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第二秘書 44
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第一議員会館。
中尾事務所。
安藤が出て行った後の応接室。
伴は応接室のドアーをそっと閉めてソファーに座り直す。
武智がテーブルの上のメモ用紙に数字を書きながら、
「伴、・・・さっきの話、分かったか?」
「代議士が言われた大川さんの件ですか?」
「違う! 安藤の話だ」
「 え? まあ。要するに、崎田さんが今回の話し合い(談合)に参加してくれれば総てが丸く収まるんですよね。それにはあの急に浮上して来たフジミ工業さんが何で崎田さんとタッグを組んだか・・・。それが分かれば簡単じゃないですか」
武智は伴を見てわざとらしく、
「ほう。さすが刑事の息子だ。読むね~え」
「で、武智さんは『何で』崎田さんとフジミさんがタッグを組んだと思いますか?」
武智はもっともらしく、
「そりゃあオメ~・・・、崎田とフジミとの間に利害関係があるからでしょうよ」
「リガイカンケイ?」
「フジミなんて聞いた事のねえ名前だ。そんな新参者とJVを組むんじゃ崎田も相当の訳があるんだろう」
伴は感心して、
「へえ~、そうなんですか」
「俺は、こう読んだ。フジミなんて何の後ろ盾も無く表舞台に出られるわけがねえ。と云う事は・・・」
武智は応接室の天井を睨み、
「う~ん。県下でも指折(ユビオ)りな崎田が、何かの工事でフジミと関(カカワ)わっちゃた」
伴は笑いながら、
「何かの工事で、崎田さんがフジミさんの工事の保証人に成ったんじゃないですか」
武智は自分の膝(ヒザ)を叩き、
「そうだ! 『ホショウニン』だ。・・・おそらくどこかの工事で、フジミの手抜きがバレタ」
「検査で手抜きがバレてやり直し! 納期に間に合わない」
「ああ、なるほど」
武智は伴を見て、
「オメー、結構読むなあ」
「そんな事、そんなもんじゃないですか。世の中なんて」
武智は指の爪を噛みながら伴をジッと見てニャッ。
「あんまり先を読み過ぎると長生き出来ねえぞ」
「手が後ろに回る方が良いですよね」
武智はきつい眼で伴を見る。
改まって、
「いずれにしてもその辺を探って、結果、もし工事のチョンボならフジミが崎田に義理を返せば良いて訳だ。崎田としては、下請けか何かのフジミからの金銭的な債務を工事で返してもらおうと云う算段だろう。でなければ崎田だって、ヤバイ橋を渡ってまで叩き合いなんかしたくもねえはずだ。今回、このままフリーにでも成ったら崎田はこのグループから外されるからな。崎田だって、フジミなんてチンケな土建屋と心中なんかしたかねえだろう。大体、崎田の息子は気が短くて地元じゃ評判だ。何かと言うと上を使う」
「ウエ?」
「茂木派の先生だよ」
「崎田さんと関わりを持つ方が居るんですか」
「便覧(国会便覧)を開いて見ろ」
「はい」
武智は両手を思い切り伸ばし背伸びをする。
「あ~あ、崎田に俺みてえな懐(フトコロ)の深~い参謀が居ればなあ。おう! そんな事はどうでも良い」
武智がテーブルの上のメモ帳に、ボソボソと呟(ツブヤキ)きながら、また何かを書き始める。
「要するに、日下(クサカ)工業が五億で出来るって言っていたな。・・・今回のチャンピオンが九億七三〇〇で落としてくれたら、そこからチャンピオンの利益がマックス、25パーセントで・・・約二億四千。残った約七億三千から五億を引くと・・・」
「約二億円です!」
「うん。下請けの日下から大成に六億の見積もりを出させる。どうせ、大成から幾らかの出精値引きが来る筈だ。それが千万としたら五億九千。その九千の中からフジミの義理を崎田に返す」
武智がまた天井を睨んで。
「ただ、フジミのチョンボした義理金(ギリガネ)、いや、崎田が代わって保証した損出が幾らかだ。フジミみてえな低ランクの土建屋が億単位の仕事は任せられねえ。とすると ・・・、仮にその損が三千としたら・・・残りを・・・三人で話し合い・・・」
「三人?」
武智は伴を見て、
「安藤と、堀田(公明党)の所の早川(秘書)とオマエ。・・・なあ、良く出来た話じゃねえか」
伴は自分の名前が出て驚く。
「エッ! 僕ですか?」
「バカ野郎、この位のシナリオ書けなくっちゃ秘書じゃねえ。仮(カリ)に、この話がダメに成っても崎田の下請けを日下にやらせれば良い事よ。所詮、フジミ工業なんてグリコのオマケみてえなもんだ」
「どっちに転んでもコンサルタント料は入るって事ですね」
「そう! 完璧なシナリオだ!」
「でも、金ではなかったら?」
武智は伴を見て、
「うん?」
「だって、その理由(ワケ)を知ってるのは僕と武智さんしか居ないという事ですよね」
武智はニヒルな笑いを浮かべ、伴を見詰める。
「バン、オヌシもワルじゃのう。ベルサーチの背広でも買ってやるか」
「ついでに靴とクルマを」
「何!」
伴と武智は顔を見合わせ、
「ウフ・・・ハハハハ」
武智と伴は大声で笑いながら、二人だけの応接で親指を立ててガッツポーズ。
伴が突然、真顔になり、
「で、枝野クンですの件ですが」
「そんなの放っとけ! 大川サンに尻(ケツ)を預けたんだ。オマエには関係ねえ。オメー、気が小(チイ)せえのう」
つづく
中尾事務所。
安藤が出て行った後の応接室。
伴は応接室のドアーをそっと閉めてソファーに座り直す。
武智がテーブルの上のメモ用紙に数字を書きながら、
「伴、・・・さっきの話、分かったか?」
「代議士が言われた大川さんの件ですか?」
「違う! 安藤の話だ」
「 え? まあ。要するに、崎田さんが今回の話し合い(談合)に参加してくれれば総てが丸く収まるんですよね。それにはあの急に浮上して来たフジミ工業さんが何で崎田さんとタッグを組んだか・・・。それが分かれば簡単じゃないですか」
武智は伴を見てわざとらしく、
「ほう。さすが刑事の息子だ。読むね~え」
「で、武智さんは『何で』崎田さんとフジミさんがタッグを組んだと思いますか?」
武智はもっともらしく、
「そりゃあオメ~・・・、崎田とフジミとの間に利害関係があるからでしょうよ」
「リガイカンケイ?」
「フジミなんて聞いた事のねえ名前だ。そんな新参者とJVを組むんじゃ崎田も相当の訳があるんだろう」
伴は感心して、
「へえ~、そうなんですか」
「俺は、こう読んだ。フジミなんて何の後ろ盾も無く表舞台に出られるわけがねえ。と云う事は・・・」
武智は応接室の天井を睨み、
「う~ん。県下でも指折(ユビオ)りな崎田が、何かの工事でフジミと関(カカワ)わっちゃた」
伴は笑いながら、
「何かの工事で、崎田さんがフジミさんの工事の保証人に成ったんじゃないですか」
武智は自分の膝(ヒザ)を叩き、
「そうだ! 『ホショウニン』だ。・・・おそらくどこかの工事で、フジミの手抜きがバレタ」
「検査で手抜きがバレてやり直し! 納期に間に合わない」
「ああ、なるほど」
武智は伴を見て、
「オメー、結構読むなあ」
「そんな事、そんなもんじゃないですか。世の中なんて」
武智は指の爪を噛みながら伴をジッと見てニャッ。
「あんまり先を読み過ぎると長生き出来ねえぞ」
「手が後ろに回る方が良いですよね」
武智はきつい眼で伴を見る。
改まって、
「いずれにしてもその辺を探って、結果、もし工事のチョンボならフジミが崎田に義理を返せば良いて訳だ。崎田としては、下請けか何かのフジミからの金銭的な債務を工事で返してもらおうと云う算段だろう。でなければ崎田だって、ヤバイ橋を渡ってまで叩き合いなんかしたくもねえはずだ。今回、このままフリーにでも成ったら崎田はこのグループから外されるからな。崎田だって、フジミなんてチンケな土建屋と心中なんかしたかねえだろう。大体、崎田の息子は気が短くて地元じゃ評判だ。何かと言うと上を使う」
「ウエ?」
「茂木派の先生だよ」
「崎田さんと関わりを持つ方が居るんですか」
「便覧(国会便覧)を開いて見ろ」
「はい」
武智は両手を思い切り伸ばし背伸びをする。
「あ~あ、崎田に俺みてえな懐(フトコロ)の深~い参謀が居ればなあ。おう! そんな事はどうでも良い」
武智がテーブルの上のメモ帳に、ボソボソと呟(ツブヤキ)きながら、また何かを書き始める。
「要するに、日下(クサカ)工業が五億で出来るって言っていたな。・・・今回のチャンピオンが九億七三〇〇で落としてくれたら、そこからチャンピオンの利益がマックス、25パーセントで・・・約二億四千。残った約七億三千から五億を引くと・・・」
「約二億円です!」
「うん。下請けの日下から大成に六億の見積もりを出させる。どうせ、大成から幾らかの出精値引きが来る筈だ。それが千万としたら五億九千。その九千の中からフジミの義理を崎田に返す」
武智がまた天井を睨んで。
「ただ、フジミのチョンボした義理金(ギリガネ)、いや、崎田が代わって保証した損出が幾らかだ。フジミみてえな低ランクの土建屋が億単位の仕事は任せられねえ。とすると ・・・、仮にその損が三千としたら・・・残りを・・・三人で話し合い・・・」
「三人?」
武智は伴を見て、
「安藤と、堀田(公明党)の所の早川(秘書)とオマエ。・・・なあ、良く出来た話じゃねえか」
伴は自分の名前が出て驚く。
「エッ! 僕ですか?」
「バカ野郎、この位のシナリオ書けなくっちゃ秘書じゃねえ。仮(カリ)に、この話がダメに成っても崎田の下請けを日下にやらせれば良い事よ。所詮、フジミ工業なんてグリコのオマケみてえなもんだ」
「どっちに転んでもコンサルタント料は入るって事ですね」
「そう! 完璧なシナリオだ!」
「でも、金ではなかったら?」
武智は伴を見て、
「うん?」
「だって、その理由(ワケ)を知ってるのは僕と武智さんしか居ないという事ですよね」
武智はニヒルな笑いを浮かべ、伴を見詰める。
「バン、オヌシもワルじゃのう。ベルサーチの背広でも買ってやるか」
「ついでに靴とクルマを」
「何!」
伴と武智は顔を見合わせ、
「ウフ・・・ハハハハ」
武智と伴は大声で笑いながら、二人だけの応接で親指を立ててガッツポーズ。
伴が突然、真顔になり、
「で、枝野クンですの件ですが」
「そんなの放っとけ! 大川サンに尻(ケツ)を預けたんだ。オマエには関係ねえ。オメー、気が小(チイ)せえのう」
つづく
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