統合失調症

具流次郎

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螺旋階段の踊り場

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 家の門柱に吉村家の三人の名前が書かれた表札が埋め込んである。
舞子は門扉(モンピ)を開け、ドアーをノックした。

 ・・・返事は無い。

ドアノブを回す。
施錠はされてない。
そっとドアーを開け、部屋を覗いた。
暗い部屋・・・。
室内灯のスイッチを入れる。
急に室内が明るくなる。

二階の廊下に「女」が立って居た。

信子(ママ・吉村信子)だった。
灯りに照らし出され、顔だけが異常に白い。
信子は優しく微笑んで、

 「おかえりなさい。ごめんね、迎えに行けなくて」
 「良いわよ。ちゃんと一人で帰って来れたんだから。パパは?」
 「パパ? ああ、寝てるわよ。具合が悪いみたい。ちょっと呼んで来るわね」

奥のアトリエ(パパの部屋)のドアーを開けて中に入って行く信子。

舞子は室内を見まわした。

 「あの時と変わってない」

壁に龍太郎(パパ・吉村龍太郎)の描いた赤一色の絵、『能登の夕日(二百号)』が掛って有る。

龍太郎は『輪島塗の下絵作家』である。

信子が龍太郎の部屋から出て来て、階段を降りて来た。
後を追うように白い猫(リサ)も降りて来る。
螺旋階段の踊り場に立ち止まり、

 「ごめんなさい、パパやっぱりダメみたい。何も話さないの」
 「そう。・・・良いわよ。どうせパパ、アタシのこと嫌いなんだから」
 「そんな事ないわよ。パパはアナタの事を一番心配していたの。アナタの事が大好きなの」
 「・・・道路が崩れていたわよ。大きな地震があったみたいね」
 「あら、そお」
 「えッ? ママ、知らないの?」
 「表に出ないから」
 「買い物は?」
 「全部、届けてもうの」

舞子はソファーに座って、

 「ねえ、ママ。此処に来て。聞きたい事が有るの」
 「何? 話して」
 「此処に来てよ。私もう治ったんだから」
 「だめよ、まだ。仮の退院でしょ」
 「あのね、この家って誰も住んでない事に成ってるみたい」

信子は笑いながら

 「誰が言ったの、そんな事」
 「え? っていうかその人この家はもう無いって言ってたわ」
 「そんな事ないでしょう。アナタはちゃんとこの家に戻って来たんだし、パパもママも、ほらリサだって此処に居るじゃない」
 「そうよね。おかしいわよね。私も此処に居るんだから」
 「あ、舞ちゃん? おなかが空いたでしょう。アナタの好きなケーキを焼いといたの」
 「え、本当! 嬉しい。何ヶ月ぶりかしら、ママの作ったケーキを食べるなんて」
 「舞ちゃんが元気に戻って来たら食べさせてあげようと思って」

突然、部屋の電灯が点滅し始める。

 「あら? どうしたのかしら」
 「だから外で道路工事してるみたい」

部屋の灯りが一斉に消える。
二階から龍太郎の怒鳴る声が聞こえる。

 「お~い! いいかげんしてくれないか。絵が描けないじゃないか」

暫くして灯りが点く。

 「・・・パパ、仕事してるの?」

信子は何かを隠すか様に、

 「え? あ、今、ベッドで寝て居たのに。おかしいわね」
 「ママ、上に行っても良い?」
 「だめ!」
 「私、二階に上がりたいの」
 「だめよ。二階はアナタにはまだ無理。上がれないわ」
 「えッ? なぜなの」

信子は急に話しを逸らし、

 「あ、そうだ。一ヶ月前にアナタに手紙が来てたわよ。そこの暖炉の上に置いてあるわ」
 「手紙?」
                つづく
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