「え、今? ハイッ!」
「日々是決戦! 常在戦場! 時は金! 伴くんは何をしている!」
「ハイ! 国交省に」
「コッコウショウ? 後援会長の息子は」
「ハイ! 適時進めて・・・」
「バカ者ッ! 文豪と同じ大学だ。稲大なんかあの蟻男(アリオトコ)を使えば誰でも入れる。そっちの方が先だ。こう云った陳情処理が一番大切だと云う事を、アナタも分かってるでしょう」
「ハイ!」
武智はカラダは固まって叱咤されている。
中尾先生が高木に向かって優しく、
「高木く~ん! 伴くんに直ぐに戻るように連絡取りなさい。少し打ち合わせをしょう」
高木が事務室から、
「あ、ハイ! 直ぐに」
「打ち合わせの後、直ぐに『文教の蟻』の所にアナタと伴くんで行きなさい。カステラを忘れない事! その後、アナタは群馬に戻りなさい。それから地下の売店から湯呑(ユノミ)を三十個。高木く~ん! 売店に湯呑三十、中尾博康で」
高木が事務室から、
「ハイ。売店で湯呑三十個~。何時に・・・」
「夕方で良い」
「ハイ。では四時半と云う事で」
武智は貧乏ゆすりをしながら、頭を伏せて溜息を吐く。
つづく
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