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黒いコートの人
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日も暮れてアミーゴの看板にも灯りが点る。
常連の客達の出入りも激しくなる。
具流氏がブックコーナーで立ち読みしている。
すると・・・。
店の外を通り過ぎる一台の「台車」。
『黒いコートを着た男』が台車を押している。
台車には荷物が山のように積んである。
龍太郎は何気なく、通り過ぎる台車を見ている。
暫くすると台車が戻って来た。
店の前に台車を停めて、黒いコートの男性は消えてしまう。
前髪にカールを巻いた常連の女性客(飯田さん)が店に入って来る。
飯田「だ~れ、あそこに台車置いた人(シト)~。邪魔ねえ。お店に入れないじゃない。オーナー、何とかしてちょうだい」
龍太郎「あ、すいません」
龍太郎は急いで店を出て、入り口をふさぐ台車を移動する。
と、突然、通りの前の駐車場から黒いコートを着た小柄な「老人?」が出て来る。
老人は龍太郎が台車を移動した事に腹を立てているようである。
そして、・・・何か怒鳴った。
男 「うーう。ウガ、うが、うがーッ!」
男は龍太郎に近づいて来る。
もの凄い「臭い」が、男の周囲に漂っている。
龍太郎は後ずさりしながら店に入って来る。
龍太郎に続き、男も店に入って来る。
一瞬、客と店員はその男の姿と臭いに驚き身構える。
男は売り場のあらゆる所を触(サワ)り始める。
具流氏は黙って足早に店から逃げ出す。
静子は我に返り、
静子「あ、い、いらっしゃいませー・・・」
男が売り場の奥に入って行く。
龍太郎は距離を置いて、
龍太郎「お客さん。何かお探しですか」
男は黙って菓子コーナーに行き、何かを漁っている。
龍太郎がもう一度、
龍太郎「お客さん、あの~、何か・・・」
男は一言、
男 「クッパエビセン(カッパエビセン)!」
龍太郎「あ、エビセンですか。エビセンはこちらです」
龍太郎は急いで棚から「カッパエビセン」を取ってカウンターに持って来る。
龍太郎「お客さん!こちらにお持ちしました」
男はまた怒り始める。
男 「ココぬぃ置いどげー」
龍太郎は老人の言葉を無視して、
龍太郎「お客さ~ん、こちらー」
男は無視された自分の言葉にプツンと切れたらしく、垢だらけの手でいたる所を触(サワ)り始める。
龍太郎は、
龍太郎「あ、お客さん、ダメ! 勘弁してくださいよ~。このカッパエビセン、差し上げますから、どうぞ、どうぞこちらへ」
龍太郎はドアーの方に手招きをする。
男はカウンターに行き、垢だらけの手で杏子に代金を渡す。
杏子は後ずさりしながら手を伸ばし、指先で小銭をつまむ。
静子、モンサ、弘美達は、男に距離を置きながら固まって杏子と男を観ている。
杏子「ア・リ・ガとうございます」
杏子も急いで男から離れる。
男は大声で、
男 「フクローッ!」
杏子「あ、すいません。はい!」
杏子がカウンターの下から小さなレジ袋を取り出し、手を伸ばして渡す。
男は更に大声で、
男 「ディカイノー!」
杏子も大声で、
杏子「は~いッ!」
杏子は急いで「L袋」に換えて、カウンターの上に投げる様に置く。
男は袋を握り締めてレジカウンターに寄り掛かり、身体を翻(ヒルガエ)す。
両手をカウンターの上に載せ、垢だらけの手で「ペタペタ」と叩き始める。
『恐ろしい男』である。
男は、観ている客達を酔った目でゆっくりと一周する。
客達は一瞬たじろぐ。
男は「ゲップ」を一つ吐き、深いため息を吐く。
龍太郎が店を中々出て行かない「この客様」に、
龍太郎「お客さん!さあ、帰りましょう」
男 「ウン?・・・ガッパイビセン!」
男が怒る。
龍太郎が優しく、
龍太郎「こちらに有りますよ」
とエビセンの袋を見せる。
男が龍太郎に近付き、エビセンの袋を奪い取る。
龍太郎「あッ!・・・ありがとうございます」
エビセンの入った袋を「台車」のハンドルにくくり付ける男。
台車にはあらゆる「生活道具」を載せ、ハンドルには酒、鍋、コップなどが、ぶら下がっている。
男は龍太郎の顔を見て、
男 「ウルへーッ!(うるせー)」
と一言。
物凄い「臭い」を残して、台車を押しながら道路に消えて行く。
龍太郎は台車が去って行く事を確認、男の背中
に、
龍太郎「ありがとうございま~す。また起こし」
急いで、店に戻る龍太郎。
呆気に取られている杏子と弘美。
龍太郎が、
龍太郎「何を見惚れている。早くカウンターを拭いて!お待たせしました。お客さま~、どうぞ~」
もとの賑わいに戻った店内。
飯田がカウンターに来て、杏子に、
飯田「大変ねえ。でも、お客サンですもんねえ。高校生?」
杏子「はい」
飯田「あら~、エライワ~。頑張ってねー」
杏子「あ、はい!」
飯田はカウンターの上に豆腐を置く。
杏子をジッと見て一言。
飯田「今夜は、湯豆腐にしょうかと思って」
杏子「え? はあ。まあ。百八円になります」
飯田はエプロンのポケットからサイフを取り出し、
飯田「はい!」
杏子「ありがとう御座いま~す」
モンサが休憩を終えて売り場に出て来る。
飯田はモンサを見て静子に、
飯田「あら、外人さん入れたの?」
静子「ああ、ギンちゃんですか?」
飯田はモンサを見て、
飯田「あら~、ギンちゃんて云うの。アメリカの人?」
モンサ「アフリカです」
飯田「アフリカには、ああいう人居ないでしょう?」
モンサ「アアイウ人?」
飯田「そう。ホームレス!」
モンサ「オウ、ケニア ニハ沢山居マスヨ」
飯田「あらー、ケニアに? 日本語、上手ねえ。エライワ~、じゃねー」
飯田が店を出て行く。
静子がスプレーと雑巾を持って、男の手が触れた所の「手垢」を拭き取っている。
つづく
常連の客達の出入りも激しくなる。
具流氏がブックコーナーで立ち読みしている。
すると・・・。
店の外を通り過ぎる一台の「台車」。
『黒いコートを着た男』が台車を押している。
台車には荷物が山のように積んである。
龍太郎は何気なく、通り過ぎる台車を見ている。
暫くすると台車が戻って来た。
店の前に台車を停めて、黒いコートの男性は消えてしまう。
前髪にカールを巻いた常連の女性客(飯田さん)が店に入って来る。
飯田「だ~れ、あそこに台車置いた人(シト)~。邪魔ねえ。お店に入れないじゃない。オーナー、何とかしてちょうだい」
龍太郎「あ、すいません」
龍太郎は急いで店を出て、入り口をふさぐ台車を移動する。
と、突然、通りの前の駐車場から黒いコートを着た小柄な「老人?」が出て来る。
老人は龍太郎が台車を移動した事に腹を立てているようである。
そして、・・・何か怒鳴った。
男 「うーう。ウガ、うが、うがーッ!」
男は龍太郎に近づいて来る。
もの凄い「臭い」が、男の周囲に漂っている。
龍太郎は後ずさりしながら店に入って来る。
龍太郎に続き、男も店に入って来る。
一瞬、客と店員はその男の姿と臭いに驚き身構える。
男は売り場のあらゆる所を触(サワ)り始める。
具流氏は黙って足早に店から逃げ出す。
静子は我に返り、
静子「あ、い、いらっしゃいませー・・・」
男が売り場の奥に入って行く。
龍太郎は距離を置いて、
龍太郎「お客さん。何かお探しですか」
男は黙って菓子コーナーに行き、何かを漁っている。
龍太郎がもう一度、
龍太郎「お客さん、あの~、何か・・・」
男は一言、
男 「クッパエビセン(カッパエビセン)!」
龍太郎「あ、エビセンですか。エビセンはこちらです」
龍太郎は急いで棚から「カッパエビセン」を取ってカウンターに持って来る。
龍太郎「お客さん!こちらにお持ちしました」
男はまた怒り始める。
男 「ココぬぃ置いどげー」
龍太郎は老人の言葉を無視して、
龍太郎「お客さ~ん、こちらー」
男は無視された自分の言葉にプツンと切れたらしく、垢だらけの手でいたる所を触(サワ)り始める。
龍太郎は、
龍太郎「あ、お客さん、ダメ! 勘弁してくださいよ~。このカッパエビセン、差し上げますから、どうぞ、どうぞこちらへ」
龍太郎はドアーの方に手招きをする。
男はカウンターに行き、垢だらけの手で杏子に代金を渡す。
杏子は後ずさりしながら手を伸ばし、指先で小銭をつまむ。
静子、モンサ、弘美達は、男に距離を置きながら固まって杏子と男を観ている。
杏子「ア・リ・ガとうございます」
杏子も急いで男から離れる。
男は大声で、
男 「フクローッ!」
杏子「あ、すいません。はい!」
杏子がカウンターの下から小さなレジ袋を取り出し、手を伸ばして渡す。
男は更に大声で、
男 「ディカイノー!」
杏子も大声で、
杏子「は~いッ!」
杏子は急いで「L袋」に換えて、カウンターの上に投げる様に置く。
男は袋を握り締めてレジカウンターに寄り掛かり、身体を翻(ヒルガエ)す。
両手をカウンターの上に載せ、垢だらけの手で「ペタペタ」と叩き始める。
『恐ろしい男』である。
男は、観ている客達を酔った目でゆっくりと一周する。
客達は一瞬たじろぐ。
男は「ゲップ」を一つ吐き、深いため息を吐く。
龍太郎が店を中々出て行かない「この客様」に、
龍太郎「お客さん!さあ、帰りましょう」
男 「ウン?・・・ガッパイビセン!」
男が怒る。
龍太郎が優しく、
龍太郎「こちらに有りますよ」
とエビセンの袋を見せる。
男が龍太郎に近付き、エビセンの袋を奪い取る。
龍太郎「あッ!・・・ありがとうございます」
エビセンの入った袋を「台車」のハンドルにくくり付ける男。
台車にはあらゆる「生活道具」を載せ、ハンドルには酒、鍋、コップなどが、ぶら下がっている。
男は龍太郎の顔を見て、
男 「ウルへーッ!(うるせー)」
と一言。
物凄い「臭い」を残して、台車を押しながら道路に消えて行く。
龍太郎は台車が去って行く事を確認、男の背中
に、
龍太郎「ありがとうございま~す。また起こし」
急いで、店に戻る龍太郎。
呆気に取られている杏子と弘美。
龍太郎が、
龍太郎「何を見惚れている。早くカウンターを拭いて!お待たせしました。お客さま~、どうぞ~」
もとの賑わいに戻った店内。
飯田がカウンターに来て、杏子に、
飯田「大変ねえ。でも、お客サンですもんねえ。高校生?」
杏子「はい」
飯田「あら~、エライワ~。頑張ってねー」
杏子「あ、はい!」
飯田はカウンターの上に豆腐を置く。
杏子をジッと見て一言。
飯田「今夜は、湯豆腐にしょうかと思って」
杏子「え? はあ。まあ。百八円になります」
飯田はエプロンのポケットからサイフを取り出し、
飯田「はい!」
杏子「ありがとう御座いま~す」
モンサが休憩を終えて売り場に出て来る。
飯田はモンサを見て静子に、
飯田「あら、外人さん入れたの?」
静子「ああ、ギンちゃんですか?」
飯田はモンサを見て、
飯田「あら~、ギンちゃんて云うの。アメリカの人?」
モンサ「アフリカです」
飯田「アフリカには、ああいう人居ないでしょう?」
モンサ「アアイウ人?」
飯田「そう。ホームレス!」
モンサ「オウ、ケニア ニハ沢山居マスヨ」
飯田「あらー、ケニアに? 日本語、上手ねえ。エライワ~、じゃねー」
飯田が店を出て行く。
静子がスプレーと雑巾を持って、男の手が触れた所の「手垢」を拭き取っている。
つづく
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