運命と宿命(刑事の子)

具流次郎

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13頁 叱られて

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 雨の夜(シゲルの自宅)。
窓ガラスを雨水がつたわる。
道子が憲司の傷の止血をしている。
救急車が静かに玄関の前に停まる。
玄関のガラス戸を叩く音。
玄関に向かおうとする道子に憲司が、

 「待て、道子! 包丁を抜け」

驚く道子。

 「え!」
 「包丁が刺さってたらまずい」

道子は急いで包丁を抜く。

 「うッ・・・」

憲司は救急隊員の肩を借り、足を引きずり苦笑しながら車に乗り込む。
救急車が走り去る。

 翌朝(警察署)。
廊下を松葉杖を突いた憲司が歩いて来る。
すれ違う弘子。

 「あら、石原さん。その脚どうされました?」
 「へへへ、昨夜ユウベ飲み過ぎちゃってねえ。自転車で転んじまった」

弘子は呆れた顔で、

 「石原さん、お酒もほどほどにしなくちゃ」
 「署長みたいな事いうなよ」

弘子が笑う。

 「あ、昨夜(ユウベ)遅く、町でシゲルちゃんに会いましたよ。塾に通ってるんですって?」
 「シゲルと会った? ジュク?・・・」
 「? どうかしました」
 「あッ、いや、アイツも来年は高校受験だからな」

 シゲルの自宅。

 「どこに行っちゃたのかしら・・・」
 「放ホとけ。その内に戻って来る」
 「そんな事言っても、お金も持ってないし、自殺でも・・・捜索願い」
 「バカ! そんなモノ出せるか」

 夕方。
シゲルが家の前の麦畑の中から自宅を覗いている。
チャーコ(猫)が屋根からシゲルを見ている。
庭で干した布団を叩いている道子。
自転車の倒れる音。

 「ガチャン」

道子が道路に出て来る。
倒れているシゲルの自転車と傘。
道子が驚いて、

 「シゲル? シゲルッ! 出てらっしゃい!」

麦畑の中から顔を出すシゲル。
シゲルが畑から出て来る。
道子の目から涙が滲(ニジ)み出る。

 「バカ、どこに行ってたの! 心配したじゃないか」

道子は俯いているシゲルを抱き締め、

 「父ちゃんも心配してたんだよ。オマエの事、何とも思ってないから」

 夕方。
憲司が松葉杖を突いて職場から戻って来る。
居間で正座して俯うつむいているシゲル。
憲司がシゲルの傍に近寄る。
シゲルの頬を思い切り平手で殴る憲司。
道子は驚いて、

 「父さんッ!」

シゲルの目から涙が溢れ出す。
憲司がシゲルを見つめ静かに、

 「風呂に入れ」

頷(ウナズ)くシゲル。
風呂上りのシゲルが俯いてテーブルの前に座る。
憲司は椅子に座って新聞を見ている。
シゲルが憲司に近づいて、

 「父ちゃん・・・」
 「うん?」
 「足・・・だいじょうぶ?」

憲司は苦笑して、

 「・・・痛てえ」
 「ごめんなさい」

憲司は新聞を見ながら。

 「へへへ、シゲル・・・」
 「え?」
 「もう包丁はよせ」

道子が台所でそっと涙を拭く。
                つづく
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