人間観察記『ドヤの店』

具流次郎

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組合の人

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 龍太郎は腹が立っていた。

 『・・・ナメヤガッテ・・・』

その客は杖を突いた『年配の男』であった。
男は必ず店の空(ス)いた時間にやって来る。
いつもの様に「毎日新聞」と「東京スポーツ」を買って売り場を一周して出て行く男・・・。
だがその日は少し違っていた。
男は売り場の奥へ行ったまま出て来ないのである。
龍太郎は不審に思い、カウンターから奥の売り場を覗く。
すると「線香の煙」の様なものが一筋、天井に上がった。
暫くするとニコチンの、あの嫌な臭いが店内の新鮮な空気を切り裂く。
男は売り場内で、「タバコ」を旨そうに吸って居ではないか。
龍太郎は男の傍に近付き、

 龍太郎「お客さん、タバコはよしましょうヤ」

男は龍太郎を一瞥、無視。
そしてまた旨そうにタバコを一服吸う。
龍太郎はたかぶる気持ちを抑えて、

 龍太郎「お客さん! 店内は禁煙ですよ? タバコは外でお願いします」

すると男は吸いかけのタバコを売り場の床に「ポイ」。

更にそのタバコをサンダルで踏み消し、スタスタと店を出て行く。
龍太郎は怒るべきか一瞬迷う。
が、やはり「この結論」に達した。
急いで店の外に男を追いかける龍太郎。
男の背中越しに、

 龍太郎「オイ、こら、待て! ここは俺の店だぞ。あの床の焦げ跡、どうしてくれんだ」

男は立ち止って振り向き、

 男 「焦げ跡? オメーが吸うなと言ったから捨てたんじゃねえか。ナンカ文句あんのか?」
 龍太郎「何だと、変なイチャモン付けやがって。オマワリ呼んで話聞いてもらおうか」
 男 「ウルセー!」

その杖の男は一言吐いて、そそくさと立ち去って行く。
龍太郎は完全に切れてしまう。

 龍太郎「こら待てー! オマエ、名前、何て云うんだ! 今、警察呼ぶから待っとれ!」

石田が外が騒がしいので店から出て来る。

 石田「オーナー! 何やってんスか?」
 龍太郎「おう、イシダ。オマワリ呼べ! ふざけやがって。待て、コラ!」
 石田「?また万引きっスか?」
 龍太郎「器物破損だ! いいから早く呼べ!」
 石田「キブツハソン?・・・はい」

石田が売り場に戻り、静子に、

 石田「オーナー、外で喧嘩してますよ」
 静子「ケンカ!?」
 石田「何か、警察呼べッて」

静子は急いで店の外に出て来る。

 静子「アンタ、何やってるの!」

龍太郎が、

 龍太郎「あのオヤジ、営業妨害と器物破損だ! 警察呼んでくれ」

龍太郎は男を追いかけ腕を掴む。

 龍太郎「おい! 逃げるな。きっちり話をつけようじゃねえか」
 男 「何の話をつけんだ? 俺を誰だと思ってる」
 龍太郎「ダレ? だから名前を言えって聞いてるんだ」

ドロッとした目で龍太郎を睨む、杖の男。

 男 「・・・俺の一言でこんな店潰す事なんてワケねえんだ」
 龍太郎「何だと?」
 男 「山谷の組合を呼ぶぞ」
 龍太郎「サンヤのクミアイ? 何だそれは!」

男は渋い声で、

 男 「断酒組合だ」
 龍太郎「ダンシュクミアイ??」

石田が店から出て来て、

 石田「オーナー、一応、オマワリ呼びましたよ」

龍太郎は男の腕を掴み、

 龍太郎「ダンシュクミアイって何だ!」

男は龍太郎の手を振り切り、『酒臭~いため息』を吹きかける。

 龍太郎「う!」

龍太郎の得も言われぬ顔を。
男は杖を突きながら去って行く。

 龍太郎「おい、コラ、クソオヤジ! 二度と来るな。ッたく~、腹が立つなあー」

 ダストボックスの上で『雉トラ猫』が龍太郎を見ている。
                つづく
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